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開発と隣合わせの生き物たち

 地方の水族館を訪れるときに楽しみにしているのが、地元の海や川を再現した水槽。訪れた土地で、できれば海や川に潜りたいところだけど、そんな訳にもいかない。地元の生態系を凝縮して見せてくれる水槽は、その土地の自然や土地柄、風土を知るのに手っ取り早い。

 ところで、都内の水族館の「地元水槽」はどんな感じかというと、東京湾や多摩川、荒川などを再現していることが多い。その中で、僕のツボにはまったのが、しながわ水族館にある「東京湾 品川埠頭岸壁」の水槽。

 岸壁というのは、巨大なコンテナ船の荷揚げや積込をするための施設。コンクリート製の床や壁があって、その上でキリンみたいな赤いクレーンが積荷をさばいている。

 品川埠頭水槽は、その岸壁の目の前の海を再現している。水槽にはマアジ、アカエイ、クロダイ、スズキ、ウツボなどの魚に加え、壁にビッシリと付いたフジツボやムラサキイガイがいる。




 東京湾の岸壁なんて、工業地帯の近くだし、廃水で海が汚れてそう。干潟はないし、酸素が薄いし、底にはヘドロがたまっていそう。というイメージを僕は抱いている。しかし、水槽には元気な魚の姿があり、さらに水槽横の展示は、開発によって変化してきた環境で生きている生き物たちを「たくましい」と表現していた。

 開発を一方的に否定せず、むしろ環境が変わってもそこに暮らす生き物たちの「強さ」にスポットライトを当てていたのがとても印象的だった。僕はこの、開発と環境保全のどちらにも寄りすぎない絶妙な展示が、非常に前向きに感じられて、気に入っている。

 豊かな暮らしを支えるための開発や人為的な活動は、簡単に手放せるものではない。でもその横で暮らしている生き物から目を背けてはいけない。東京湾では(東京湾に限らないけど)、人間が活動している状態での自然が真実である。ここでは、開発と環境保全がどこかしらでバランスを取ろうとしている。

開発と環境保全。どちらが良い悪いではない。共存していくために頭を使っていきたい。そういうことを考えさせるこの展示が好きだ。

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