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Recycle Mafia #2-6 #third plan

秋の夜風を背中に受けながら、小走りで駅に向かう。
いつもなら電車とバスで移動なのだが、今日は仲間を待たせているので、タクシーで行くことにした。深夜料金なので、結構高いが・・仕方が無い。それに今日聞いた内容をいち早く仲間に伝える必要があった。
 
駅前でタクシーに乗り込むと、「木場公園まで」とだけ伝え、シートに深々と座った。
夜の荒川を渡り、江東区に吸い込まれていく。
空は晴れていて、月が良く見える夜だった。
ふと、ipodを取り出し、[MURDER WAS The CASE]のアルバムを呼び出した。こんな重い気持ちは初めてだ。
イチは、ipodのイヤホンを耳にして、音楽に入った。
西海岸のHIPHOP。思いっきりギャング系の悪そうな曲。
こんな曲が今夜には最適だった。おかげで色々と頭も整理され、「これからすべきこと」が次々とうかんだ。そして、ちょっとした糸口を見つける「方法」を思いついたのだ。
 
 
木場公園はみんなが家から一番近いなかでも、比較的大きな公園で、よくシンゴとナチは昔スケートをしていた馴染みの公園だった。
シンゴもナチもイチも平日はそれぞれ、ジムや道場に通っている為、酒を呑まないっていうのもあるが、今回も相当な密談の為、居酒屋ではダメなのだ。かといって、カラオケも金が掛かるので却下。自然と近場で昔から溜まっていた馴染みの木場公園が会議室となったのだ。
 
タクシーが走り出してしばらくすると、少しの安堵感と憂鬱がやってきた。というのも、今回の事件のことじゃなく、仕事のことだ。
今週は明日から金曜までみっちりシフトに入っている。
なんでも、オーナーが別の用事で週末まで店に出られないらしいからだ。
何時も大体DVDショップには居ないのだが、毎日少しでも店に来て、在庫管理と時に仕入れの段取りをして帰るのだ。
DVDショップはそんなに毎日売れるわけではないが、マニアな人向けの為、需要はそこそこあるのだ。
だから一度来たマニアの「ツボ」にはまれば、100%の確率でリピーターになる。
そんな顧客の期待を裏切ってはならないし、1つのタイトルにつき何枚も在庫を抱えるわけではないので、常に在庫はチェックして、補充しなければならないのだ。大型のチェーン店ではなく個人店の為、在庫を沢山抱えられない代わりに、「少ないお客をがっちり放さない」というやり方でオーナーは今までやってきた。賢いオーナーなのだ。
 
今週はそのオーナーが居ないとなると、在庫管理と仕入れの管理をやらなくてはいけないし、何よりイチ1人なので、シフトに穴をあけられないのだ。
こんな時に・・・運が悪い。
ただ、その代わりと言ってはなんだが、週末の土日の連休はコンビニも、パートのおばちゃんがフルで出てくれるし、DVDショップも休んでいいとのこと。つまり土日の連休は動けると言うことだ。
もう、ココしかない。真美に約束したとおりココでケリをつけるしかないと思っていた。
だが、イチはこの時、重要なことを見逃していたのだった。
 
 
三つ目通りまで来て、タクシーを降りると、イチは「第3会議室」を目指した。
「第3会議室」とは、ただの売店前。
夜は勿論売店はシャッターがしまっているが、自販機で飲み物も買えるし、椅子だってテーブルだってある。シンゴはここを第3会議室と呼んでいた。
第1はいつもの居酒屋。第2は錦糸公園、んで第3は木場公園の売店前。
第5まであるらしいが・・・イチはまだ知らない。
 
その会議室に着くと、もう2人とも居た。
シンゴは上下黒のadidasのジャージにsupraのスニーカー
ナチは501のリーバイスにナイキのスニーカー、上はTシャツに古着の白いシャツを着こなしていた。
2人とも、髪型はサラリーマンカット。ナチは相変わらずのヒゲ面。シンゴもうっすらと無精ひげが生えていた。
「お疲れ!」
と、自販機で買った、コーラで乾杯した。
前回散々もめて涙まで流したのに・・・そんな雰囲気は一切無く、いつも通り遊んでいるような雰囲気で二人は接してくれた。イチは「やっぱこの2人が友達で良かった」と居心地の良さを感じた。
イチは真剣な面持ちに戻り少し考え、1から順に、今日真美と話した内容をすべて思い出す限り話した。
シンゴとナチは、口を一切挟むことなく、怪談話でも聞いているかのように、イチに耳を傾けた。
一通り話し終えると、3人ともどっと疲れた表情になった、そして鋭い光が目に宿った。
それまで黙って聞いていたナチが口を開いた。
「糞餓鬼どもめが・・・悪魔だな。」
 
