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「蝶々の遊ぶ庭」

抜ける風
汗ばむ体が生き返る
ぱたぱたと首をかしげて揺れる草木
蜃気楼の向こう側には
夏のあの日に戻つたかのような
幸せそうな笑い声
子ども
小さな子どもたち
女の子だろうつややかな高い声
幼くもすでに華やかな気配
チリンチリンと
あの頃はまだハイカラで
乗っていると振り向かれた自転車
連れ立って散歩から戻ったのだろう
里帰りの若い夫婦は
いや
孫にねだられて買い物から戻る老夫婦か
或る幸せを
垣間見るも
直視も出来ず
盗み見るゆえんもなく
我が庭にただ佇む

安納紅葉と言ふ芋を貰う
小さめで皮薄く向きやすく手頃なもの
人に譲らずしばらく食す
喉渇くば蜜柑の頃合い
夏の名残りの茄子を油で揚げ
揚げ立てを白い飯で食べたいと思う
それが理想の生活であろう
世の中
無駄なものに金を払わせようとの仕組み
今はまだ
奉仕つかまつる

きらきらとした光の粒と
一段と明るい光のベールが降りて来て
おしろい花や水仙の茎葉の周りを飛び回る
紋黄
紋白
シジミ蝶
橙に桃色の模様の蝶
小さな蝶々たちが楽しそうに
忙しく羽を振っている
それは励ましだったかのように
夢のように
幻のように
すぐ消えた

春風の百合香る
夏風のサイダーと綿飴の匂う夕空
来たのか忘れたのか枯れたのか
鼻腔に残る金木犀漂う
恐れながらも冬木立の
清らかな空気を吸う匂い
どこかで焦げるようなにおいに
秋の透明な虫眼鏡に灼熱の地獄を思い出す
若き日の
自分に
苛立ちて







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