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Recycle Mafia #2-16 make story

老人は全て素直に語ってくれた・・・・とは思わないが、そう信じる以外3人に選択肢は無かった。

この場所に連れて来られた理由。
そもそも、この場所。それは、横浜の中華街のはずれにある巨大な中華飯店「桃源楼」は、横浜を拠点にする、中華マフィアの本部だ。
中華マフィアと言っても、上海、北京、福建、東北系、台湾、香港、と色々な勢力があるが、ここは今一番勢力がある福建マフィアの本部だ。
数年前までは、歌舞伎町を拠点とする、上海、北京の勢力が大きかったので、福建は池袋を拠点としていたが、福建マフィアは、ある新興勢力と手を組む事で、上海、北京を凌駕した。
その、新興勢力が、中国残留孤児二世が作った、「誇舞羅」という暴走族あがりの不良達だ。
「誇舞羅」は暴走族だけでは留まらず、OBの三十代、四十代は全国に広がり、マフィア化しているという。
つい最近では、準指定暴力団という枠に入った。
しかし、実体をなかなか掴めない日本の警察にはなかなか彼らは厄介な存在になっているのだ。
いち早く彼らに目をつけた福建マフィアは手を組んだ。今や、地下の世界では、この共同体こそが、中華マフィア、いや、日本で暗躍する外国マフィアを掌握しているといっても過言ではない。
「誇舞羅」の存在は3人も知っていた。
3人が高校生の頃から、最強最悪の暴走族と名高かった。「誇舞羅」は残虐性では郡を抜いていたので、たちまち東京では敵は居なくなっていたと言う。
最近でも、7代目が出来て暴走族はあるが、初代~3代目あたりがマフィア化したということは新聞記事で知っていたが・・・

その中華マフィア「共同体」と菊川会は”表向き”は冷戦状態という体を持ち、他の暴力団組織の目を欺き、実は裏では繋がっていた。
近年、マフィアと日本のヤクザ団体は「睨み合い」状態であり、日本の最大組織、関西の「蝶矢組」の呼びかけで海外組織に対抗すべく「帝國睦会」なるものを結成して、”睨み”を利かせていた。
菊川会は睦会の面目上、福建や「誇舞羅」とは一線を置いている状態としている。が、実のところ裏では、手を組んで「蝶矢組」を出し抜いて日本の裏のトップを狙っているという現状だ。

ここまでを予備知識として一気に老人は語った。

では何故?3人がここに連れてこられたか。
3人がカトウ達の件で老人の息子の明に相談されて、色々と動いていることは勿論筒抜けであった。
裏の顔とは別に老人は晩婚ながらも、今の妻との間に2人の子供を授かり、平和な家庭を築いていた。
だから、妻も子供たちもまさか自分の父親が裏の世界の住人、ましてや、大親分などとは夢にも思っていない。
そして表の苗字は「田中」。
3人の行動に気が付いたのは、明がイチに相談を持ちかけた時からだと言う。かなり早い段階だ。

「明が変な暴走族に入って、家で暴力を振るうようになったと思ったら、真美が今度はふさぎこんでしまったんだ。あんなに元気だった真美がだ。おかしいと思って問い詰めると、明きが全部話してくれたよ。私は、家庭には無関心の方でね。子供達は自由奔放に育てているから、明きが暴走族に入っても何も言う事は無かった。だが、明の話を聞いた時、何ていうかな・・・こう、本性が目覚めてしまったのだよ。」

老人は続けた
「真美も明も桜井君を頼っている。直感で解った。この子達が動いてくれるってね。それからは、詳しくはいえないが、部下を動かした。そして、すまないが、ホテルで桜井君と真美の会話を聞かせてもらった。それで決定的になったよ。君たちが動いていることは。私の感が当たったと。」

「んっく、じゃあ何で・・・・」
イチは怒りをかみ締めるように言った。本来自分は口を開かない約束だ。
思わず出てしまった言葉を飲み込んだ。

「そうだよな。言いたいことは解る。だがここからが肝心な所だ。良く聞いてくれ。」
老人はイチを宥める様に話し出した。

明が親に全て打ち明けた段階で、父親としては相当頭にきているはずだ。
なにしろ、息子はリンチにされ、娘はレイプだ。しかもそのDVDが出回っている。
普通の親なら気が狂う。実際母親は気を失って倒れたそうだ。
ただ、この父親は違った。さすが、大親分だ。
冷静にというより、冷徹すぎるくらいに相手を割り出し、対策を練った。
ヤクザとはそういうものなのか?理解がしがたかった。

「私もね、実際は我を失いかけたよ。でもね、この商売が裏の顔だけにね、簡単には動けないんだよ」

それはそうだ。
警察沙汰にでもなれば、裏の顔もばれるし、大変な事になるのが目に見えている。
そして、何より大切なのは「子供」を守ることだ。
子供は子供の社会がある。決して大人には介入できない。例えヤクザの大親分でもだ。
明や真美の将来を一番に考える親だからこそ、そして裏の世界の住人だからこそ、この老人も苦しんだのだろうと3人は思った。

しかし、組が動かなくても、同盟を結んでいるなら「誇舞羅」を動かせばよかったのでは?
と言う疑問が湧いた。
しかしこの疑問もすぐに3人の頭の中では答えが見つかった。
「誇舞羅」も上の人間はマフィアなのでタダでは動かない。そして、こういう事は組にとっても、弱みを握られることになる。組織とはそういうものだ。
同盟と言っても、そこに絆はない。特に、裏社会では。
所詮、弱みを見せれば身内であれなんであれ喰われる。それが、今の裏社会だ。
義理や任侠はマフィアには通用しない。墨東組はいち早くその方針でやってきた組だ。
だから、「睦会」の裏をかいて福建や「誇舞羅」と手を組んでいる。
実際現在の所、「睦会」は暴対法でがんじがらめで、どこも苦しい。
そこを行くと「裏切り」をしてはいるが、菊川会は中華マフィア達と同盟を結びいち早くマフィア化し、トップの組織となりつつある。

