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シリコンバレー銀行の広報チームがつまずいた理由

3月10日、サンフランシスコのシリコンバレー銀行(SVB)が破たんしました。
アメリカの約半数に上るスタートアップ企業はSVBと取引関係にあり、その規模はアメリカで2番目とされています。
続いて3月12日、今度はアメリカで3番目の規模といわれる、東側NYのシグネチャーバンクも破たん。
この騒ぎに対し、財務省とFRB(中央銀行的な存在)は同日12日に、特別処置として、預金を全額保証し、特別融資枠を設けることを驚きのスピードで発表し、市場の混乱に応急処置を施しました。
政府のこのスピーディーな対応は、1980年台に、急速なインフレとそれに伴う利上げの影響で、貯金と住宅ローンに特化した貯蓄貸付組合(S&L)を、100行以上潰した経験があったからだとされています。

今回の騒動は、コロナやウクライナ戦争の影響からインフレに発展していった政府の対策から、徐々に構造的に広がっていったものです。しかし、世界中で広がる金融不安に対して、シリコンバレー銀行(SVB)の破たんがドミノ効果の駒のひとつになったことは間違いありません。

実は、SVBの失敗をコミュニケーション戦略の観点から見直すと、いくつかの機会損失が明らかになっています。もしあなたが企業の広報やIRの担当者で、同じような局面に立たされた場合、どのような情報公開やコミュニケーションを行うでしょうか?

今回のnoteでは、SVBが公表したプレスリリースやTechCrunchの記事から、SVBの広報チームがどこで失敗したと言われているか、そしてどのように対処すべきだったかを分析し、その原因と改善策を考えたいと思います。

①プレスリリースの内容が難解で分かりづらかった

まず、SVBが210億ドルの証券を売却し、2023年第1四半期に約18億ドルの税引き後損失を出したことを発表したプレスリリースが批判を浴びました。なぜなら、このリリースは、金融市場に精通している読者を前提としており、同社の行動や背景を全く説明していなかったためです。このプレスリリースは、逆に不安を煽るものであり、信頼を回復する上では大きなマイナス要因となりました。
もちろん、IRの発表は規制用語を多用したドライなものになるのが一般的でが、重要なニュースであるなら、預金者にどのような影響を与えるかを考慮し、安定性と信頼を示すメッセージを伝えるチャンスだったと考えられます。

プレスリリースは、企業が自分たちの思いを伝える最初の機会であり、「メッセージング・プルスルー」といわれます。
「メッセージング・プルスルー」とは、企業が発信するメッセージが、受信者に適切に伝わり、理解されるために、メッセージを受信者側に引き込む(プル)ようにする手法のことです。つまり、企業が情報を提供するだけではなく、受信者がその情報を受け取り、理解することを促すことが重要であるという考え方です。具体的には、メッセージのトーンや基盤、フレームを設定することで、受信者が情報を理解しやすく、興味を持ちやすくなるように工夫します。企業が受信者に適切にメッセージを伝えることで、企業のブランドや製品の認知度を高め、市場競争力を向上させることができます。

例えばプレスリリースにCEOの言葉を引用することで、人間味が感じられるストーリーのある文脈の情報を、提供することができたかもしれません。

②インフルエンサーの影響力を考慮していなかった

取り付け騒動の最初の火種は、バーン・ホバート氏によるメールマガジン「The Diff」と、それに付随するツイートにあるとの説が有力と言われています。

このTwitterは、360万ビューに上り、424のリツイートと引用ツイートされています。(2013年3月20日現在)

ビジネスに特化したニュースレター「Napkin Math」の主筆者であるエヴァン・アームストロング氏は、彼が知るほぼすべてのVCが「The Diff」を読んでいると言っています。もしSVBがこのような言及をもっと注意深く監視していたら、VCがSVBの動向に注目し始める可能性が高いと推測できたかもしれません。そう考えれば、自ずとプレスリリースも戦略的に発表するための特別な手段を講じることができたかもしれません。

③Zoom会談のコミュニケーション戦略が不十分だった

そして最後に、銀行CEOがスポークスパーソンとして行ったコミュニケーションも不十分だったと評されました。
SVBのCEOであるグレッグ・ベッカー氏は、顧客とのZoom会談で、「落ち着いて」と呼びかけ、「パニックになるのは一番避けなければならないことだ」と述べたとされています。しかし、TechCrunchの記者Connie Loizos氏によれば、このようなコメントは、銀行のCEOから最も聞きたくない内容であり、広報上の失敗だったと指摘しています。
さらに会談では、質問する機会がなかったと言われています。もちろん、質問する機会を積極的に設けても、SVBにとって違った展開になったとは限りません。しかしSVBを身近に感じ、ステークホルダーのコミュニティとより密接な関係を築くことができたかもしれません。また、プレスリリース配信後すぐにZoomで記者会見を開き、ステークホルダーに冷静かつ整然としたメッセージを伝えることもできたはずです。


ブランドに対する好感度を維持することは、どの企業にとっても最も重要なことです。特に顧客の安心感によって企業の健全性が左右される場合には、なおさらです。
激動する今の時代で、企業コミュニケーション担当者(広報/IR)は、このような他社の事例をもとに、自社の対応を考えるスキルが求められ様になるかもしれません。

参照元:
Everything you need to get caught up on the SVB crisis
SVB Financial Group Announces Proposed Offerings of Common Stock and Mandatory Convertible Preferred Stock

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