 
高校生最後の夏休み。
柔道部を辞めたナチは、登山をして過ごした。きっかけは、空虚になってしまった自分がいて、それでも、柔道にまだなんとなく未練がある自分がいて。複雑な感情を抱えきれなくなり、山を思いついた。正確に言うと、柔道をやっている頃何処かの本で読んだ「山篭り」というのに憧れていた。
最初は、ハイキング程度から徐々に体を慣らしていき、後半のほうは1人でテントを張って3日間くらいは生活できるようになっていた。とは言っても、初心者なので、よほど開けた場所かキャンプ場を利用する事にしていたが。
いよいよ、夏休みも最後の週となった時に一週間の山篭りに挑戦した。
重い荷物を背負って、長野県の山に入った。そして、キャンプ場と川原などを転々とし、登山を順調に続けた。この時もとあるキャンプ場で最後の3日間を過ごそうとしていた。その場所は川原のキャンプ場で、各々自由な場所にテントを張って良いことになっていて、飯ごうなどの調理器具もセットで貸し出ししてくれるようなファミリー向けのキャンプ場であった。ただ、八月も最後の週に入っており、気温も下がっていることもあり、人気がほとんどなかった。ナチはだからこの場所にした。
その時はすでに先客の3個のテントが張ってあり、ナチは少し距離をとったところに自分のテントを張った。
日も暮れてきたので、手早くテントを張り終わると、夕食の準備を始めた。
すると、遠くのほうから、なにやら男女のはしゃぐような声が聞こえてきた。その声は段々と大きくなり、こちらへ向かっている。
まさかとは思ったが、ナチの居るその川原に入ってきた。
「ここにしよーぜ」
1人の男が言った。まるでナチの存在に気が着かないとでも言うように、その男女五人の団体は、ナチのテントのそばに荷物をどっさりと下ろした。
テントと、幾つかのダンボール。ナチはとても嫌な予感がした。
その団体は男3人女2人で、大学生風の若い団体だ。
こういうキャンプ場には大抵家族連れか、年配の夫婦がいて、落ち着いた雰囲気とばかり思っていた。
その時高校生であったナチはこういう大学生みたいなチャラついた団体が大嫌いであった。周りはナチのように1人で来ている年配の人や、年配の夫婦だけだったので、この団体がとても場違いに感じていた。
そして、この団体の持ち物を横目でチラッと見てみると、ダンボールの中身は大量の酒と弁当とつまみ類であった。
料理をするわけでもなく、ただ酒盛りをしに来たようだ。
時刻は19時を過ぎて少し暗くなってきたので、ナチは、早めの夕食を摂ることにした。飯ごうで米を炊き、近くの野菜の直販所で買った、ナスをいためた。それだけでは寂しいと思い、事前に近くの釣堀で岩魚を一匹分けてもらっていたのを、串に刺して焼いた。ある程度満腹になると、日も暮れたので、寝袋に入って寝ることにした。何時もは目を瞑ると川の音や、小さな人の声が聞こえてくる程度で心地よい眠りに入れるのだが、この日に限ってそれはなかった。ナチのテントの隣ではすでに先の団体が酒盛りを始めており、段々と五月蠅くなるいっぽうだった。
ナチはよほど、自分のテントを移動しようかと思ったが、一日歩きつかれた体で、しかも暗い中でテントを張りなおす勇気もなく、少しの辛抱だとばかりに我慢することにした。が、2時間経っても、3時間経っても、声は止むことなくむしろ余計に増長している様に感じた。
23時をまわり、やっと隣の団体も落ち着いてきて、テントに入った。
ナチはようやく眠れると思い、安心したのもつかの間で、隣のテントから
「やめてってば!」
という女性の声が聞こえる。
「いい加減にして!」
「やだって!!」
と聞こえてくる。
すると
「だまれよ、コラ!隣の坊ちゃんが起きちゃうだろ」
と1人の男が、怒鳴った。
すると、静かになったが、今度は女性のすすり泣くような声が聞こえてきた。
ナチはもの凄く嫌な予感がして、寝袋を出て隣を静かに覗いてみた。
その嫌な予感は的中していた。勇気を振り絞って、テントの外から声をかけた。
「警察呼びますよ」
すると、男が1人出てきた。ナチは、怯まずその男に向かって言った。
「警察呼びますよ!」
すると男は、酔っ払った顔でナチの顔面の至近距離で言った。
「ゴメンネぼく。いいから早く寝なさい。これからは大人の時間だよ」
ナチはキレた。気が着いたらその男に足払いをかけていた。そして、砂利の上に組み伏せると、その男の面をひっぱたいて言った。
「大人なら、やっちゃいけないことくらい解るでしょ!」
すると、ふと自分の体が軽くなる感覚があった。
気が着いたら、後ろからもう1人の男に羽交い絞めにされて、ナチの体は宙に浮いていた。なんて力だ。この時ナチは60㎏はあったはず。
そのまま、砂利の上に投げられると、もう1人の男もテントから出てきて、男は3人になった。
それでも怯まずナチは言った。
「あんあたら、なにやってんだよ。」
高校生のナチ、相手は明らかにナチより年上の男3人。コレだけ言うのに精一杯だった。
すると、先ほどナチを軽々と持ち上げた、体格のいい茶髪の長い髪の男が言った。
「ガキは寝てろよ。」
すると、もう1人の男も
「俺たちに関わるな。さ、行こう。続きを楽しもうぜ」
というと、3人ともナチに背を向けた。
ナチは、一気に自分の頭に血流が登って来るのを感じた。もう、関係なかった。気が着くと一番体格のいい茶髪の長い髪の男の背後におぶさり、裸締めに入っていた。力一杯締めたが、残りの2人が必死に引き剥がしに入ったので、もう少しのところで極まらなかった。
その後は散々暴れたナチであったが、3人には勝てず、ボコボコに殴られ、蹴られた。
テントから騒ぎを聞きつけて出てきた女性2人が騒ぎ出し、ようやく離れたテントの人々も騒ぎに気が着いた。
ナチは気が着いたら、病院のベッドの上だった。
他のテントの人々と女性2人に止められようやく暴力が収まると、男3人はテントと全ての荷物と捨て台詞を残して、車で去って行った。
ナチは川原の石に後頭部を強打して気を失っていたので、女性が救急車を呼んでくれたのだった。
目が覚めて鏡をみてビックリした。激しい暴力が物語るように、ナチは斜視になっていた。東京から迎えに来た両親もとても心配した。
思春期のナチにとって、この斜視はとてもショックでであった。残りの学校生活は何とか眼帯で切り抜けたが、正面を見て話すことが出来なくなり、そのうち人と接するのが嫌になった。卒業後の就職先はもう決まっていたので、面接の必要もなくて良かったが、新たな職場でもなるべく人を避けて、作業に没頭した。この時からなのだ、友達と一切連絡を取らなくなったのは。仲の良かったシンゴですら、ナチは拒否した。その時のナチの目には狂気と悲しみが宿っていた。
 
