仕事でも、仕事じゃなくても【ブックレビュー】
「大奥」「きのう何食べた?」などの、漫画家よしながふみさんのインタビュー集をご紹介します。
ライターの山本文子さんが、よしながふみさんにインタビューした内容だけで一冊の本になっています。
元々、人のインタビューを読むのが好きなんです。
作家じゃない人で、一芸を極めた人のエッセイとかも割と好きでよく読みます。
たぶん“自分の知らない世界”を覗き見るような感じ、が好きなんだろうと思います。だからNHKの「50ボイス」「100カメ」とか「プロフェッショナルの現場」などのドキュメンタリー番組も好きです。
エッセイよりもインタビューの方が、その場で思ったことをそのまま文字にしているので、本音に近いと思うんですよね。インタビュアーの腕も大いに関係する部分ですが。
noteでも、無名人インタビューさんの記事をよく読ませていただいてます↓
さて、目次はこちらになります。
第一章は、よしながふみさんの漫画が好きな方はもちろん、1970〜90年代の少女漫画が好きな方も「同じの読んだ!わかるわかる〜」となる内容で、私なんかはモロ被りで嬉しくて身悶えしました😁
それに加えて、自分でも物語を作る方にとっては、よしながふみさんの物語作りのスタンスとか、価値観みたいなものを知ることで、自分の作品や思考を振り返る機会にもなるんじゃないかなあ、などと思ったりもします。
ただ……小説書くくせに読書感想文は苦手なので(だってnoteって、スンバラしい書評を書くライターさんがひしめいてるしね!)下手な感想を書くよりも、感銘を受けた部分を抜粋して、それに一言ずつ所感を挟む感じでレビューしていく方が、よりカラスっぽい内容になるかなと思いました。
第一章「漫画に心奪われて」
亜弓「そうクイーン・メリー(紅茶の名前)がいいわ。薄く切ったオレンジを浮かべて……それから私をひとりにして」……マヤより亜弓さん派のカラスです。
ねとらぼ2021年人気投票、こちらの記事によるとランキングは以下↓
1位 姫川亜弓(さもありなん)
2位 速水真澄(よっヘタレ社長!安定の白目クオリティ)
3位 北島マヤ(一応、主人公だしね……いや好きだよマヤも)
4位 青木麗(麗様、お元気かしら)
5位 月影千秋(先生、夏場はもっと涼しい格好して下さい)
この章ではたくさん漫画が出てきますが、がっつり「沼にハマった」のは「ベルサイユのばら」だそうで、そこで主従萌えが刻まれた、ということらしいです。
で、二次創作で漫画を描き始めて、BLにも目覚めてゆく、と。
あれっ小説書き始めたきっかけについて、同じようなこと言ってる人がnoteにもいたぞ(いや私かw)
第二章「夢に見た漫画家へ」
第二章では、高校時代と大学時代、同人誌活動から商業デビューに至る流れが語られています。
そうBLは“萌え”が重要。そして、なんか私はめちゃ肯定された気がする!だってnote界隈ってオタクもBLも少数派な気がしていたので。いやあ励まされますね。
第三章 BL誌でも、少女誌でも
初期の頃の作品にスポットを当てて、当時の創作上のエピソードなどが語られます。
ああ、なるほどです。
私の体感ですけどテーマが「恋愛」の漫画に関して言えば、こういう“キャラクターの背景も含めた世界を描こうとする”感覚って、少女漫画と女性(+青年)漫画が分かれる大きな要素じゃないかなーと思います。
少女漫画で恋愛メインの場合は、キャラを取り巻く世界観って、お相手+学校の友達+親、止まりのことが多いなと。いやもしかして、その方が“子供のリアルな視点”に近い……のかもしれないな、とも感じるんですけども。
青年漫画とか女性漫画だとこれに「職場」とか「親戚」というファクターが加わったりするのですよ。そうすると一気に世界が現実味を帯びて登場人物も増えるというか。
