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アナログバイリンガル【#note杯】

「君は早希?」
 モニターに向かって問いかける健(たける)の表情は真剣だ。そこには若い女性の顔が映っている。時々、画面を細かい数字が横切る。映像の女性は正面に目を据えた。
「私の意識は連続だけど出力は離散的。有機体だった頃の思考パターンで会話しているけど、脳波はデジタル数字に変換されているの。今の私には、人の思考もコンピューターの思考も理解できるの……マシンとヒトのハイブリッドってわけ。凄いよ、世界観が全く変わった」

 早希は嬉しそうだ。健は顔を歪めた。余命宣告を受けた彼女の天才的な頭脳を惜しみ、開発中の最新コンピュータに思考パターンをアップロードした。
だが、これで本当に良かったのか。

「早希、訊いていいかな」
「なに?」
「君は、人類は地球と共存可能だと思う?」
「期限付きならば、Yes」
 健の鼓動が早くなる。
「地球と人類、どちらが生き残るべきかな」
「地球」

 ……健は電源スイッチに手を伸ばす。その手は、震えた。


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