 
 
珍しく感情を露にしたナチを見るのは久しぶりだった。いや、初めてかもしれない。その目には悲しみの色はなく真っ直ぐな怒りの色があるだけであった。
次にシンゴが口を開いた。
「落ち着いて整理しよう。」
 
シンゴは意外と冷静だった。おそらくこんな局面は初めてだろう。けど、放り出すわけにはいかない。そんな決意が感じられた。
イチが続いた
「この頭のカトウを何とかすれば、こいつらは解散するな。」
 
「あと、これは俺の意見だけど、こいつら全員警察に突き出しても、少年法だなんだって言って、すぐに出てきて、同じ様なことするぞ。んで、真美たちに仕返しが来る」
 
すかさずシンゴが答えた
「解ってる。だから俺たちが動くんだ。」
イチが付け加えた。
「あと、動画のデータも回収しなきゃな」
 
それから3人はしばらく話し合った。
結果
カトウは地元に居られないくらいに痛めつけ、肉体的にも精神的にも「壊す」必要があると言うことになった。
最悪「殺す」こともありえると。
「カトウ」の件は本人と対面した後に決めることにしたが、皆「覚悟」は出来ているということだ。
この時点でイチは密かに実行していることがあった。
それは昔のセキュリティー時代の友人をたどって、沖縄の方のヤクザ「前原組」に連絡を取っていた。
「前原組」とは、戦後直後にできた沖縄を拠点とする「関東」にも「関西」にも属さない組だ。
日本のヤクザ組織はだいたい関東の「菊川会」と「森下会」,、関西の「蝶矢組」などの大きな組織の息がかかっている。だが、この「前原組」だけは、唯一どこの盃を受ける事も無く、単独で大きくなった組だ。沖縄には土地柄、色々な組織の人間が居るが、沖縄を仕切っているのは「前原組」だった。古くからある由緒正しき組と言う事もあるが、関東からも関西からも一目置かれている組ということに間違えはないようだ。
 
