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「家中雑音」

『まいったな』

安積は部屋に入ると、その場で固まってしまった

荷物も背負ったまま

一人掛けソファーの角に

腰をおろした

なんと言うか・・

やる気を殺がれる

なにかに監視されているようで

しんに落ち着けない家だ

それは隣近所の目なのか

自分の疑心暗鬼の心がもたらす不安

なのかはわからない

ホホー
ホホー

正午の鐘を知らせる鳩時計


ホホー
ホホー

12回鳴いた後

バサバサと羽を広げて飛んでゆく

最近は慣れたとみえて

違う部屋に遊びに行く

そしてあと30分もすれば戻って来て

また一度

ホホー

と鳴く

雑音

て、程でもないか


フォアン
フォアン
フォアン

踏切が鳴る

ゴオオオオオオ

列車が庭先を通過して行く

だいたい、10分、15分置きに

なぜだか一方進行の列車だけが

通行する

雑音て訳ではないか


バキインッ
バキッ
ゴツ

決まって部屋の同じ所から

家鳴りの音がする

外気温と中の湿度に異常な差があるのかな

季節が過ぎれば消えるかも知れない

雑音、みたいなものか

外に行くと人が三密していて

ワイワイ
ガヤガヤ
グニャグニャ

こんな声で人が話している

虹色の綿菓子の空に

付箋が浮いていて、人の声が録音テープでなく

流れているメロディの脇に

『嘲笑う声』『含み笑い声』『奇声』『怒り全般声』

『苛立ち声』『鳴き声』などの吹き出しが浮いている

もとより説明がついていても頭に入って来ない

騒音と言うところか

そういう訳で妻が出て行った

見ると地下まで続くのか知らないが

螺旋状の階段が畳の部屋に出現していた

鏡にコーティングされていて

鏡の中に入子になった鏡がたくさんあり

螺旋状の階段は果てしなくも

一番最後の入子鏡の焦点の中に

吸い込まれるように繋がっていた


このように地盤も地場も歪んで

家屋も斜めになった欠陥住宅なんぞ

争うだけで100年、かかる気がした

帰りたくなくなる家

今日はどこで眠ろう


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