着ぐるみの肌タイツに「ほくろ」を描く
念願かなって朝香果林の着ぐるみで同人誌の売り子をするという実績を解除したのですが、頒布物以外に、このとき初めてお見せすることができたものがありました。それは、朝香果林の胸元(デコルテ)にある「ほくろ」です。
着ぐるみは、頭と体が「別パーツ」です。ですから普通、着ぐるみの「体」にあたる肌タイツをキャラクターごとに用意する必要はありません。しかし、体に特徴がある場合は別です。たとえば、刺青などの紋様があるキャラクターや、皮膚の色が特殊だったりする場合は、そのキャラクター用の肌タイツを用意することになります。朝香果林の場合は、鎖骨の下に3連のほくろがあり、しかも彼女自身がそれをチャームポイントとして使っている設定があるので、キャラクター表現上避けては通れないのがこの「ほくろ」です。
普通のコスプレであればメイクで表現できる「ほくろ」ですが、着ぐるみの肌タイツ(ボディーファウンデーション)に表現するときはちょっと大変です。
肌タイツのほくろの表現に悩む
肌タイツについては、以前書いた記事をご覧ください。
肌タイツは、衣類としてはかなり特殊なものです。過酷な使われ方に対応するため、かなり特殊な布を使い、かなり特殊な裁断・縫製作業を経て作られるものです。したがって、肌タイツは決して安いものではありません。
そのような肌タイツの上にどのように「ほくろ」を表現すればよいのか。考えた方法は3つありました。
シール
刺繍
直接描く
シールのメリット・デメリット
最初に試したものの結局やめたのがこの方法です。直径3mm程度の黒丸シールをほくろに見立てて、肌タイツを着用したあとに左鎖骨下に貼っていくというものです。
メリット
貼る位置を間違えても肌タイツに致命的なダメージを与えることなく何度でも貼り直せる。
他の人が朝香果林の着ぐるみを着る場合でも対応できる。
デメリット
剥がれやすい。
ヘラでシールを台紙から剥がして鏡を見ながら貼っていくという繊細な作業が着替え中に必要で、時間がかかる。
肌タイツに適したシールなどというものはないので、試行錯誤が必要になる。
特に剥がれやすいのは致命的でした。
刺繍のメリット・デメリット
知人から提案された方法ですが、結局試すことのなかった方法です。ほくろの位置に直径3mm程度の黒丸を刺繍していくというものです。
メリット
位置を誤ってもやり直せる。
デメリット
やり直せるとはいえそれには手間と時間がかかる。
肌タイツの伸縮性や私自身の腕前を考えると、無限に時間を喰うと考えられることから、この方法は現実的ではありませんでした。
直接描く方法を採用
そこで最終的には、肌タイツにほくろを直接描く方法をとることにしました。
メリット
ひとたび描いてしまえば肌タイツの寿命が来るまで落ちることはない。
デメリット
他のキャラクターの肌タイツとしては使えなくなる。
位置を誤るとやり直せないうえ高価な肌タイツが無駄になる。
他のキャラクターの肌タイツとして使えなくなることはそこまで大きな問題ではないのですが、間違った位置に描いてしまったら取り返しがつきません。肌タイツの伸縮性を考えると、方法を慎重に考える必要がありました。
肌タイツにほくろを直接描く方法を考える
直接描くとなった場合、次は誰が描くかという問題につきあたります。
最初は肌タイツのメーカーに描いてもらうことを考えました。私は「ハダタイ.jp」の肌タイツを使うと決めているので、当然ながら相談先もハダタイ.jpでした。相談した理由は、肌タイツをより知っているのはメーカーである以上、自分で描くよりも肌タイツのメーカーに描いてもらう方が確実だろうという想像でした。
ハダタイ.jpに断られる
ところがこの目論見は崩れます。
ハダタイ.jpにメールで相談を持ちかけたところ、直接説明してほしいと頼まれました。ハダタイ.jpのミーティングルームに行って、プリントアウトしたキャラクターのビジュアルも見せたのですが、結果としては、お断りとなりました。ハダタイ.jpでも肌タイツにほくろをいれてほしいというオーダーを受けたことはなく、肌タイツの狙った位置に確実にほくろを描くという技術は持ち合わせていなかったのです。ハダタイ.jpでほくろを描いた肌タイツを、いざ試着してみたら位置が違ったとなったら、お互いにとって大ダメージです。
