『弟の夫』“家族”をテーマにしても避けられない同性愛物における肉親不在

『弟の夫』のドラマを見ました。”同性婚“をした弟を持つ兄の視点から、家族関係について書かれた作品であることは、知っている方も多いと思います。

私は何となく知っているような知らないような状態で見て、なかなか興味深いなあと思ったし、あと予想以上に把瑠都が演技がうまくてびっくりしたのですが、子役の演技が大げさなのはまあいいとして、第2話まではテーマと登場人物にかなり引き込まれていったわけです。

そして全3話を見終えて、いいドラマだと思いました。

特に最終回のマイクのセリフ

「絶対の約束はできません」(うろ覚え)

の誠実さがとても心に刺さった。

子供相手にもごまかしをしないマイク。彼のそんなフラットでまっすぐな誠実さは、それまでにも随所で描写されていましたよね。ゲイであることに悩んで訪ねてきた少年が胸の内をさらけ出せたのも、彼のそういった懐の深さによるものだと思います。Twitterで「マイクを見ているとその夫の涼二がどれだけ大事にされて幸せだったかわかる」といった投稿を見かけ、確かにとうなずきました。

最初は小学生の娘が偏見のない目で同性愛を肯定することで、その父である弥一も見方が変わっていくという流れかと思っていたのですが、違いましたね。この作品は完全にマイクの人柄が持っていきました。把瑠都の演技も本当に良かったし。

で、「マイクというキャラクターの魅力とそれによって視野を広げる主人公たち」という物語としてとても素敵だと思ったのですが、最後に疑問が残ったのも事実。

これ、テーマは”家族”ですよね? もっといえば“家族の在り方”かな? 温泉旅行のエピソードでそれは如実に表れていたと思うし、そうでなければ弥一と別れた妻の微妙な関係の必要性がない。

しかしだとすれば、この物語は最終回(ドラマの)のあとこそが大事なんじゃないの!?

涼二は癌で亡くなったわけですよね。あとちょっとうろ覚えですけど、たしか両親もそうだったような。じゃあ遺伝的に、弥一もがんで亡くなる可能性は高いのでは? もちろん癌でも早世するとは限りませんが、しかし物語の設定はそうなりうる可能性を示唆しています。

で、もしそうなったら、夏菜はマイクと夏樹(弥一の元妻)に育てられることになるのでは? そしてそうなることこそが、すべての垣根を取っ払った“家族”の在り方なのでは? もちろん大好きなお父さんと別れることは辛いけれど、それでも大事な2人と立派な家族としてやっていくという選択をなぜ描かなかったのかなあと疑問に思いました。

しかし実際、日本を舞台に同性愛を描くには、どうしても家族関係は邪魔になるのかもしれません。

私もそこまでたくさん読んだわけではありませんが、いわゆるBLにおいて主人公たちの両親が描かれない作品は割合として多いです。これは萌えのために邪魔というのもあるでしょうが、その根底には、同性愛と肉親関係にうまく折り合いをつけられないというのもきっとあると私は踏んでいます。

だって主人公(メインカプ)の年齢が上がる = 結婚を意識すべき年齢になる につれ、両親の死亡・絶縁率は上がっていきますからね(自分調べ)。高校生同士の恋愛ならギャグとして親を登場させられても、いい年になるとそうもいかないということでしょう。それに恋愛に関して現実逃避したいがためにBLを読む人が多いので、結婚というリアルなワード自体、興がそがれるファクターになるのかも。

萌えを重視していない『弟の夫』であっても、弥一と涼二の両親を登場させなかったのは、やはり日本が舞台だと話をまとめるのが難しいからなのでしょうか。息子がゲイであると知った両親のショック(一般的なレベルで受けると仮定して)をどう解消するかまで描くと、物語的には蛇足になりそうですしね。

でもなー、“家族”をテーマにするなら、今後の変化も包括して描いてほしかったというのが正直な感想です。同性婚がもっと一般化したらそんな作品も出る…かな?

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