なので、要は「自分のケツは自分で拭く」という事なのだと老人は話した。
困って居た所に偶然、助人のように現れたのがシンゴ達だった。

「山崎興業、ディスカスにはうまくたどり着いてくれた。」
老人が言った

今になってイチはすべて老人の思うままに動いていたことを思い出す。
シフトの変更。
真美の出ているDVDを探し当て、発注している履歴。
前原組への連絡。
カトウを拉致して殺すという目的。
拉致されている少女の救出。

3人は深いため息をついた。
こうも自分たちの無力さを実感すると、一気に脱力する。

イチが言葉少なく尋ねた
「じゃあ、月から金までのシフト、それと土日を今週だけ休みな訳って・・・」

「そう。私の思うとおりに動いてくれたよ。君は」
老人は言う。

「だが、この一週間で私も色んなことを手配しなくてはならなかったのでね。忙しいという意味では本当だよ」

しわだらけの笑みを浮かべながら、続けた。

ただ、3人が失敗していたらどうなっていたか?
カトウを逃がしてしまったら?
山崎興業に逆につぶされていたら?
考えたくもない事だった。そしたら、今ここに居ない。今頃どこかの田舎でうどんでも啜っているだろう。
目の前に置かれた封筒の中身をみた。100万は入ってそうだ。

イチの手元をみて老人は言った
「君達は私に依頼されて、したことじゃない。自分たちの意思でしたことだ。だから、私は労働賃金としてお金を払うのではなく、買い取りだ。あの極悪少年の」
老人は続けた
「この取引については、申し訳ないが質問等は受け付けない。こちらの条件をすべて呑んでもらうよ。条件を言っておこう。取引だからね。」
老人は笑顔で、なおも続けた。
「カトウとその友達の少年4人のことは忘れること。 今後も変わりなく今の生活を続けること。以上だ。
桜井君は前原組に行こうとしていたそうだけど、向こうさんには話はつけといたから、今まで通りうちのコンビニとDVDショップで働いてくれ」
それだけ言うと老人は3人の反応を見るように、ゆっくりとお茶を啜った。

3人は背筋が凍る様であった。「買取」「忘れること」・・・容易に今後のカトウの処遇が想像できたからだ。しかし、ここでどうも出来ない無力な3人。「解りました」とだけ言うしかなかった。が、一つだけどうしても聞いておきたい疑問、いや、聞かなくてはならない疑問があった。シンゴは老人に3人を代表して聞いた。

カトウ以外の4人は出頭しているので、彼らの口から「カトウ」の名前が出てくる。
警察は主犯格のカトウの捜索をする。これは当たり前の流れだ。しかし、カトウは見つからない。その時、警察はどう動くのか。シンゴ達に捜査の目が向くのではないか?そして、被害者の家族は?主犯が捕まらないとなれば、警察に更なる捜査を求める。世論もマスコミも黙ってはいないだろう。
様々な疑問がシンゴ達を苦しめた。警察に追われる事だけはまっぴら御免だ。
しかし、そこは裏社会。完ぺきな「処理」をすでに施してあった。
よくパラレルワールドという幻想的な世界が語られるが、事実、今自分たちが住んでいる世界は半分しか見えていない。裏社会は「表」の自分たちがいる世界の真裏に確かに存在する。「裏社会」というより「裏世界」があるのだ。そこには、政治も警察もコンビニさえも、何でも存在する。カトウを含め重罪を犯した少年5人は菊川会によって「裏世界」に引きずり込まれたのだ。
 
「あと、これは提案だがね。君達うちの仕事もしないか?勿論堅気の会社で警備会社なんだけどね。実態は・・・まぁトラブルシューティングっていうやうで・・」

「お断りします。」
シンゴは言った。ヤクザの組織に入ることだけは嫌だった。イチは何か言いかけたが、老人の言葉がそれを制した。

「わかった。けど、もったいないね。君達いい腕してるのに。けど、今後何かあったら相談にのるよ。」
老人は言った。

「すみません」
とだけ言うと、シンゴは大きなため息をついてお茶を飲んだ。勇気を振り絞った発言であった。
もはや質問は無くなっていた。
今後の事はすべて‘この人達‘が引き受けるということ。
3人は無関係でいることで納得した。というより、そうせざるをえなかった。

「話は以上だ。私の家族を助けてくれてありがとう。」
とだけ老人がいうと、ドア付近のガードマン2人がドアを開けた。
すると先程の李と舎とよばれる中国人二人が入ってきた。福建の組織の方々だと紹介された。
李と舎は老人になにやら耳打ちをすると老人は軽く頷いた。
すると、今度は3人に寄ってきて、笑顔で握手を求めてきた。3人は、なすがままに握手を交わした。

「アリガトねイイビジネスデキタ。」
とだけ言ってタバコをふかしながら店を出て行った。

「今の握手ですべて終了だ。本当にご苦労様」
と老人は言った。

3人は嫌な胸騒ぎを押さえることが出来なかった。答えは解っているがどうしても聞きたかった。
「カトウはどうなるんですか?」

「知らないほうが良い。」
とだけ老人は言うと目をつむった。

帰れという合図だった。

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