試し描き
そこで私は、ハダタイ.jpから納品された肌タイツに、自分で直接ほくろを描くことを決意しました。
ですが、いきなり描くのはさすがにリスキーです。そこで、まずは試し描きをしました。幸いなことに、私はすでに、ハダタイ.jpの「みやび」生地肌タイツを2、3着持っていたため、試し描きができる端切れを用意できました。この端切れを使って、肌タイツに最も適した布用マジックを探すとともに、描き心地や生地にチャコペンシルが載るかどうかも確認して、実際に描くための手順を慎重に考えることにします。
用意した布用マジックは4つ。
三菱鉛筆「なまえペンパワフルネーム」
パイロット「なまえペン2役」
ゼブラ「おなまえマッキー」
サクラ「マイネーム名前書き用」
私が見た限りですが、いちばんにじみが少なく、「ほくろ」の丸っこさがよく出ているのはM、つまり三菱鉛筆の「なまえペンパワフルネーム」だと思いました。なお、この端切れはこのあと2回ほど実際に洗濯にかけ、目立つ色落ちがないかどうかも確かめています。
また、位置を記録するために当初はチャコペンシルを使おうと思っていたのですが、肌タイツの生地にチャコペンシルは載らないことも分かりました。
そこで、最終的には以下の手順で肌タイツにほくろを描いていくことにしました。
肌タイツを着て、「ほくろ」を描く予定の位置を囲むようにマスキングテープを貼ります。そして肌タイツにではなくマスキングテープに鉛筆で印を描いて「ほくろ」の位置を決めます。
一度肌タイツを脱いで、布用油性ペンの極細側で見えるか見えないかくらいの点を打つ。「ほくろ」の大きさは最終的に直径3mm程度になりますが、いきなりそこまで描かないのがここでのポイントです。
再び肌タイツを着て位置を確認し、微調整の方向を決める。
再び肌タイツを脱いで、布用油性ペンの細字側で点を広げる。
再び肌タイツを着て、鏡を見ながら布用油性ペンの極細側で微調整する。
肌タイツを着た状態でないと、ほくろの正しい位置は分かりません。ですから、肌タイツを着たときに位置決めや点を打つ作業を補助してくれる人が必要で、同じ着ぐるみを趣味にしている友人に手伝いを依頼しました。
いよいよ肌タイツにほくろを描く
この先、あまり綺麗ではない写真が出てきますが、ご容赦ください。
さて。
まずは、肌タイツを着ます。そして友人に、「ほくろ」を描く予定の位置を囲むようにマスキングテープを貼ってもらい、マスキングテープに鉛筆で印を描いてもらって、「ほくろ」の位置を決めます。
次に、一度肌タイツを脱いで、布用油性ペンの極細側で見えるか見えないかくらいの点を打ちます。
点を打ったら、再び肌タイツを着て位置を確認します。
微調整の方向を決めます。点はとても小さく、まだほくろには見えません。真ん中の点が少し向かって左に寄っているので、この点は向かって右方向に広げていくことにします。
肌タイツを脱いで、布用マジックでほくろを少しずつ広げていきます。伸縮を考えて、3mmより少し小さいかな?と思ったところで広げるのをやめて再度肌タイツを着て、確認します。
丸がいびつですが、大きさと位置関係はだいたいよさそうです。このあとは、肌タイツを着た状態で、鏡を見ながら、布用油性ペンの極細側を使って自分で調整します。
ほくろが描かれた肌タイツができあがりました。
チャームポイントを再現できてうれしい
時間にしてみれば1時間かかるかかからないかでしたが、何度も肌タイツを着たり脱いだりしたので、とても面倒くさかった、というのが正直なところです。それでも、キャラクターを知っている人が見たときの効果は抜群でした。
着ぐるみには、マスクを取り替えるだけでいろいろなキャラクターになれるという楽しさもありますが、肌タイツに「ほくろ」を描くということは、彼女以外のキャラクターにはなれない肌タイツを作ることですから、いろいろなキャラクターになれるという楽しさを捨てているとも言えますが、それでも朝香果林の「ほくろ」を再現したことには、まったく後悔していません。着ぐるみをきっかけに、作品やキャラクターを好きになっていくことが、いまの私にはとても楽しいことだからです。