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Recycle Mafia #2-3 deep impact

人の悪口で盛り上がった経験は少なからず、誰にでもあると思う。
それは当たり前のことで、人間である証拠だからだ。
人は他人の悪口を言うことで、「あの人は変だ」「あの人が悪い」っていう、共通認識を持ち、仲間意識を確認して、安心するのである。
かくして、其の集団の中に、カリスマが存在し、そのカリスマが奇抜な行動をしたとしても、その取り巻きの人たちは、何の疑問も抱かずに、そのカリスマを支持し、仕舞には、言いなりになっている場合がある。
歴史が証明するように、ナチスしかり、オウムしかり、人間という生き物は、時に、こういった、集団心理でもって、凄惨極まりない事件を何度も繰り返している。
 
だから、今回の事件も特別な事だけど、誰しもがこんな事件を起してしまう可能性を持っている。人間だから。
 
 
 
夜風が気持ちいい夜の錦糸公園
 
イチは坊主の中学生と肩を並べて噴水の前のベンチに座っていた。
秋の始まりの静かな夜の公園。
噴水前のベンチ。
こんな餓鬼と一緒じゃなくて、シャンプーの匂いが爽やかな女子とデートでもしたかった。
でも、隣にいるのは、だぼだぼの服に身を包み、坊主頭の、殴られたせいで顔を腫らした中学生そして、隣にはバイト帰りの中年。さえない。
でもこれが現実。
 
ベンチに腰を下ろしてから10分。
坊主頭になってしまった明が意を決したように話してくれた。
イチは、ただただ驚きながら話を聞いた。いや、聞いていたか途中で解らなくなるほど、恐ろしくなったし、怒っていた。
 
 
 
ある朝、明はいつも通り同級生の親友のタケと2人で自転車の二人乗りで、学校に向かっていた。
勿論チャリ通(自転車通学)は禁止されているが、誰も守る生徒はいない。
通学途中のコンビニで、明達がつるんでいる暴走族の先輩「カトウ」と「マサル」に会う。
 
カトウは通勤途中のようなサラリーマンとなにやら揉めていた。
すると突然、キレたカトウはサラリーマンを投げ飛ばし、馬乗りになるやいなや、顔面を烈火のごとく殴り始めた。
連れのマサルは隣で呆然と見ているだけだった。
明とタケは瞬間的に、そのサラリーマンが死んでしまうと思い、カトウを止めに入った。
それが、間違いだった。
喧嘩を途中で止められたカトウは、意外にも冷静で
「お前達が来なきゃ少年院行きだったわ!」
と笑っていたが、目は笑っていなかった。
 
するとカトウはこう言った
「お前ら、俺を止める度胸があるんだ」
「マサルよっか、使えるね」
あ、そうだと言わんばかりに目を見開き続けた。
「今夜いーもん見せてやるよ。夜7時にトモんちにこいよ。」
 
明達は嫌な予感がしたので、一回は「無理です」と断ったが、頭をパチン!パチン!とはたかれ、スタンガンを出して見せた。
「バックレんなよ~」
と言い残し、マサルが運転するスポーツカーで行ってしまった。
 
明とタケはこの頃、この先輩であり、族の頭でもあるカトウの行動についていけず、族から抜けることを互いに相談していた時期だった。
すべての悪事に付き合ってきたわけじゃないが、女をナンパしてホテルに連れ込む手助けや、「引ったくり」や、「オヤジ狩り」の助っ人など、人数が必要な時だけ呼ばれ、金をもらえるわけでもなく、ホテルに女を連れ込んだら、帰されるし、連れ込む女には罪悪感もあった。レイプされるのが解っているからだ。
何回か、泣き崩れる女をマサルの車で荒川の河川敷においてくるのを手伝ったことがあった。
その女は、服こそ着ているが、ぼろぼろになったスカートやストッキングを身に着け、髪の毛は半分くらい抜け、携帯も、財布も没収され置き去りにされるのだ。正直見ていられなかった。
カトウやマサルはいつか捕まる。そうでなくても、もうついて行けない。
そう思っていた。
 
他の先輩、マサル、トモ、ケンタ、ロウ、と何人かは取り巻きがいるのだが、この4人はカトウといつも一緒に行動をしている。皆一様に感じるのは、「カトウが怖いから言うことを聞く。」といった塩梅である。しかし、時々思うのは、カトウが絶対であって、カトウと一緒に何かやっている時は、良いも悪いもなく、「自分はもっと出来るぜ」というような、なんとも言えない感じに全体の雰囲気がなるということだ。
 
実際カトウはこの頃、焦っていたのかもしれない。
中学時代柔道で幾多の大会で優勝し、特待生で柔道の強い高校に入学した。
しかし、先輩からの壮絶なイジメにより、退部。同時に高校も中退した。
ぶらぶらしているカトウを地元の先輩が見つけ、ファイナンス会社に入社させた。
この会社がとある暴力団組織のフロント企業ということは、当時カトウは知らなかった。
気がつけば、周りからは、「カトウはヤクザになった」と噂は広がり、恐れられるようになった。
 
