株式市場というもの

株式市場について考えています。しばらく考えていました。この文章を投稿することを迷いつつ…投稿しちゃいます。

1)深い社会的責任(Deep Responsibility)を負った企業 --- ハーバードに紹介された日本人経営者とは

ハーバード・ビジネス・スクールで経営史を教えているジェフリー・ジョーンズという先生の講演を聞きました。ジョーンズ教授は社会的責任を深く果たそうとする"Deep Responsibility"という概念を提唱していて、この「深い」社会的企業家の事例として、日本の渋沢栄一を紹介していました。いえい。

2)維持不能!?

ただ、その次にジョーンズ教授が見せたスライドは私を絶望させました。

・「深い社会的責任」を負ったビジネスリーダーは、事業に成功しブランドを確立したが、しかしそのようなリーダーが経営を去った後に(社会的)価値を持続することは困難だった

・公開株式市場において、そのような(深い社会的責任型の)事業を維持することは、ほぼ不可能(next to impossible) だった

え、ほぼ不可能!?そんな身も蓋もない…。

この話を聞いた時に、頭の中に緑色の本が浮かびました。

「緑色の本」は、タイトルが長くて難しいため、未だに覚えられません。(注:コリン・メイヤー「株式会社規範のコペルニクス的転回」でした)

この緑色の本は、株式市場がしっかりと経営陣に対してガバナンスを効かせる英国的なコーポレート・ガバナンスが、逆に企業を短期的な経営に走らせるということを批判しています。そして、株式市場の手が及びにくい財団支配型の企業が長期的に繁栄していることを指摘しています。以下、長文で、かつ翻訳がちょっとあれですが、構わず引用します。

「とくに興味深い長期的な関与を行う株主は産業財団である。産業財団はデンマークやドイツでは最大規模の会社の間にさえ広く存在している。産業財団は信託または財団であり、参加の会社の株式を所有している。産業財団を持つ会社の例として、ベルテルスマン、ロバート・ボッシュ、カールスバーグ、イケア、ノボノルディスクなどを挙げることができる。」

「伝統的な分類によると、これらの会社はすべて最悪のコーポレート・ガバナンス形態を採用していることになる。構成員を自らが選任する取締役会を持ち、成果に基づいて報酬が付与されておらず、会社支配権市場の影響も受けていないからである。」

「しかし平均して、これらの会社の業績は他の類似の会社と同程度に良好である。実際は、いくつかの点でより良い成果を上げている。すなわち、これらの会社はより高い評判を確立し、より健全な労働者との関係を構築している。しかも、最も衝撃的なのは、これらの会社は長期間存続し続けている点である。産業財団を持つ会社の平均存続年数は、産業財団を持たない類似の会社の存続期間のおよそ三倍であった」

(コリン・メイヤー「株式会社規範のコペルニクス的転回」)

これを読んで私は、味の染みていないコンニャクを食べさせられたような読後感を持ちました。社会を変えようと奮闘している起業家の多くが、公開株式市場を目指して努力を続けているのを知っているだけに。そして自分も、IPOを目指すことをしばしば勧めているだけに。こんな話は、おいそれとFacebookに書けないなあと思いました。(でもとうとう我慢できず、書いちゃいました)

3)既存の枠組みでも頑張ってます

起業家には、自社の社会的目的を第一優先にすることを高く掲げて上場をしようとしている企業もあります。日本ではLife is Techの水野さんが「ソーシャルIPOを目指す」と明言していますし、公開企業の中でもユーグレナ、レノバ、そしてエーザイのように深く社会的責任を追求している企業が存在します。

ユーグレナの場合は、定款の中に以下の「事業目的」を明記しています。

第2条 当会社は、持続可能な社会の実現を目指して、次の事業及びこれに附帯する一切の事業を営むことを目的とする。

(1)あらゆる場所で、あらゆる形態の貧困問題を解決することに資する事業
(2)飢餓問題を解決し、食料の安定確保と栄養状態の改善を達成するとともに、持続可能な農業を推進することに資する事業
(3)すべての人の健康的な生活を確保し、福祉を推進することに資する事業
(4)すべての人に包摂的かつ公平で質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進することに資する事業
(5)すべてのジェンダー平等のためのエンパワーメントを図ることに資する事業
(6)すべての人に水と衛生へのアクセスと持続可能な管理を確保することに資する事業

(以下省略。素晴らしい事業目的がまだまだ続きます。)

ただし、将来的に株主総会が現経営陣にNoを叩きつけたら、株主総会が合法的に定款を変更することを止めることはできません。この素晴らしい「事業目的」も、変えられてしまうかもしれません。ジョーンズ教授の「ほぼ不可能」という不吉な予言が頭をよぎります。(出雲さん不吉なこと書いてごめんなさい。岡島センパイもごめんなさい)

4)枠組みをちょこっと変えよう

では、素晴らしい(社会的な)事業目的を公開企業が世代を超えて維持し続けられるような仕組みはできないものでしょうか?

私の提案はとてもシンプルで、会社法を少しだけ変えるというものです。以下のルールを導入します

・企業は定款において、自社が社会的目的を最優先にすることを(ユーグレナのように)明示し、それを「最優先の規範」にすると定款に明記できる

・この「最優先の規範」を変更する際には、株主総会の特別決議を超えた「超特別決議」が必要とする。すなわち、5年を超えて株式を長期保有している株主の2/3以上の同意を得た時にのみ、この最優先のプリンシプルを変更できる

これによって、長期保有者のみが会社の根本のフィロソフィーを変えられるようになります。

こんな感じで、今の株式市場が持つ短期的思考を是正し、かつ多種多様なフィロソフィーを持った企業体が広がっていく株式市場を、私は見たいです。それを育む法制度であってほしいと願います。

以上、中途半端な知識で、乱暴な意見を書いたかもしれません。ぜひ皆さんのご意見を伺いたいです。


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