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Recycle Mafia #2-4 first plan

秋の夜の公園。
噴水前のベンチで、明はひととおり話終えると、安心したようで、ポロポロと涙をこぼした。
イチはそんな明の肩をそっと抱き寄せ、頭をなでてやった。
「よく今まで頑張ったな」
「安心していいぞ。」
 
とだけ言ってやった。が、何の根拠もなかった。
でも心に誓った。奴らを許さない。この町、いや、この世界には要らない。自分でも、背筋が凍るくらい冷徹な思考が背筋を這い上がった。
真美を想った。不憫というより、自分の大切な部分に土足で侵入して散々汚されて、最後に唾を吐いて笑いながら「またな」という餓鬼がそこにいた。
そして、その監禁されている女子高生が心配でならなかった。
とりあえず、明が一通り泣き終わったあと、子供に言い聞かせるようにして、その場で明には幾つか頼みごとをした。
 
先ず、イチがこの件は何とかするから、余計な心配はするな。
親には今後のことは何も言うな。
真美と話すための段取りをとってもらいたい。
早急に何とかするから、辛いかもしれないけど、カトウ達には、今まで通りの態度を貫け。
明が知っている情報を全部話せ。
言い忘れたことがあるなら、逐一メールで連絡しろ。
イチという存在をカトウ達に気づかれるな。
この一件がどういう結果になろうと、明と真美と両親は必ず安全な元の生活に戻してやるから、もう二度とこういう先輩と遊ぶな

ということを一通り約束させた。
話し終え、時計を見るとまだ9:30であった。とは言え、明はまだ中学生。
こんなオッサンと、夜の公園に居たら、オカシイ。怪しまれる。通報される。
 
イチは「じゃあな。頑張るんだぞ!」
と短いお別れを言って、そそくさと、その場を後にした。
虫の知らせと言うのか、この時イチは、なぜかもう明に会える気はしなかった。
正確に言うと、どういう形にしろ、この一件の「カタ」が着いたら、バイトも辞め、みんなともお別れして、また、別の場所に引っ越すことを覚悟していた。
それだけ、この一件は大きな事件の前触れのような匂いがするし、中途半端な覚悟では解決できない。
明との約束も果たせない。イチはそんなことを胸に抱えながら、公園の奥の方、つまり明とは逆方面にゆっくりと歩みを進めていたのだ。これが、イチの考え事をする時の癖で、ゆっくり当ても無く歩きながら、考えるのだ。心にBGMをかけて。
この時のBGMは[Snoop doggy dog]のファーストアルバムがかかっていた。
[snoopdog]になる前の、イカにも西海岸のギャングと言った感じの曲がビッシリ頭の中でリピートし続けた。
冷静のつもりだが、沸騰する怒りを超えた人間としての冷たい「何か」が背筋を這い上がる。
そしてやがてその「何か」に脳までも支配されてしまいそうな恐怖と興奮がイチに襲い掛かっていたのだ。
 
ふと、われに返り、後ろをさりげなく振り向くと、明は飼い主に引きずられている犬のように、ザリザリと砂利を引きずるような歩き方で、駅に向かっていた。少し安心した。
そのまま、歩きながら、イチは時計を見た。
10時近く。今日は日曜日。昨日はみんなで公園で呑んでいたわけだから、今日はいつもの居酒屋に2人はいるとふんだ。
早速シンゴに電話をしてみた。
2コールで電話口にいつもより少し低い声が出た。BGMはミスマッチなラテン系の音楽が流れていたが、いつもの場所だと解った。
「今、ボックス席?」
とだけ聞くと相手も解っているらしく
「早く来いよ。」
とだけ言ってガチャっと音がした。
携帯でなかなかガチャっていう音はしないだろ。と思いながら、小走りで「いつもの場所」へ向かった。
 
