第二話

「ええっと……もう一回聞くよ?」
「うん……ふああ」

あくび混じりに眠そうにリスタは答えた。
レイナは隣に座るリスタに向けてもう一度質問した。

「リスタは上から来たって事?……それって……ええっと……つまり空の上って事?」
「うん……にゃむ……そゆこと」

首をコキッコキッと鳴らしながら、リスタは肩の力を抜きながらそう答えた。
レイナはリスタの言っていることが信じられなかった。
でも——。
先ほどまでの流れ星。
公園にあいた大きな穴。
そして裸の青年……。

信じられないことならもう十分立て続けには起こっていた。
レイナはだんだん自分の感覚が麻痺していくのを覚える。

「はああ……もうわけわかんないよ……空の上ってどういうことよ?あなた何者なの?」
「何者って……天使?」
「へっ?」

レイナは抱えていた頭を上にあげると、リスタを見た。
ふざける様子もなく、こちらを真っ直ぐと見つめているリスタの顔がそこにある。

「本気で言ってんの……?それ」
「うん」
「マジで?」
「うん」
「天使なの……?」
「うん」

レイナとリスタはしばらく見つめ合ったまま、動かなかった。
レイナは何から何まで信じられなかった。
まるで長い夢の中にいるような感覚だ。
これは現実だろうか——?
ひょっとしてまだ夢の中にいるだけなのだろうか?
白いカーペットの床に視線を落として、レイナはしばらく考え出していた。

「あ、でも俺堕ちちゃったから——、今は天使じゃないのか」

ふと、気付いたようにリスタはそう言った。

「へ?……どうゆうこと?もう天使じゃないの?」
「うん……ない……だってほら……翼、ないだろ?」

リスタはそう言うと、レイナに背中を見せた。
リスタの着ている青いジャージがレイナの目の前にあるだけだった。

「いや……翼って……ないって言われてもさ……普通、翼はないから」
「……あ、そうか……人間はないもんな」

レイナはリスタの顔をジーっと見ていた。

「なに?」
「ほんとに天使なの?」
「うん……今は違うけどな」
「……じゃあ天使だった証拠見してよ」
「証拠?」
「うん……だって翼がないとか……今は天使じゃないとか……なんか都合が良い事ばっか言ってるみたいだし」
「つまり信じられないって事?」
「……うん……なんかおかしいもん」

怪訝な表情を浮かべるレイナをリスタはしばらく眺めると、おもむろに立ち上がり出した。
そして青いジャージを脱ぎだしていく。

「え?……ちょっ……なにしてん……」

レイナが慌ててそう言い出した時、リスタはもう上半身裸になっていた。
そのままリスタはレイナに背中を向ける。

「これで……どう?……もうないけどな……ほとんど」

リスタはそう言って背中にある翼の付け根の部分をさすった。
左右の肩甲骨の部分それぞれにそれはあった。
地球に堕ちていく途中に、リスタの白い翼はそのほとんどが焼けてなくなってしまった。
今あるのは背中から少し出た突起物のようなその名残だけだった。
レイナはまじまじとその部分を眺めていた。
背中についているそれは確かにリアルさがある。
わざと背中につけたペイントやメイクには思えなかった。
確かにそれは体から突き出たもの、のように見えた。

「うう……それが翼があったところ?」
「うん」
「なんで、今なくなっちゃったの?」
「翼……?俺もよくわかんないけど……多分、ここに堕ちてくる途中になくなっちゃったんじゃないかな?」
「どうして?……なんでリスタは空から堕ちたの?」

レイナの問いに、リスタは首を傾げるしかなかった。

「そこなんだよな……俺もよくわかんないんだよ」

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