そんな時期に日々の下積み生活の鬱憤を晴らす為、結成されたのが「鬼面組」である。
近所の族や不良たちと喧嘩ばかりしていた。
ヤクザは舐められたら終わり。と先輩に教えられていたので、とにかく無茶をしなきゃいけないきがしていたのだと言う。
 
 
夜になり
家を抜け出すと、明は1人で、トモの家に行った。タケもじきにくるだろうと思っていたからだ。
しかしタケは来なかった。
約束通りトモの家に行くと、部屋にはカトウ、トモ、マサル、ケンタ、それと見知らぬ女子高生がいた。
ケンタはこの女子高生とタバコを吸いながら、何やら話していたので、最初ケンタの彼女かと思った。
ケンタは見た目には今風のカッコいい青年に見える。私立高校にもしっかり通い一見普通の高校生だ。
しばらく、カトウとトモ、マサルはプレステをしていた。
明はただちょこんと座り、3人がゲームをしているのを眺めているだけだった。
 
30分が過ぎようとした時
突然、ケンタが女子高生を殴った。思いっきり。
するとソレが合図かのように、皆ゲームを止め、カトウが一枚のCDをセットした。
「HOUSE OF PAIN」の「jump around」だ。サビの部分の「jump!Jump! Jump! Jump!」で皆狂乱し、その女子高生を殴る蹴るするのだ。明は怖くて何がなんだか解らなかった。この曲はカトウが先輩から教えてもらって気に入ったので、この女子高生をリンチするときに必ず流すのだという。一通り暴れ終わると、今度は意地悪質問が始まる。
「おい、俺とケンタどっちがかっこいい?」
答えないと今度は抓る。仕方なく
「カトウさんです・・・」
と答えると、ケンタが怒って殴る。
「俺とトモどっちがチン○でかい?」
「俺とマサルどっちが偉い?」
この繰り返しだ。答えても答えなくても、痛い思いをする。この女子高生は必至で声を殺して耐えていた。
それが終わると、今度は言葉で責める。
 
「そういえば、今日のニュースでやってたけど、お前の親父交通事故で死んだってよ。」
とか
「お前のおふくろ殺人で警察に捕まったんだって。」
など、言うたびに
「帰らせてください」
と言う。
「だめだよー。逃げたら、俺はヤクザだからお前の家燃やすから」
と脅すのだ。明は悟った。
「この女子高生、ケンタ先輩の彼女なんかじゃない」
「どこかから拉致してきたのだ。」と
女子高生は殴られても、声を殺して我慢していた。
さらに30分くらいそのリンチが続いたあと、
「もういい加減にして!」
と女子高生が叫んだ。すると、トモは
「親がまた来たらどーすんだよ」
と言って、口を手で覆った。すると今度はカトウがスカートをめくりあげ、太ももにスタンガンを押し付けスイッチを入れた。
「バチッ!」と火花が散ると、同時に短い悲鳴めいたものが聞こえ。女子高生は白目をむいて失神した。
明は横目でちらりとその太ももを見た。女子高生は失禁していた。そして、そんな火傷の跡が何箇所もあった。
その明の視線に気が付いたカトウは意地悪な笑みを浮かべながら、明に言った。
「あ~あきたねーな。またやりやがった。そうだ、お前この女とヤッテいーぞ。」
「今日喧嘩とめてくれたご褒美だ。」
明は恐くなって身震いが止まらなくなったそうだ。
しかし、4人の先輩に囲まれ、泣きながら裸にされ、その女子高生とセックスをした。
女子高生は無表情のままだったという。
 
一通りの悪夢がおわると、カトウとマサルは車でどこかへ出かけた。
女子高生はふとんの中に逃げるように潜っていった。
ケンタとトモに聞いてみた。
「この女どうしたんですか?」
 
すると、2人の先輩は教えてくれた。
マサルの車で4人でナンパしに行った先で、知り合ったのだと。
詳しくは教えてくれなかったが、何時もの調子で強引に車に乗せたのだという。何時もと違うのは、カトウが「俺はヤクザだ」と脅し、ホテルではなく、トモの家に連れて帰るということだった。
その日から、監禁生活が始まったという。
監禁生活中、女子高生は一度逃げようとしたが、カトウに捕まりひどい目に合わされてからは、ほとんど無抵抗になったという。しかしさっきのように、やり過ぎると、女子高生も狂ったようになる。そのたびに、スタンガンを押し付け、失神させるのだと言う。それから、誰かがセックスするのだという。ケンタはカトウのスマートフォンでその様子を動画で撮るのだ。こういう時、ケンタは撮影する役目で、必ずカトウの携帯を渡され、撮影するように命じられていた。
でも、このセックスはカトウの考えでは、「女を慰める為」と言っているらしい。
 
