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【黒い森】~雨蝶の夢~

[雨情と無情]

北の森の要塞と呼ばれるNingooは、コンクリートの外壁に長い年月をかけて浸食して出来た、自然のバリケードに覆われ非常に安全であった
ゆえに、この要塞『金の船』分社代表代理となったUZYOH.NOGUTIは、自然の脅威に大いに阻まれ容易に足を運べない、うるさい編集者から安眠を死守出来ていた
RIKA.MUZYOHは、若いながらも敏腕締め上げ・・no
敏腕〆切・期日前完全提出・第1級伴走者として広く名前を知られていた
そんな彼女が、こんなイバラの森に入るのを躊躇するくらいで原稿をあきらめるだろうか
(おかしい、何かある)
彼U.NはこのNingooの森に来てからと言うもの、かつて果たせなかったポエマーとしての本懐を遂げることに心血を注いだ
子ども相手の商材を扱うこともあり、ややスキャンダラスで都落ちした気もしないではないが『金の船』社の暖簾分け的な好意に甘えている

家業とやりたいことのはざまで、女たちとの暮らしがそのどちらをも活性化したとは思わない
ポエムへの情熱を押さえ切れず、彼はトーキョーを目指した
しかしちち・ははの命をもってしての念力の強さに負けて郷里に戻っても、女の元へ身を寄せたりした
女たちは献身的であり、彼女たちと愛の結晶との生活はポエムに収まりきらず、勝手に謡い出す始末であった
市井の人々は、U.Nのポエムをあちらこちらでメロディをつけそれは伝染歌していった

RIKA.MUZYOHは、ごく若い頃彼のポエマーとしての名前に興味を持ち、いろいろと立ち入ったことを調べたりしていた

「意外に女泣かせなのね。知らなかったわ」
出会った頃はよく、そんなイメージじゃなかったとか
いまだポエマー名の由来が誰にも解かれていないのが、謎めいていて良かったのにとか
ちくりちくりとやられていた

彼女ははじめ、編集者ではなく民話や童謡に隠された謎によって起きた事件を調べる調査員だった

それがある事件を追っているうちにワタシのところにたどり着いたと言う訳だ


ジリジリジリジリ
ボンボンボンボン

『金の船』分社  広報室の黒電話が鳴る

「ふぁい」

ワタシは寝ぼけまなこをこすり、電話に出る

「わたしよ、リカ・無情」

「ふぁいはいはい」

「わたしたち初の季刊紙。タイトルが決まったわ」

「へぇ」

「惜しまれつつも閉刊になった死のメルヘンから二年」

「えへ」

「雨情と無情よ」

「・・はい?」

「わたしたち二人の初の季刊紙だから。二人の名前よ」

「まんまだよね・・」

「あらなに、不満?」

「うん、あ、いや」

「いいでしょ、この世はまさに有象無象の怪奇な夢見る卵の中にあるんだから」

「だから語呂合せなんだ・・」

「そうよ」

冷たい雨が降りだした暗い森の中で、カラスが三回鳴いた
次々と他のカラスたちも応え始める

カラスが鳴くと人が死ぬ知らせだそうだ

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