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アイロンがけとスタンプラリーと短いペン

9時起床。
今日は平日の休日。
大いなる自由。
なんでもし放題の日だ。

なのでまず、コーヒーを淹れる。
これは仕事の日も変わらない。
そして窓辺の高座椅子に腰掛ける。
そして、今日何しようと悩む。
頭を抱えて悩む。

贅沢な悩みではあるが、贅沢であっても悩みであることに変わりはない。
うーん、どうしよう、やることがない、いやホントはやらなきゃいけないことなんて山ほどあるんだけど、いまはそういうことではない、どうしよう、なにしよう、どこかへ行こうか、でもどこへ、うーん、と悩む。

とりあえず芸人さんのYouTubeを見ながら、あ、そういえば、洋服のアイロンがけをしようと9千年ぐらい前から思っていたんだと閃いて、今日はアイロンがけをしようと決めた。
ローテーブルの上に使っていないバスタオルを敷いて、アイロンマットの代わりにする。
半年ぐらい前に買ったスチームアイロンに水を入れ、電源を繋いで温める。

衣替え、みたいな概念があまり無いけど、去年の暖かい時期から着なくなって、箱にテキトーに畳んで収納されていたTシャツたちを引っ張り出す。
ほとんどが皺だらけで、でもアイロンがけをしてちゃんとすればまた着られるようになるので、必要なタイミングで一斉にやってやろうと思っていた。
衣替えだなこれは。
今から衣替えをするのか私は、と思う。

アイロンがけはまあ、やってこなかった。これまでの人生で。
一人暮らしを始めて、近年やっとやりだすようになったくらいだ。
それも、それこそ衣替えの時期とか、冠婚葬祭でスーツを着る時に思い立ってやるぐらいで、全然習慣として身に付いてはいない。
アイロンの使い方も毎回忘れるので、毎回説明書を見ながら扱う。

そういうわけで、アイロンがけは午後3時までかかった。
始めたのは10時とか11時とかだったかな。
うんうん、まあそうだよね、そのくらいかかるよね。
アイロンがけは根気のいる作業だって言うしね。
聞いたことあるし、絶対に。

Tシャツの枚数がね、多かったからね。
ローテーブルの面積が大きくないから、そのぶん作業効率は落ちるよね。
そうそう。
おかげでラジオとかオーディブルとかたくさん聴けたし。
聴覚で楽しみながらの作業だから合理的で、いい時間だったよね。
そうなんだよ。

アイロンがけっていつ終わらせればいいんですか?
一枚のTシャツにどのくらいの時間をかければいいのか全くわからないんですけれども。
なかなかシワが落ちなかったり、ひっくり返したら一度かけたところにまたシワができていたりして、一枚を終わらすのに永久とも思える時間を要するんですけど。
けったいな話ですよ。

最初の数枚は丁寧にやりすぎたんだなとわかって、後半からはスピードアップしたつもりだったが、それでもシワの一つ一つが気になって、もうちょっとやればこのシワも落ちるんじゃないか、とか思って、ファッションにそんなにこだわりがなくて、自分の着る衣類というものにそこまでの愛着を持ったことがないにもかかわらず、変に几帳面に神経質にやりすぎて、ダイアンのラジオ30分と、荻上チキさんのラジオ1時間と、あとの時間はamazonオーディブルで森博嗣さんの小説の朗読を聴きまくってしまった。

まあ結果、非常に有意義な時間を過ごせた。
必要以上にシワを伸ばして必要以上に綺麗に畳んだTシャツを、もうシワができないような形に整えて、わりかしすぐに取り出せるような収納スペースに収納した。
部屋が暑くて汗をかいたり、正座していたので足が痺れたりする苦労を乗り越えて、長時間の格闘を終えたのだ。
終えた後の完成系が見ため的に綺麗なものになるからいいねアイロンがけは。

午後3時。
朝から何も食べていないのにお腹が全く空いていない。
集中力の賜物である。
冷凍パスタをチンして食べた。

良い天気だ。
快晴ではなく、ほどよく曇っている。
これは出かけた方が良い。
そう思いながらもうだうだしていたら、友人から電話が来る。
ウダウダ話していたら、16時を過ぎてしまった。

行き先は決まっていないがとにかく部屋を出ようと着替えをする。
別に、いまアイロンがけしたTシャツの中の一枚を着ればいいんだけど、なぜが躊躇われて、アイロンがけはしてないけど最近買った綺麗なTシャツを着る。
いまアイロンがけしたやつを使ったら、何か勿体ない気がしてしまう。
せめて一日は、綺麗に畳んだ状態で置いておきたいのだ。
こういう心理をなんというのだろうか。