この夜は、深夜に1人で帰された。
帰り道、トモの家を出た瞬間に、警察に駆け込むことを考えたが、無理やりとはいえ、セックスしてしまったし、証拠の動画も残っている。
共犯にされるという恐怖と、カトウの恐怖が入り混じって、断念した。震えながら家に帰り
「あの娘は絶対に殺される」
と強く感じたという。
 
 
それから3日後、タケが学校に来た。坊主だった。
カトウは携帯に何回連絡しても繋がらないタケに業を煮やすと、今度は実家に電話を何回もして、タケを呼び出し、バックレたことを問い詰めながら、3人かかりで凄惨なリンチを加えたのだと言う。
ただ、タケは、その時勇気を振り絞って、族を辞めることを先輩達に泣きながら言い続けた。
結果、「坊主にして、俺達に会わないように暮らすなら許してやる。」とのことだった。
明は益々恐怖を感じた。
タケが居なくなった以上、しわ寄せがみな明にくる。
そして、明は抜けることが難しくなった。そう感じたからである。
 
案の定、毎日のように明は呼び出された。
そしてついに、決定的なことが起きた。
明に姉がいることが発覚すると、姉を呼び出すよう言われた。
勿論、監禁されている女子高生をみているので、全力で断ったが、リンチに耐えられず、真美を呼び出すはめになってしまった。
真美は最初は気丈だったが、しまいにはレイプされてしまった。しっかり、動画も撮られていた。明は泣きながら、姉がレイプされているのを見ていることしかできなかった。
「また遊ぼう」
といわれ、兄弟で泣いて帰った。
この時、明は内心ほっとした。「帰れる」だけでラッキーだと思ったからだ。
しかし姉の真美の傷は大きかった。
数日間何を話しても、何を食べても能面のような無表情で、時折涙をながすのだ。
見かねた両親が真美を心療内科に連れて行き、今は普通に話せるようになるまで回復したらしい。
 
しかし両親はすべてを明から聞いた後、明にカトウと会う約束を取り付けさせた。両親は明を暴走族から脱退させてもらうべく、3人でお願いにいったのだ。
ファミリーレストランで会い、両親と明は人目も気にせず、何回も
「お願いします。この子はまだ中学生です。もう許してください。」
と頭を下げたという。
しかし、周りの目を気にしないのは、この親子だけではない。
周りの目も、明の両親の目も気にせず、カトウは明を殴りつけた。
そして最後に、「坊主」にすること、カトウ達の目に触れないようにひっそりと暮らすことを約束させられ、話合いは終わったのだという。
 
しかし、明はあの女子高生のことは誰にも話していなかった。
安心した両親を尻目に、心配は募るばかりで、眠れない日々が続いた。
夢にまで出てきた。
姉のこともあり、心が病んでいくのが手に取るようにわかったという。
 
そんなある日
コンビニでばったりトモに遭った。本来絶対に接してはいけない人間だと解ってはいたが、
トモの優しい対応で安心したのか、ポロッとあの女子高生のことを聞いてみた。
すると、家に帰したという。安心した。
その日のうちにカトウからグループLINEに連れ戻された。
カトウたち鬼面組はグループLINEを組んでおり、20人以上がそのグループの中にいる。カトウ達は、そのLINEで主に連絡を取り合っている。(グループLINEとは、簡単にいうとメールとかチャットをやり取りする専用の部屋である)グループLINEの厄介な部分は、そのグループを自ら抜ける事もできるが、抜けると、「アキが退室しました」というように通知されてしまう。そんなことをすれば、カトウの逆鱗にふれ、リンチが待っている。
LINEは既読という機能もある為、カトウは自分が発信した内容に、1時間以内に既読が着かないと機嫌が悪くなり、返信がないとさらに不機嫌になる。
 
そのLINEで、すぐにトモの家に来るように呼ばれた。拒否すればまた、姉の真美を狙うという。
恐怖が蘇り、夜中家を抜け出し、トモの家に行った。
目を疑った。
帰したと言っていたはずの女子高生がまだそこに居た。
しかも、だいぶ痩せて衰弱しているように見えた。
そこで、明は「約束破った」ということで、トモ、マサル、カトウにリンチをされた。
 
まず、柔道の締め技でおとされた。
気を戻すと、鉄アレーで歯を折られた。
泣き叫ぶと、布団でぐるぐる巻きにされ、足だけそこから出され、タバコを何度も押し付けられた。
明は死を覚悟したという。
しかし、2時間にも及ぶリンチが終わると、飽きたおもちゃでも見るように。
「帰れ」
「また、あそぼうぜ」
 
と言って帰された。
その帰り道にイチにメールを飛ばした。
 
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