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有事の時、人の心はどう動くか?広報担当者が知っておきたい「危機管理心理学:情報処理の特徴と精神状態」

会社は不祥事を起こしたときや、パンデミック、自然災害などが発生するなど有事の時は、その経緯や対応をメディアや顧客へ説明するコミュニケーションが求められる局面に立たされることがあります。

もしあなたが危機に直面したら「逃げたい、隠れたい、誤魔化したい」といった、大きな感情が押し寄せてくることに驚くだろう。人は有事のとき、往々にしてパニックに陥りやすく、通常の精神状態と全く異なる状態になります。私たちが日々ニュースで目にする、対応を失敗させてしまった企業の中の人も、後から冷静になってよく考えてみると、あんな対応をしなければよかったと理解できるものです。

しかし残念ながら、広報担当者に危機が起きてから、ゆっくり対応を考えている時間はありません。SNS時代の到来により、驚異的な対応のスピードが求められている現代では、危機が発生してから12時間以内に記者会見を行うケースも少なくありません。

そこで今回は、CDC(米国疾病管理予防センター)のCERC(クライシス・緊急事態リスクコミュニケーション)プログラムで展開している、「危機管理心理学(危機の心理)」を元に、私の実践経験などを織り交ぜながら、広報担当者が理解しておくと良い「危機のときの情報処理の特徴と精神状態」について、お伝えしたいと思います。

エビデンスに基づいて開発されたコミュニケーションツール”CERC”

CERCプログラムとは、通称「サーク」と言われ、9・11以降、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)が、コミュニケーション分野のエビデンスなどに基づき開発したものです。CERCは、緊急事態における公衆衛生、心理学、および緊急リスクコミュニケーションの分野での研究中に学んだ教訓から導き出されていて、緊急時の対応チーム、組織のリーダーが有事に効果的にコミュニケーションするのに役立つトレーニング、ツール、およびリソースを提供しています。全て英文ですが、この分野では情報の網羅性が高いので、とてもおすすめです。

Crisis & EmergencyRiskCommunication(CERC)
https://emergency.cdc.gov/cerc/

人は、危機の時どんな精神状態になるか?

危機下では、広報担当者は、何よりもまず大きく動く自分の心に負けず、とにかく冷静になり体制を整える。そして、さまざまなステークホルダーも同様に、不安や怒りなどの感情に支配されていることを理解し、それらの気持ちに寄り添ったコミュニケーションを行うことが重要です。

危機的状況に陥ったとき、人は恐怖、不安や混乱、強い恐れを感じますが、広報の仕事は、こうした感情を消し去ることではありません。その代わり共感の表明をすることで、こうした感情を受け止めることができます。自分の心が整ったら、次に行うべきは、関係者の有事の心理的影響を軽減するために、被害のリスクを減らすための情報開示の取り組みです。

最初のステップは、次の情報を伝えることです。
・あなたが知っていること。
・あなたが知らないこと。
・答えを得るために、どのようなプロセスを踏んでいるか。

不安や恐怖の中で、十分な情報がない場合、人は脅威を回避するために、不適切な行動をとる可能性があります。広報担当者は、リスクの正確な評価ととるべき行動の情報を提供することで、この可能性を低下させることができます。

絶望と無力感

心理学の研究によると、クライシスコミュニケーションにおいて、関係者の不安、混乱、恐怖の感情を抑えられずに放置しておくと、ほとんどの場合絶望や無力感を抱くようになります。

絶望感とは、状況を改善するために誰も何もすることができないと感じることです。脅威が現実に存在することを受け入れても、その脅威があまりに大きく、状況が絶望的だと感じることがあります。無力感とは、自分には状況を改善したり、自分を守ったりする力がないという感覚です。人はもし、人が自分を守る力がないと感じると、精神的・身体的に引きこもることがあります。このような状態になると、やる気を失い、自分では何もできなくなります。そうなると自助努力による行動を取ることができなくなります。危機に対する感情的な反応をなくそうとするのではなく、関係者の負の感情を抑えられるよう、行動指針を示すことが重要です。危機の最中に行動を起こすことで、自制心を取り戻し、絶望感や無力感を克服することができます。少なくとも一部をコントロールする力を得たと感じられるようにすることで、恐怖心は薄れます。可能な限り、建設的で、直面している危機に直接関連する行動をとるよう助言しましょう。

震災などの自然災害や、パンデミックのような危機の中では、関係者に、絶望や無力感を与えないようにすることは、危機管理における重要なコミュニケーションの目標になります。


広報担当者は、組織における中核的なコミュニケーション戦略のパートナーとして、多くの部署と連携することが求められます。組織横断のワンチームで対応ができるよう、調整を行い牽引していくことが求められるからです。クライシスコミュニケーションの要である、レピュテーションコントロールを成功させるためには、組織内のすべての人の協力が必要となります。

クライシスコミュニケーションでは、多少痛みを伴う対応が必要になる局面に立たされることもありますが、危機を好転できる数少ないチャンスととらえ、受け身ではなく能動的に攻める姿勢を整えましょう。対応次第で危機を好転させている事例もあります。担当者の方は、危機に直面した時こそ、攻める姿勢で、クライシスコミュニケーションに取り組むことで、レピュテーションコントロールの成功率を高めることができます。

【書いた人】
大杉 春子/コミュニケーション戦略アドバイザー

民間企業・地方自治体・省庁などのパートナーとして、PR戦略の策定から広報物の制作監修まで支援。コミュニケーション戦略における「攻め」と「守り」の両軸から経営広報の施策をサポート。2020年に専門家らとともに、日本リスクコミュニケーション協会を設立し、リスク管理から危機管理広報までを網羅した、リスクコミュニケーション人材の育成を展開する。

内容についてのご意見やご質問はinfo@razer.co.jpにお願いします。






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