科学的な観点から見たガラスの分類 ガラスの定義、用途に応じた成分・製法選び

「科学的な観点から見たガラスの分類 ガラスの定義、用途に応じた成分・製法選び」

窓から差す太陽の光、コップの中の液体、ディスプレイ越しに届く情報、…見えないようでそこにある「ガラス」を通して人は様々なものを見ます。ガラスは光学的透明性の高さだけでなく化学的・熱的耐久性や絶縁性にも優れていることから、半導体の基板、壁の中の断熱材、放射性廃棄物の固化体など、実は目に見えないところでも社会基盤を支えています。

そもそもガラスの定義は学術的にいくつか存在しますが、その共通点は

  1. 溶融、冷却という過程を経て作られる

  2. 無定形(結晶化していない)固体

であるといえます。この2つを満たせばどんな成分を含んでいてもガラスです。透明で硬いとか、SiO2でできているとかは関係ありません。究極的に言えば、どんな元素でも融液にして急冷し、結晶化してない固体ができればそれはガラスです。日常的な感覚とはずれがありますね。

とはいえ原料によってガラス構造の形成しやすさは異なります。大気圧下で電気炉を使用する場合、溶融温度は1800℃が限界です。冷却速度にも上限があるので、このような条件下で効率的かつ安定的にガラスの非晶質構造を形成できる原料を選ぶ必要があります。代表的な成分は二酸化ケイ素(SiO2)、ホウ酸(B2O3)、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化カルシウム(CaO)などが挙げられます。これらの原料は一見似たような白い粉ですが、るつぼに入れて1400℃前後で溶融し、室温で急冷すれば透明なガラスを得ることができます。

純粋なSiO2のみを成分とするガラスを「石英ガラス」と呼びます。市販のガラスの中で最も光学特性に優れ、高耐熱性、低熱膨張、化学耐久性を有します。SiO2は地質中に多く存在しますが、自然の状態では不純物を多く含みます。さらにSiO2そのものの融点は非常に高く(約1700℃)融液の粘性が高いため、加工が困難です。そのため石英ガラスを低温で合成する方法が開発されてきました。原料の固体を炉で溶融する方法の他に、気相合成(プラズマ法、スート法)や液相合成(ゾルゲル法、LPD法)があります。それぞれ製造方法により最終生成物である石英ガラス中の不純物濃度や含水量に差異があり、品質が異なるので用途に応じて適した製造方法で作られた石英ガラスが選ばれます。

SiO2のみで形成されるガラスは品質が高いものの製造コストも高く、むしろ特殊用途に使われます。そこで可視光だけを通す、つまり人の目で見て透明であれば問題ない窓ガラスやスライドガラスなどには、SiO2に適切な添加物を加えたガラスが用いられます。板ガラスやガラス瓶はソーダライムガラスという種類のガラスで作られます。ソーダは炭酸ナトリウム(Na2CO3)、ライムは炭酸カルシウム(CaCO3)を指し、これらと珪砂(SiO2)を原料とします。Na2CO3から生成する酸化ナトリウム(Na2O)にはSi-Oの結合を切断し、融点を下げる役割があるためこのガラスの溶融は1000℃程度で行われます。しかしNa2O のみを含有するSiO2ガラスは水溶性が高く、空気中の水分と反応して溶けてしまいます。そこで耐水性を向上するために炭酸カルシウム(CaCO3)から生成する酸化カルシウム(CaO)などを利用します。これらの原材料はいずれも安価であり、溶融温度がそれほど高くないことも併せて大量生産に適しています。この融液を板ガラスにする場合はフロート法、ガラス瓶のように立体的な形を持たせるためにはブロー成型というように、自在な形を選択できるのもガラスの特徴のひとつです。

身の回りのガラスがどのように、何からできているのか一般的な事例をもとにご紹介しました。しかしこれはほんの代表例に過ぎません。石英ガラスと全く異なる熱的性質を持つホウケイ酸ガラス、生体適応性の高さや特殊な光学特性を持つリン酸ガラスなど、ガラスは成分によって全く異なる特性を示します。逆に言うと求める特徴・性質に応じて成分を選び、適切な製造プロセスを経ることで望みのガラスを作ることができます。より高い品質、今までにない性能を備えたガラスの研究開発は現在もとどまることなく世界中で展開されています。

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