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愛しいほどの悲しみと。

「ねえ、旅がこんなに悲しいものだって、私、知らなかった。」

こちらを見向きもせず、ぽつり、と呟いた彼女の言葉は、目の前を流れる川に、吸い込まれるようにして落ちていった。


「どこか遠くへ行きたいんだ。昔みたいにさ、付き合ってよ。」

仕事を辞めた彼女が、学生時代と変わらず、明るく振る舞った声で、電話をかけてきたのを思い出す。


「どうして?楽しくなかった?」

「ううん、楽しかった。」
「田園の風景は綺麗だった。」
「一緒に食べたコロッケも美味しかった。」
「宿のおばあちゃんも、親切で、温かかった。」

一つ一つ、噛みしめるように。

「だからね、明日、帰らなきゃいけないのが、嫌なの。」

彼女は、寂しそうに笑った顔を僕に見せる。


どこかに安息を求める僕らは涼み客のよう。
終わりが来るのを知りながら旅をしては、
思い出と、ほんのりとした悲しみを連れて、日常に戻っていく。
それでも。

「来よう。また、何度でも。」

僕は力強く、返事をした。





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