イチは店に入ると一気に緊張が緩むのが自分でも解った。
同時に何か決意みたいなものが固まった。
2人に「お疲れ。」とだけ言って、座るといつものレモンサワーをオーダーした。
2人を見て驚いた。
ナチの髪型が一変していた。金髪でドレッドだった頭が、耳が少し隠れる程度のストレートヘアーになっていたのだ。若干ドレッドの名残でパーマがかってはいるが、色も真っ黒だし、隣にいるサラリーマンのシンゴとたいして変わらない。どうしたものか。
そして、いつも日曜のこの時間ともなれば、結構酔っているのに、あまり酔っていないみたいだ。
聞いてみると、この件を考えて、今日は日曜だけど「RBN」の仕事は休み、家で待機して21時に待ち合わせしたとのことだ。気が利いている。
2人とも、事の事態をすべてまだ話してはいないが、なんとなく察しているようだ。
そういう感覚が無ければこういう荒事には向かないとイチは勝手に思った。
 
乾杯を済ませると、シンゴが口を開いた
「で?どんな話だった?」
偉そうに。と思いながらも、話そうとすると普通ヘアーのナチが口を開いた。
「ソレ呑んだらカラオケ行こうぜ♪ オレ久しぶりに歌いたいな」
シンゴもイチも驚いた。
ナチはカラオケなんて行かない奴。と決めていたからだ。失礼だが。
一瞬間があって、2人は理解した。「壁に目有り障子になんたら」だ。
イチは来たレモンサワーを一気に飲み干し、ゲップで「マスター。チェックで」と言うと。
キッチリ割り勘にされ、イチは少々頭にきたが、ここは流してそそくさと「カラオケ」に向かったのだ。
 
部屋に入るなり、ドリンクをオーダーすると、ドリンクが来るまで3人は無言だった。ここでマイクを持つ者はもちろん居なかったのは言うまでもない。
ドリンクが来ると、再び形だけの乾杯を済ませ、形だけとはいえ、カラオケには履歴が残るので、念の為、「長渕メドレー」をボリュームを絞ってかけておいた。
一旦咳払いをしてから本題に入った。
イチは明から聞いたことを、すべて時間をかけ、事細かに話した。
話しているうちに、イチの表情が見る見る強張っていくのが、手に取るようにわかった。
一通り聞いた後シンゴは言った。
「で?どーするつもり? その顔だと、もうなんか「ヤル」っていうのが解るよ。」
 
「うん。明日真美に会って来る。」
 
「それで?」
 
「その先はまだ考えてない。」
 
「・・・・」
 
3人はまた無言になった。
ナチが重い口を開いた。
「1人で動くなよ。」
ギロリとイチを睨む様に言い聞かせる口調で言った。
この一言で、イチは熱くなった。
「じゃあどうするんだ!時間がないんだぞ!現に今監禁されてる娘もいるんだ。」
ナチが冷静に言った
「だからだ」
シンゴは熱い口調で言った
「そうだ!時間もないし、最悪のことも考えられるぞ。それをお前1人で、どう解決するって言うんだ。もっと考えろ!」
 
「考えた結果だ。これは俺1人でどーにかする。誰にも迷惑かけないし、誰も不幸にはしない。・・・たのむ。この件が片付いたら俺はまた1人になってどこかへ行けばいい。もともと1人だったし元の生活に戻る。それだけだ。・・・たのむから。・・・縁を切ってくれ。じゃないと・・・」
と言いながら、イチはシンゴの胸倉を掴み、こぶしを握った手を振りかざした。
ナチが立って言った。
「イチ!それじゃあ何も出来ないぞ。」
「その拳じゃあ、お前も変わらないし、誰も救われないぞ!!」
「格闘技はそんなことのためにやってんのか?憎しみとか、苦しみを与える為だけか?違うだろ?」
イチは泣いた。
次の瞬間、ソファーに座り込み、
「ゴメン。俺が悪かった。本当にゴメン」
とだけ言った。
シンゴが言った。
「背負い込むなよイチ。昔はどうか知らないが、今は3人で1人だ。」
「そう考えなきゃ負けるぞ。」
「俺たちはリサイクル屋だ。ダメになったもの、ダメになりそうなものに新しい人生を与える仕事だ。昼はRBNで夜はスハダクラブだ。昼は物。夜は人。やることは同じだ。ちょっとカッコつけすぎだけどな!」
 
この言葉にイチは泣きながら頷いた。
イチの背中まで上がってきた冷たい悪魔が脳に行く前に、涙となってカラオケ屋の床に流れていったのだ。

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