下はジーパンを履いて、上にカーディガンを羽織って、茶色いキャップをかぶって、リュックを背負い、玄関の姿見で自分の全身を眺めて「ダサ」と言って部屋を出る。
自分に合うコーディネートというものに出会ったことがない。
変だと言われない無難なものを纏えていれば、自分でダサいと思っても及第点としている。

空はどんより曇っている。
梅雨入りというのはもうしているんだろうか。
気象庁らへんが発表している、梅雨入り・梅雨明けのタイミングというのは毎年あまりピンとこない。
そういう人が多いのではと思う。
梅雨明け以降に雨が降り続いて、梅雨明けの発表早過ぎたよね、みたいな会話が近年多く聞こえてくる。

梅雨入り・梅雨明けは人の価値観によって違うものなのではないかと思っている。
人にはそれぞれの梅雨入り・梅雨明けがある。
宗教観、ぐらい違っていいものだと思っている。
それで良いではないか。
一つに決めようとすることに無理があり、時に市井の人々の間で無用な不満が生じるのだ。

そんなことを考えながら街を散歩した。
いま住んでいる地域で、デジタルスタンプラリーが行われている。
サイト上でマップに表示される駅周辺のお店とか公園とかに近づくと、位置情報を感知してサイト内でスタンプが押されるのだ。
スタンプを指定の個数集めると、景品プレゼントに応募ができるのだ。
この地域に住む人々に、街の散歩を楽しんでもらいながら、色んな名所やお店の場所を紹介しようとする試みだ。
こういう企画はユニークだし、地域の一体感があって面白い。

今日はこれから、そのデジタルスタンプラリーをやってみようと決めた。
数日前にお知らせのチラシがポストに入っていたのだ。
スマホで特設サイトのマップを開きながら、お店を巡ってみた。
思ったより範囲が広くて、スタンプ15個ぐらい押したところで疲れてきた。
まだ一つも応募できないけど、続きはまた後日にしよう。
期間はまだある。

その足でデパートに入る。
そういえばここ数日、ずっとお店で探しているのにどこにも売っていないものがあったのだ。
それは短いペンだ。
百均とか、文房具屋さんとか、文房具が売っているタイプの書店とか、色々見たけど目当てのものがなかった。

普通のペンの半分ぐらいの長さのペンが欲しい。
なぜかというと、小さいメモ帳を買ったからだ。
小さいメモ帳に普通の大きさのペンを挟むと、ペンがメモ帳からはみ出る。
それが嫌で、メモ帳の大きさに合ったペンが欲しいと思った。
でもなぜかどこにもないのである。

存在しないの?小さいペンって、と不安になるくらい全然売っていなくて、小さいメモ帳はよく売っているんだから、その大きさに合うペンも売ろうよ、と思う。
デパートの中の、バラエティ豊かな生活雑貨店に入った。
こういうお店の方があったりしてね。
文房具コーナーは結構広く取られていて期待は高まったが、一見したところ見当たらなかった。

なぜ、と疑問がまた強くなる。
不満を覚えながら念の為もう一度ボールペンコーナーの棚を見てみたら、並びの隅っこに一種類だけやっと見つけた。
他のペンの大きさに圧倒され、肩身を狭くして隅っこに追いやられている小さなペンたち。
身を寄せ合うようにして狭いケースの中に収まっていた。
冬の寒さに耐え懸命に生き抜こうとする小動物のごときその集合体の健気な姿が、私の心を暖かくした。

やっと見つけたよ、こんなところにいたんだね。
私は彼らを刺激しないように、できるだけ優しく語りかける。
1種類しかないのかい。
他のものは全員大きなペンに食べられてしまったんだね。
でも君たちが無事でよかった。
よく生き残ってくれていたね。
頑張ったね。

大きな(通常の)ペンの種類の豊富さと比べて、短いペンは本当に1種類しかないみたいで、そのことに不服さを感じたが、でも小さいながらもデザイン性もよく、私は迷わずそれを購入することにした。
440円という値段を見て、一瞬迷ったが、迷わず購入した。
こんなに小せーもんが440円か。

そのあと服屋や本屋さんを周り、食品売り場で食品を買って、最後に薬局で制汗剤やBOXティッシュなどを買って帰った。
お菓子も買った。
自由な休日であった。

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