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「神秘捏造」ミステフィカシオン~女人訓戒士O.D~

『待ちぼうけー兎の女」⑤

仕方あるまい

私は食べることが好きだ

食は性慾にも関連して、私は女性というものが好きだ

缶詰めを見つけた

戸棚の引き戸を、左から右に引いたら

ぼた餅が出てくる予感があった

それは幻想だった

下の引き戸を開けたら、缶詰めを見つけた

少しの冷やご飯に鯖の缶詰、汁ごとかける

味見の素降らせるは雪のごとく

「私はね、味見の素しか確信が持てないんだよ。味見の素は舌の上ではエグみで吐き気をもよおすが、食物にかければなぜか味わいは旨味に変わる。なぜか」

彼はなおも深夜の台所で猫の飯のような、鯖かけ汁飯をかき混ぜている

「私がね、味見の素に確信を持つのはね。期待と希望だよ。願望ともいうね。私はね、ある時。庭の池の鮒や鯉に味見の素を餌にあげたのだよ。そしてどうしたと思う?池の鮒や鯉はぷかりぷかりと、目を剥いて浮かんで来たのだ。私はね、味見の素に確信を持ったよ。私を死に至らしめる優雅な毒は、これなのだとね」

見れば鯖の身には大雪のごとく白い花咲く

東京の竹は孟宗竹

破竹ーはちくの柔らかな、あのにおいにも吸い込んだら吐き気がする

竹の実の生青いにおいは・・

根曲がり竹はない

チシマザサではない

ノゲノゲした筍の皮を剥かずに七輪で炙り焼く

醤油と味見の素を振りまき、すっかりゆだったそれを噛る季節だ

だがとっくに私は知っている

味見の素は人間を死に至らしめる毒ではない

むしろ中毒性があり、量が増える一方の悪魔的調味料だ

筍の皮は梅干しを包み、皮を開いて種までしゃぶる

ガリリ・・と噛んだ種は、私の歯が悪くなった由縁

あの欠けた梅干しの種の中の、酸っぱい実が好きだった

鯖の汁かけ飯に小粒梅干しふたつ

「待ちぼうけ   待ちぼうけ    

    もとはすずしいきび畑

    今は荒野のほうき草

    寒い北風   木の根っこ」

私は雪の中に赤い目の兎を見つけた

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