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「すみっこクマさんカフェ」💙💚🧡💜

【本日のお客様】  マダム猪野原

(おそらくイノシシと狐かなにかとの交合生)

  性別   間違いなく女性かと

  職業      アクセサリー作家
                          ❌
                森の雑貨屋さん

 主に貝殻でアクセサリーを製作

  特徴      特出した魅力でおやじを狩る

  (先客A)大工の蓮司

  (先客B)炭焼きのタケ


マダム猪野原の店は、北側にあるねむの木の森の中にある
彼女はアクセサリーを売っている
雑貨と、それと一点ものの洋服を少し
アクセサリーは彼女の手製による
ジュエリーデザイナーと言うよりも、可愛らしいアクセサリー奏者と呼びたい
猫と豚の合の子・ランちゃのようなティーン(?)から絶大の人気を誇る

「白い貝殻のイヤリング。ベタね」

マダム猪野原はクマさんカフェの入り口の専用コーナーで、小さなドリルの先のような巻き貝のイヤリングをつまんで揺らすと、そうつぶやいた
彼女はクマさんの店にもアクセサリーを委託販売している
まるで歌の採点のような鉄の鍵盤を鐘で鳴らすように、小さな真珠のイヤリングの垂れた鎖を指で最後尾まで弾いた

(結構売れてますからね。マダムのアクセサリーは華奢だが、余計な金具がない分強固に作られている
なにより小さくて可愛いし、ティーンがつけてもシックだと人気だ)

森の中に貝殻のアクセサリーSHOPと言うのにも理由がありそうなのだが、マダム猪野原はミステリアスなところがあるから、そこも越して来てから維持出来ている人気の秘訣だろう

「クマさん、サンドイッチくださいな。白いフカフカの食パンのね。ああでもライ麦の黒いのに練乳砂糖の挟んだもの。あれも食べたいわ」

マダム猪野原は、人間の女の黒髪と見まごう光線の角度で緑色に光る襟巻きを解きながら
、読み聞かせの朗読のような見事な滑舌で注文するのだった

ああ、なんて心地よい麗しい声か

クマさんはしばし、悦に入ってしまう

いきなりそこに強烈なレモンバームのような香りが、鼻をつく
しぶみが鼻の奥に残る

(うッ)

よく育って葉の硬く大きくなった山椒の枝が、クマさんの鼻先にかざされている

(ほとんど野生化した樹木じゃないか)

「大工の蓮司じゃねぇか。なんだ?雨で休みかよ。山椒くせえぜ、ウナギ食いてくなるじゃねぇかよ」

「おぅ、炭焼きのタケさんじゃないか。あいかわらず蟹みたいな潰れたみてぇな顔で。竹水炭飲んでるんだねぇ」

「へ、るせぇな。オレはカニと親戚なの。ご先祖さまがカニ産んだんだよ。ささ、デトックスですぜ、どうですか一杯、マダム」

昼間からむさ苦しい親父が二人もいて、そこにマダム猪野原が来店
まさに彼女が来ると踏んで網を張っていたにちがいない

やれやれ
クマさんは内心、ため息をついた
長くなるなあ、ランチ・・

「あら珍しい。いただこうかしら」

(えッ。まあ、さすがの親父捌きだな・・)

タケさんがうれしそうに自らのコップの中身を床にまいて、マダムに渡そうとするより早く、クマさんはマダムの前にコースターとグラスを置く

にっこりとマダム猪野原

(タケさんとマダムが間接キスなどあってはならない)

そしてもちろんタケさんのほうを見ない

しかしみればちゃっかりウナギの仕掛けの竹編みを持っている蓮司兄ぃさん

「いいですわね。脂ののったブツブツ焼けるウナギの皮、口の中がジュワッとしてきたわ」

そもそも山椒って実がなるのだろうか

青い実のうちに採るというが粉なんか作れるのだろうか
乾燥したりして・・挽いたりして・・どうしたら
粉末になるのだろうか・・

カフェのオーナーとしては未知の領域だが、気になる

「あ、マダム。タケさんお手製の柚子ジャム頂いたので。パンにはさみますか?なにか炭酸で割りましょうか?」

「あら❤️素敵。美味しそうね。ううん~と。あ、そうだわ。クマさあん、巨峰のシロップとミネラルウォーターで割って下さる」

「かしこまりました」

クマさんはピッ、と背筋を伸ばして思わずマドラーを掴んだ

(巨峰シロップ。そうきたか)

(ヨーグルトにも柚子ジャムだ)

「マダム。それではこちらをどうぞ。特製クマさんランチ。クマさん盛り!です」

苺のタルト
檸檬パイ
一口レアチーズケーキの山椒の葉っぱ乗せ
練乳砂糖の黒パンにキノコのミニグラタン

(どうでしょう、この色の美しさ)

そして柚子ジャムと巨峰シロップ割り

「すごいのね、クマさん。今日はもう、夕方まで遊んで行くわ」

「ほんとですか、マダム!」

「ええ、ちょうど雨降ってきたようだし」

「温かい珈琲も出しますよ。炭火焼きブレンド。タケブレンディ頂きました」

クマさんは奥カウンター席の二人を、うやうやしく仰ぎ見る

「雨かあ~、残念だなあ。俺ら、丸ッた木材しまってこねば。雨なんて聞いてねぇー」

「んじゃ、ごっそさん。マダム、名残り惜しいですがごゆっくり」

蓮司とタケは連れ立って出てゆく
なんだかんだ口は悪いが、いつもつるんでいる仲良しなのだった

「さあ、どうか召し上がってください」

「ええ、いただくわ。ほんと美味しそう❤️」

マダムが食べながら

「とっても寒くなったわね。凍えちゃって大変よ、霜ばしらおりたわよ」

「もうじき森が閉ざされますね。クリスマスが終われば、森へは外のお客様が入ってこないように、水晶のつららが垂れ、地面から槍のように生えそろいます。森が冬眠するはじまりですよ。クリスマスパーティー、振り分けておきますので、おいでくださいね。三日間、森中から集まるので楽しんでくださいね」

「もう森やすみ、の時期なのね。わかったわ、パーティー伺うわね」

ホロホロ・・ホロホロ
口どけやさしい
森にあまるい飴が降る
ストーブあったか
だあれも外には出たくない
それでも誰かが覗いてる
クマさんカフェは年中無休です

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