よしながふみ先生の作品にある、ジャンルが中世ヨーロッパだろうと日本の時代劇だろうと“地に足ついた”感は、ここからきてるのかもしれないと思いました。
そして、ちょびっと自分を振り返って反省したりして。
いや……第三者を登場させるって、確かに物語をぐんと深くするんですけど、作劇の難易度もドカンと上がるので。
……「家族」と「喪失と残された人たち」って、私も好きなテーマなので、ここも共通してるなあなどと勝手に共感しました。
まあ、人間ドラマを書こうとすれば「家族」と「社会」は外せないもののはずで……ただ、面白く描けるかどうかは、また別の話なんだよなぁ、などと。
第四章 解決しないことの中に
「執事の分際」「ジェラールとジャック」「西洋骨董洋菓子店」の創作エピソードなどです。
まさしく。人類の進歩って、そういう信念の積み重ねだと思うんですよね。現在に至るまえに、長い長い“これより以前”があるはずで。中世の化学の歴史なんてまさにそのものというか、体制(教会など)からの過酷な弾圧に負けずに、たとえ殺されても、誰かが志を受け継いで真理を追求し続けた、その膨大な屍の上に現代の文明がある、という。
私が科学者を信頼し尊敬しているのも、これこそ人間の崇高さだと思うからです。
そして、名作「西洋骨董洋菓子店」へと。
意外だったのは、連載終了直後は「明らかなハピエン」ではなかった(?)ラストについて「あれってどうなの?」みたいな反応が結構あってショックだった、というエピソード。
そうなんだ…うーんそう言われてみればそうか?いや、私はいいラストだよなぁと感じたので、それはちょっとよくわかんなかった。
よしながふみ先生の作品が私の心にガツンとくるのは、きっとこういうところなんだろなぁ。
いやあ、リアルタイムで作品を読めることがとっても幸せだなぁ。
第五章 ドキュメンタリーのように
「愛すべき娘たち」「それを言ったらおしまいよ」「フラワー・オブ・ライフ」「愛がなくても喰ってゆけます。」……現代劇を中心にした作品エピソードです。
アガサ・クリスティの短編のなかで、ミス・マープル(だったかな?)の台詞に「愛はこの世で最も恐ろしいもの」みたいなのがあって、読んだ時は中学生くらいで、よくわかんなかったんですけど。大人になるにつれてそういうことか、と腑に落ちました。
古典ミステリの犯人の動機って「愛か金」ですもんね。「憎しみ、恨み」も愛から派生してる場合が多いわけで。
あとポアロの「人間の悲劇は、人が本質的には変わることができないという事実から起こる」的な台詞も印象に残ってます。
思春期の読書って、その後の人生に対する考え方とか価値観に大きな影響を及ぼすよね、という。考えてみればアガサ・クリスティってとっくに死んだ昔のイギリス人ですけど(1976年1月12日没)そうやって現代に生きている日本人に影響を及ぼしてるんだから、偉大な作品は国も時代も越えるなあと思います。
この辺りは、まあ、覚悟の違いってことなのかもしれません。それとも自戒のつもりなのかも。ああ、小説売るにはどうしたらいいんだ問題……。
第六章 女性と仕事
そしていよいよ名作「大奥」の話。
綱吉;大体辱めとは何じゃ!?私の前でまぐわえと言った事のどこが悪いのじゃ!!
私は毎夜!!毎夜そうして添い寝のものに己の夜の営みを聞かれてきたのだぞ!何が将軍だ!若い男達を悦ばせるために私がどれほどの事を床の中で覚えてきたかそなたに分かるか!?
綱吉: 将軍というのはな、岡場所(=非公認の私娼が集まる街)で体を売る男達よりもっともっと卑しい女の事じゃ。ふふ。ふふふふふ……
この「大奥、誕生秘話」を読むためだけにでも、この本買う価値ありますよ!