イチは、カトウ、マサル、の2人をこの「前原組」に預けるつもりでいた。
しかし、ヤクザが無料で厄介ごとを引き受けてくれるはずは無い。
これをやってしまえば、イチ自身も沖縄に移住して「前原組」のフロント企業で働くことを約束させられていたのだ。
だから、2人には言えないし、出来ればこの方法は使いたくないが、2人を殺人者にしてしまうよりはマシとの事での保険だった。
 
一方シンゴもナチもイチの企んでいる「何か」があることを察知しており、いざという時は、自分ひとりがカトウを「処分」する心算でいた。
 
カトウの「処遇」はこんなところで、具体的な作戦について話合いは進んだ。
先ず、奴らの「背後」の事。
確実にヤクザもしくはそれなりの不良の組織がバックにいると踏んでいた
真美のレイプでは、携帯で動画を撮っている役目の奴がいて、そのデータを使って真美を恐喝するわけでもなく、どこかにそのデータを持っていかなくてはならないという事が、真美の話から判明している。
そして、このデータを持っていく役目は必ずカトウで、カトウは面倒くさそうにしていたのだ。
 
何時もならカトウはこういうお使いの類は手下である、マサル、トモ、ケンタに命令し、その役目が重要でない限り、明、タケなどの無数にいる中学生に「仕事」が振り分けられるのだ。
だから、このデータを届けるという仕事がいかに重要か、そして届け先がカトウの「上」であることに間違いということなのだ。
 
この話を真美から聞いて、バイト先のDVDショップで仕事をしている時に、イチは思いついた。
まさか・・・
「女子高生レイプ物」のDVDはやまのようにタイトルはあるが、レンタルには「本当にヤバイヤツ」は出回らない。代わりに、セルビデオではたまに「本当にヤバイヤツ」が入ってくる。
もしかしたら・・・・
 
このことを2人に話すと、「調べられるか?」ということになり
都合よく明日からオーナー不在の為在庫管理を任されているので、ショップのデータベースでそれらしき販売元を調べてみることにした。
怪しい販売元、をピックアップして、ナチに情報を送信する。そこからはナチの出番だ。
内容を確認し、販売元、プロダクションを調べる。
3人の感が当たっていれば、奴らの背後関係、仕事内容、行動パターンも明らかになる。
 
次に現時点で解っている限りで、奴らの行動パターンをまとめ、拉致されている女子高生の救出、奴らへの攻撃を話し合った。
 
奴らは、土日祝日など、仕事が休みの日に活発することは前にも調べて知っていた。
この頃、奴らは、週末は大概レイプに勤しんでいた。そして、真美がレイプされたのは何時も奴らが使っているホテルだということ。
このホテルはどうやら奴らの「行き着け」で毎回同じホテルを使用していること。
そしてこのホテルは、錦糸町にある「アンデルセン」であることが判明していた。
 
また、週末は、大体平日の溜まり場である、西葛西の公園には喧嘩が好きなロウと手下しかいなく、カトウ、マサル、トモ、ケンタ、はトモの家に集まり、監禁した女子高生をいたぶって遊び、カトウとマサルが車で出かけ、ロウも含めた5人で錦糸町の「アンデルセン」に集合するというパターンだった。
勿論、車で出かけた2人は、後部座席に2人もしくは1人の女子高生を乗せてくるのだ。
こうして深夜まで(時には朝まで)女子高生を弄び、動画を撮り、終わるとトモとケンタで女子高生を荒川の土手に「捨てに」行くのだ。
カトウとマサルは各々家に帰って行くという週末のパターン。
 
実に身勝手な2人。
先ず、この2人から攻めることにした。
あとは、トモ、ケンタを攻め、次に、ロウ、中学生どもという順に、手早く襲っていくことにした。
そして、監禁されている女子高生の救出
ここが、一番の難関だが、一番重要なところでもあった。
何しろ命が関わっている。
 
3人は綿密な計画を立てるため、明日から土曜日まで毎日ミーティングをすることにした。
とりあえず明日には、方向がしっかりする。
なんだか、わくわくする3人がいた。
 
決戦は土曜日。

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