PHOTO OF THE MONTH

JUNE 2019
"IN A SKY FULL OF STARS, I THINK I SEE YOU"

 記念すべきPHOTO OF THE MONTHの第1回は、既に発表済みのこの一枚について書こうと思う。また、この第1回だけはNote上でも内容をすべて無料公開とするが、第2回以降はNoteでは有料記事とする。最近開設した私のペイトリオン・ページの支援者にはNoteでの公開に先立ち(アーリーアクセス)無料で公開する。この連載では毎月1枚の作品(基本的には未公開作品とするが、場合によっては過去に発表済みの作品を掘り起こすこともある)を取り上げ、その撮影背景を紹介する。何を持って「撮影背景」とするかはその回によるが、今月のこの一枚に関しては、撮影テクニックよりは、どのようにして、この日、この時間、この場所で、このアングルでこの写真を撮ろうと思い至ったのか……すなわち「撮影日時とポイントの選択」に焦点を置く。内容としては「グーグルマップ」「Light Pollution Map」「プラネタリウムソフト」などに言及する。

 2019年6月18〜20日と、本業である通訳の仕事でカリフォルニア州サンディエゴ市に行くことになった。サンディエゴは現在私が住んでいるニューメキシコ州アルバカーキ市からは飛行機で2時間弱、車だと12時間くらいの距離にある。どうせ行くなら帰りにどこかへ寄って撮影してこよう、と思い愛車の’07 TOYOTA FJ CRUISERで行くことにした。

 無事仕事を終え、20日にサンディエゴからアリゾナ州セドナ市に向かった。セドナはアリゾナ州北部及びユタ州南部が世界に誇るレッドロック(赤岩=砂岩)の「ビュート」と呼ばれる岩石層が多く露出されている谷で、かつ、国立公園(グランドキャニオンやブライスキャニオンなど)でも、ナバホ等ネイティブ・アメリカンの保留地(アンテロープキャニオンやモニュメントバレー) でもないため、商業施設が林立する観光スポットとして育った町である。
 観光町であることには一長一短がある。例えば、地質学的に類似するモニュメントバレーでは夜間に公園内に入ることができないため任意の場所から星景写真を撮ることができないが、セドナでは私有地に入らない限り、比較的自由に撮影ポイントを選べる。一方で「私有地」なるものがそもそも存在していること自体がセドナの短所でもある。光害(街灯などのせいで星空が見えにくくなること)対策には積極的なのもセドナの特徴だが、人口1万人以上の町であるからには、光害ゼロにはほど遠い。今回の撮影では、長所をなるべく活かす一方、短所をなるべく回避することが重要だった。

 まず、夏至の到来をもって正式に夏が始まるので、夏の星空を彩る天の川と、セドナの美しいレッドロックを組み合わせた「星景」写真を撮りたいと思い至った。星景写真とは文字通り、星空と風景を一枚に収めた写真である。そこでまず、プラネタリウム・ソフトを立ち上げた。パソコン用、スマホ用ともに、無料・有料アプリが複数あるが、今回使ったのはiPhone用の無料アプリ「Stellarium」(PC版、ウェブ版もある)である。このアプリでセドナの位置を入力し、最も大きく明るい射手座方面の天の川が6月20日に昇る時間と、その時は下弦にさしかかっていた月の昇る時間を確認した。すると、天の川が半分くらい登る時点の午後10時40分ごろに月が昇ることが分かった。


 月明かりは天の川の文字通り「天敵」と言える存在なので、翌日の天気が降水確率0%なのを確認し、月の出が45分ほど遅くなる翌21日に撮影することにした(非常に大雑把に言うと、月は30日ほどかけて新月から新月へと、天空上でほぼ同じ場所に戻ってくるので、毎日昇る時間が24時間/30日≒48分ほど遅くなる)。
次は撮影ポイント選びだ。上のプラネタリウム・ソフトで分かるように、月が昇ってくる前の時間帯、射手座方面の天の川は南から南西に向かって斜め上に伸びている。つまり、南・南西方向にビュートを配置すれば、ビュートと天の川を一枚に収められることになる。
 ここで役立つのがグーグルマップである。グーグルマップでセドナを検索し、拡大率を変えて、セドナ周辺の様々なビュートが表示されるように調節する。その内、真北ないし北西の方角からそのビュートを眺望できる地点があるものを探す。例えば、セドナの少し南にある「ベル・ロック」や「カテドラル・ロック」なら、ほぼ真北にビューポイントがあるので好条件だということが分かる。

 もう一つ気を付けないとならないのは、撮影地点および撮影する方角の光害の程度だ。撮影する場所自体の光害が少なく空が暗くても、天の川のある南方向に町明かりなどの光害が多いと天の川自体が光害に紛れてしまい、具合が悪い。そこでもう一つ非常に役立つのが「Light Pollution Map」というウェブサービスだ。これは、Bortle Scaleという指標を使って世界中の各地点の光害度合いをマップに重ねて表示してくれるサービスだ。Bortle Scaleによると、「クラス1」が光害が全くない状態、「クラス9」が最も光害が多い状態を表す。例えば東京23区内はすべての地点が「クラス8〜9」で、ほとんど星が見えないことが分かる。一方、アリゾナやユタ、ニューメキシコといった州には「クラス1」の場所が幾つもあり「星が降るような満天の星空」がうかがえる。
 この光害マップを使ってセドナの周りを見てみると、セドナの町自体はもちろんのこと、セドナの南にあるビッグパーク/オークツリーの町も光害が周りと比べて高い(クラス4)ことが分かる。先ほどの候補地で言うと、ベル・ロックの方がビッグパークに近くかつその真北に位置するので、より直接その光害の影響を受けることが予想できる。一方、カテドラルロックを見てみると、その周囲は「クラス3」で周りと比べても光害が少なく、かつ、ビッグパークからもある程度離れているので、ベル・ロックより条件が良さそうだと分かる。

 これらの条件を考慮し、21日の撮影は「カテドラルロックを前景に、射手座方面の天の川を背景に、という関係の星景写真」とすることを決定し、その結果が今月のPHOTO OF THE MONTHというわけである。

 いかがだっただろうか。もちろん、この作品の作成には今回紹介したこと以上に多くの要素が関連している。使用したカメラ、使用したレンズ、現場における撮影条件(露出時間、レンズの絞り等)、そして撮影した画像をどうプロセスして最終的に作品を仕上げたか、などなど。これらについては、翌月以降のPHOTO OF THE MONTHで紹介していこうと思う。

それではまた来月!

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