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「トンネルは向こう側」

K市には有名な幽霊トンネルがある
男と女の幽霊が出る
特に女のほうがタチが悪かった
女は結局、執念深くしつこい生き物なのか

K市には子供の頃、引き取られて住んでいた
親が引き取りに来たので、高校生からは親が借りてくれたアパートで暮らした
だから酒も悪い遊びも女も早く覚えた

その日はK市に友人とその女友達二人と、ドライブに行った
K市には俺を育ててくれた大切なおばさんがいた
おじさんは漁師で口が悪かったが、俺を可愛がってくれた
二人の子供、俺の従兄弟なんだが、双子級に俺たちはよく似ていた
気性が荒いのも
おじさんとは俺は血が繋がっていないから、顔と気性の荒さは母方の・・
おばさんに似たのかも知れない
おばさんは従兄弟より俺には優しく寛大だった
肝っ玉母さんで働き者だったけど、ヤクザに難癖つけられたおばさんは、逆に叱り飛ばして奴らペコペコしていた
だから俺たちはおばさんの血を濃く引き継いだ

「行くんじゃないよ!わかってんだろ、まーちゃん。あのトンネルには絶対行くんじゃない!!」

おばさんが何もかもお見通しのように、俺に釘を刺した

たいていいつも、無駄なことだった

そのこともおばさんはよく知っていた

友人には一応、わざとらしいしトンネルの話はしなかった
そこを通る必要のない場所にドライブするつもりだった
だがだんだん雲行きが怪しい

ついになぜかそのトンネルに引き寄せられるかのように、道を逸れ、確実に俺たちは近付いているおかしいのは友人だ
明らかに様子が変になってきている

トンネルに入った
入り口を過ぎてエンストした

「あ、あ、あ。エンジン・・エンジン!かかんねぇ!」

友人が錯乱し始めた
みるみる顔が青ざめて、俺はおしゃべりもなくなり静かになった後ろの二人を見た
女のひとりの顔が歪んで来て、この世のもんじゃないような、 ゾッとするくらい怖い女の顔に変わった

「あんた、なんだよ。人の車に勝手に」

俺はミラー越しに聞いた

『この男・・許せない』

なにかやったんか、この野郎
俺は内心、また面倒に巻き込まれたことを後悔した

「話聞いてやるから。言ってみなよ。あんたなんなんだよ、いったい」

『わたし・・男に殺された。殺されてここで棄てられた・・男に別れ話されて騒いだら・・この男、この女に別れ話をしてここに来たんだ。だから女を、殺す気だったんだ。許せない、許せない。また殺すなんて、絶対許せない」

「逆怨みはやめろよ。あんたを殺ったのはこいつじゃねえよ」

『この男・・この男・・。女に別れたいって、勝手なことばかりして・・この女の友達と・・この女も許せない!!」

見ると隣の女の様子もおかしい
この幽霊女との関係はよくわからないが、別の男の霊が隣の女の体に入って、自由を奪っているらしい

「おい、やめろよ。早まるんじゃねぇぞ。俺がダチに聞いてみるから、別れ話も本当なのか。だからこいつらには何もしないでくれよ」

『殺さないか!?だけど捨てる気だろう!あんなに尽くして尽くして・・別の女と』

「こいつを殺すのか?」

『殺してやりたい』

「俺のことは殺さねぇか?」

『こ・・殺さない・・』

「よしわかった!悪いようにはしない。ちょっと待ってな」

俺は猶予を取り付け、青ざめて放心状態の友人を叩いて、問いただした

「お前、後ろの娘二人と出来てたのか!?」

「う・・なんで知ってんだよぉ。いきなりなんだよぉ」

「お前、別れ話したか?」

「した・・もう別れてぇって言った。だけど承知してくれねぇ・・」

「それでよくてめえの女の友達の、てめえの女2号まで連れて来れたもんだな。お前を殺すって言ってるぞ」

「はあ?誰がだよお・・」

「ここで別れ話のもつれで男に殺された女の幽霊にだ」

「いひいいいいぃぃ~~」

「とにかく代われ。俺が運転してみる」

「あひぃ~あひひ~」

ガチッガチッ
ギュルッルルッ

「よし、かかった!バックレるぞ!」

瞬間、バアンともの凄い音がして、俺側の窓ガラスに手のひらが叩きつけられ、バンバンと窓を叩いている
真っ赤な血が手のひらと腕に流れている

そして窓ガラスと言う窓ガラスに、たくさんの真っ白い手形がペイントされていった

(叩き壊される!)

「お前降りろ!降りて幽霊に謝れ!土下座しろ!それがダメなら俺らのために殺られろ!」

「ひい!嫌だ嫌だごめんなさいごめんなさい!殺さないで~!」

その瞬間、フロントガラスに血だらけの女の顔が叩きつけられた

「ギャアアアアア」

夢中でエンジンふかしてアクセル踏んだら、車が動き出した

「エンストエンスト、しねぇでくれぇ~」

なんとか俺たちはトンネルを抜けられたが、トンネルを直進で抜けただけなのだった

俺は生きた心地がしなかった

だが女は俺は殺さないと言った

あれから当時の年齢を、成人式数回越えた

おばさんは数年前に亡くなった

「今の俺の大事な人だよ」

そう言って女の写真を見せたら

「あらー、優しそうな人だねぇ・・」

嬉しそうに写真を見ていた

「怒るとおばちゃんみたいに、いや、おばちゃんよりこわいよ~」

「良かったねぇ・・まーちゃん」

「うん」

それから何日かして、おばさんは病院で息を引き取った

(絶対、トンネルには行くんじゃないよ)

俺は今もトンネルの仕事を辞めないでいる

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