いや衝撃でした。だってフィクションとか……なんなら現在のリアル王族も普通に、世継ぎを〜とか言われて子供作らないといけなくて、それは“ロイヤルの世界では当たり前”と、スルーしてる自分がいたんですよ。でも考えてみればそういうことだなと。
大奥の世界は、女性が力仕事も政治もして、なおかつ子供も産まなきゃいけない世界なんですよね。でもって男性はなにも労働せずに“子種として”大事にされる、あるいは“そこにしか価値がない商品として”扱われる、というね。誰かと結ばれる=子孫を残す、ことの意味。それを改めて考えるきっかけになるという。
……これが漫画で読めるって日本はすごい国ですよね。
日本のサブカルすげえなって、最近は漫画にしか感じないんですけども。うん、高校生以上の女子に、手にとってほしいなあ。
第七章 一緒に歳を重ねて
こんなに長く連載が続くと思わなかった、という「きのう何食べた?」
よしながふみさんの好きな「BL」と「食べ物」ずっとやりたかった「弁護士もの」(作者は法学部出身)。全部載せにしたお話、だそうで。
民事弁護士のシロさんと、美容師のケンジが美味しいご飯を作ったり食べたりして仲良く暮らすという現代劇です。
ドラマにもなったんで、皆さんご存知ですよね。
数あるBLとの最大の違いは「親、そして彼らを囲むまわりの人々と社会」がしっかりガッツリと描かれていること。あとラブい要素はあっても、ラブが話の中心じゃないこと。
主人公の二人は、最新刊ではそろそろ還暦(!)。
お爺さんになるまで連載続くかなあ。続いてほしいような……すこし怖いようなw
この作家さんは「フィクションとはいえ我ながら白々しい嘘」と感じながらお話を描くことができない方なんでしょうね。現実劇でも他の時代でも、自分の中のルールに反することは書かない、描けない。それがブレない感じというか、説得力に繋がっているのかもしれません。
良いものを生み出せる作家ってどっかそういう頑固さというか、筋の通し方をする方が多い気がします。ポイントなのはそれが独りよがりではなく徹底して「読者ファースト」という点でしょうか。
影響を受けたという作品群から学んだ姿勢かもしれません。
そして話はご近所の主婦友、佳代子さんのことへ。
結構、隠れファンも多い脇役なんじゃないですかねー。そのへんに普通にいそうな「おおらかでわりと料理上手なオバちゃん」。
ほんとBLって、ストーリーの尺が短いからってのもあると思うんですけど、直接はなしに絡まない人って出てこないんです。そもそも女性が出てくることも稀だし、ご近所さんみたいなキャラは皆無。
だから佳代子さんのような、コストコでまとめ買いした6本パックの歯磨き粉を分け合う友達、みたいなのは初めてみたかもなーと思います。けっこうエポックメイキングなキャラなんじゃないかな。
第八章 ずっと漫画と――これまで/これから
この章では、今までのインタビューを振り返っての総括と、今後の作品づくりへの気持ち、読者に向けたメッセージなどが入っておりまして、個人的には
「創作する後輩たちにご自身が何かを伝えるとしたら?」という問いかけに対するお答えが「おおー!」と、思いました。
……が、それは実際にこの本をお手にとって読んでいただいた方がいいかなと思います。よしながふみの作品が好きで、自分も後を追いたい、漫画家になりたいと考えている人がいたら(こういう本を買う人の中にはたくさん居そうですけれども)間違いなく勇気をもらえる言葉だと思います。
巻末には、よしながふみの作品の紹介が載ってて、なかなかお得感があります。
「大奥」映画になったの知ってるけど、原作読んでないわ〜という方!
「きのう何食べた?」ドラマしか観たことなかったけど好きだったなあという方!
原作を読んでみましょー
あと「西洋骨董洋菓子店」も、かなりおすすめですよ〜
漫画好きとして保証します。絶対に面白いっす!
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