![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/75820387/rectangle_large_type_2_8ead0e92f677428e7fa5153858eb7c9e.png?width=1200)
「神秘捏造」ミステフィカシオン~女人訓戒士O.D~
『待ちぼうけー兎の女」⑤
仕方あるまい
私は食べることが好きだ
食は性慾にも関連して、私は女性というものが好きだ
缶詰めを見つけた
戸棚の引き戸を、左から右に引いたら
ぼた餅が出てくる予感があった
それは幻想だった
下の引き戸を開けたら、缶詰めを見つけた
少しの冷やご飯に鯖の缶詰、汁ごとかける
味見の素降らせるは雪のごとく
「私はね、味見の素しか確信が持てないんだよ。味見の素は舌の上ではエグみで吐き気をもよおすが、食物にかければなぜか味わいは旨味に変わる。なぜか」
彼はなおも深夜の台所で猫の飯のような、鯖かけ汁飯をかき混ぜている
「私がね、味見の素に確信を持つのはね。期待と希望だよ。願望ともいうね。私はね、ある時。庭の池の鮒や鯉に味見の素を餌にあげたのだよ。そしてどうしたと思う?池の鮒や鯉はぷかりぷかりと、目を剥いて浮かんで来たのだ。私はね、味見の素に確信を持ったよ。私を死に至らしめる優雅な毒は、これなのだとね」
見れば鯖の身には大雪のごとく白い花咲く
東京の竹は孟宗竹
破竹ーはちくの柔らかな、あのにおいにも吸い込んだら吐き気がする
竹の実の生青いにおいは・・
根曲がり竹はない
チシマザサではない
ノゲノゲした筍の皮を剥かずに七輪で炙り焼く
醤油と味見の素を振りまき、すっかりゆだったそれを噛る季節だ
だがとっくに私は知っている
味見の素は人間を死に至らしめる毒ではない
むしろ中毒性があり、量が増える一方の悪魔的調味料だ
筍の皮は梅干しを包み、皮を開いて種までしゃぶる
ガリリ・・と噛んだ種は、私の歯が悪くなった由縁
あの欠けた梅干しの種の中の、酸っぱい実が好きだった
鯖の汁かけ飯に小粒梅干しふたつ
「待ちぼうけ 待ちぼうけ
もとはすずしいきび畑
今は荒野のほうき草
寒い北風 木の根っこ」
私は雪の中に赤い目の兎を見つけた
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?