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失敗しない記者会見に欠かせない企業トップの説明責任~準備とトレーニングのポイント~

「謝罪会見」のシーンで、企業のトップがフラッシュを浴びながら頭を下げている様子を目にしたことはありますか?

そんな時あなたは「自分の会社がこんな状況になったらどうしよう」と頭によぎったりするでしょうか?それとも、謝罪会見は大企業だけがするものと他人事に思えるでしょうか?

不祥事はいつ発生するか予想できません。
近年は企業の規模にかかわらず、ESG(環境・社会・企業統治)やコンプライアンスへの関心の高まりが相まって、説明責任が求められる声がますます強まっています。そこで今回は不祥事発覚の場面で、経営者が適切な判断を行うために知っておくべきポイントや準備、トレーニングの要点をご紹介したいと思います。

不祥事対応は難易度が高めの経営課題

実際に会社の代表が法律に違反したという事件があったとします。社長が逮捕されて数日後に初めての記者会見が開かれました。その間、次のような対応が短期間で慌ただしく行われます。

・対策本部の設立
・事実関係の調査
・新しい社長の就任

・(上場企業の場合)東京証券取引所への報告
・債権者会議の開催
・顧客、関係会社への連絡
・記者会見の準備
 など

多くの不祥事の対応は、内部通報など断片的な小さな情報からはじまります。情報漏洩のリスクから、限られたメンバーだけで対応することが一般的ですが、そのために得られる情報も限定的です。そのよう状況でも的確な情報収集と対応が求められます。これらすべてのプロセスを、短期間の切迫した状況の中で迅速に遂行することが不祥事対応の特徴です。

さて、短期間で重くて大きい意思決定を急いで行うことが大変なことが想像できるでしょうか?このように、不祥事対応は極めて難易度が高い経営的な課題であるといえます。

記者会見はどんな時に必要か?

有事における情報発信は、企業の説明責任を果たす重要な経営課題ですが、危機に追われた企業は公表の決断を遅らせがちです。
これを回避するためには、事前に会見を開く条件を検討することが有効です。基本的な判断要素は次のようなものがあります。(リスクマップをつくり、被害額などの基準を設定することで判断を迅速にすることができます)

・ステークホルダーに生命や身体、財産に対して被害がある
・コンプライアンス違反があり、信頼や業績に影響がある
・公的な規範や法律に違反していないことを明確にする必要がある
・対策を講じることで事態を収束させ、公的な信頼回復に寄与することが期待される

状況は常に変化するためマニュアルなどより、その時のトレンドによって最適な方法を選定することがとても大切です。そして情報を伝える相手に応じて最適な手段を選ぶ工夫が必要です。

記者会見を失敗させる要因はなにか?

あなたは、企業のトップとして事態の打開策としての会見を開催することになりました。しかし、その会見が裏目に出て、ステークホルダーからの批判が強まる可能性もあります。

会見が「失敗」する大きな要因としては、一方的な説明が続き、記者の質問に答えないといった、会見前の準備不足があります。また、回答内容や登壇者の態度に問題があり、反省の色が見えないといったことも原因となります。
近年では、インターネットでの会見中継も増加し、可能な限り多くの質問を受けようと、長時間に及んで質疑応答をする企業が増えています。

会見を失敗させないためには、会見の目的を明確にすることが重要です。会見までに何をしておく必要があるのか、どのタイミングで設定すべきか考えることが必要です。

準備とトレーニングのポイント

不祥事対策の準備として、平常時にすべきことは大きく3つあります。

・危機検知とエスカレーションの整備
・有事シミュレーション
・メディアトレーニング

危機検知とエスカレーションの整備
多くの不祥事の情報は、現場から経営者に伝わる前に、たくさんの障害が存在します。現場で不正として認識されないこともあり、認識されても報復や監督責任の追及を恐れてエスカレーション(上位の管理者に対応を仰ぐこと)が遅れることもしばしばあります。そのため、不正行為の発見と不祥事情報を吸い上げができる環境や企業風土を作ることは、平時に行える不祥事対策準備の1つです。具体的には、内部報告制度の設置、意識向上のための教育、人事評価に対する遵守などを組み合わせて、組織内の不正認識力を高めます。

有事シミュレーション
対策本部には、経営者がトップダウンで進めるにしても有能な核となる人材を配置する必要があります。このために、平時からコア人材を見極め、有事を想定したシミュレーションを行い、実践的なトレーニングにつなげます。シミュレーションによって、社内にリソースが足りないことが認識された場合は、社外リソースも検討する必要があります。発見・エスカレーションの整備も有事シミュレーションも全社的な観点から行わなければなりません。このように、平時の備えから経営者の役割ははじまっています。

メディアトレーニング
スポークスパーソンが記者会見で、適切に対応するためのスキルを向上させることが重要です。即興の質問に答えるのはとても困難です。そのため実際の記者会見を想定し、質問に答えるトレーニングを行うことが有効です。

トレーニングは、登壇者だけでなく、会見に関わるすべてのメンバーが参加すべきです。記者から登壇者の専門分野以外の質問や情報があった場合、回答が曖昧にならないようにサポートする体制が必要です。全員が登壇者を支えるという意識を養うため、質問に対する具体的な応答のトレーニングが重要です。

トレーニングでは、登壇者の説明原稿と記者の質問に対する想定回答を準備することが大切です。説明原稿では、一般の人にも理解できる表現を使用し、社内用語や業界用語は避けることが必要です。また、自社の認識が世間の感覚と乖離していないかも注意することが重要です。外部の専門家の意見も取り入れて準備することが望ましいです。

不祥事対応では、「決断のスピードと一貫性を保つこと」と「平時からの備え」が必要であり、これらを行うのは経営者以外に適任者がいません。経営トップ自らが当事者となって対応することが大切です。


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