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本からYouTubeへの流れ/半強制デジタル・デトックス

Weekly R-style Magazine ~読む・書く・考えるの探求~2020/03/02 第490号

はじめに

はじめましての方、はじめまして。毎度おなじみの方、ありがとうございます。

所用があって、奈良の三条通に出かけたのですが、びっくりしました。二ヶ月前には外国人観光客で溢れかえっていた街が、ひっそりと静まり返っているのです──というのは、さすがに大袈裟ですが、それでも旅行客をほとんど見かけなかったのは確かです。

最近の奈良市は、そういう観光客でちょっとバブル化していたので、経済的に大ダメージが発生していることは想像に難くありません。しかも、どうやら短期間では復調しないようなので、今年の奈良市は──奈良市だけではありませんが──えらいことになりそうです。

〜〜〜最後のジュンク堂〜〜〜

2020年2月29日、ジュンク堂書店京都店が閉店するということで、最終日に足を運んでみました。土曜日の16時ごろだったでしょうか。店内には人がごった返しており、カゴを持ってうろちょろしている人も少なくありません。皆が、何かしらの思いを持って本選びに臨んでいるのでしょう。

私も4Fから順繰りに1Fまで周り、そこから再び4Fにぐるっと回って、四冊の本を買いました。このお店での最後の買い物です。

私は感傷的な人間ではありませんし、コンビニ業界では閉店など日常茶飯事なので、お店が閉まること自体に強い悲しみはありませんでした。時代が変われば、小売業も変わっていく。当然のことです。

しかし、開店しているお店の棚から、ごっそり本が抜き取られているシーンは胸に刺さるものがありました。コーナーは岩波文庫だったので、きっと他店の在庫に流れる分を抜き取られているのでしょう(岩波は返品できないため)。

わずかに残る岩波文庫の存在が、かえってその空白感を際立たせます。文化がそぎ落とされていくような、そんな感覚がありました。

購入する本を携えて1Fに戻ったら、レジは長蛇の列ができていました。レジ自体はフル稼働しているのですが、それにまったく追いつきません。小売業風に言えば、一人当たりの買い物点数が多いので、回転率が非常に悪いのです。何人かのお客さんは、レジの終わりに「これまで、ありがとうございました」と言って帰っていかれました。その気持ちはとてもよくわかります。

ある種の人たちにとって、本は、そしてそれを買う書店という場所は日常の一部であり、それはつまり人生の一部であることを意味します。それが失われることは、少なからぬ悲しみをもたらすことでしょう。

私は30代になってからほとんど訪店しておらず、「大学時代の懐かしい思い出」となっているので、それほど深い悲しみには襲われませんでしたが、それでも「ジュンク堂」という看板を持つお店が閉店してしまうことは、象徴的な意味を感じ取らずにはいられません。

〜〜〜関係性明示〜〜〜

「明らかなステマ」というのは別にして、線引きが微妙な案件はたしかにあります。

馴染みの編集者さんから(勝手に)送られてきた本、著者と食事して「良かったらこれどうぞ」をプレゼントしてもらえた本、エトセトラ、エトセトラ。

そうした本の感想や書評を書くことは、契約に基づいた仕事ではなく、金銭的利益はどこにも発生しないので、ステルスマーケティングではないわけですが、その事実を伏せておくことは、「隠し事」にあたるのかもしれません。このへんは、なかなか判断が別れるところだと思います。

とりあえず、私に関しては、献本でいただいた本については、その旨を#関係性明示 というハッシュタグをつけてツイートすることにしました。このタグをチェックしていただければ、本と私の関係性がある程度は追いかけられると思います。

もちろん、これだけでは十分ではないという声もあるでしょうが、何もしないよりはマシかと思います。

〜〜〜毎日少しずつの執筆〜〜〜

(精神状態を含めた)体調が少しずつ戻ってきているので、『僕らの生存戦略』の執筆を再開しました。とは言え、いつものように1時間単位の執筆ではなく、まずは1日15分の執筆です。

たった15分? と思われたかもしれませんが、15分あれば項目一つくらいは荒書きできます。で、そうやって少しずつでも「進んでいる」という感覚が結構大切です。精神的にも安心感が出てきますし、それ以上に実際に文字が増えているのですからプロジェクトは前に進んでいるのです。それを続けていけば、いつかは終わりますね。

とりあえず、毎日15分の執筆に体の負担がないようなら、20分、30分と少しずつ伸ばしていく予定です。それで1時間まできたら、当面はOKと言えるでしょう。

〜〜〜今週見つけた本〜〜〜

今週見つけた本を三冊紹介します。

ゾクゾクするタイトルですね。もちろん、魔法をマスターするための本ではなく、神話や物語の中で「魔法使い」がどのように描かれてきたのかを紹介している一冊です。おそらく現代のライトノベルにおける魔法使いについても補足が書けるでしょう。

ユヴァル・ノア・ハラリさんの『サピエンス全史』はむちゃくちゃ面白かったので、『ホモ・デウス』もすぐさま読んだのですが、若干ノリきらなかったので、この本もスルーしていました。面白そうではあるのですが。

タイトルでやられました。だって「段落論」ですよ。大切なのは、本書が「パラグラフ・ライティング」の本ではないことです。おそらくもっと混濁した(つまり実践的な)内容になっていると予想しています。次に読む本はこれになりそうです。

〜〜〜Q〜〜〜

さて、今週のQ(キュー)です。正解のない単なる問いかけなので、頭のウォーミングアップがわりにでも考えてみてください。

Q. 書店にはどのくらいのペースで足を運ばれますか。

では、メルマガ本編をスタートしましょう。

今週も「考える」コンテンツをお楽しみくださいませ。

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2020/03/02 第490号の目次
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○「本からYouTubeへの流れ」 #やがて悲しきインターネット

○「半強制デジタル・デトックス」 #ゆっくりを取り戻す

○「心療内科に行ってきた2」

※質問、ツッコミ、要望、etc.お待ちしております。

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○「本からYouTubeへの流れ」 #やがて悲しきインターネット

以下の記事を読みました。

ビジネス書作家の戸田覚さんが、情報を伝えるメディアとして書籍よりもYouTubeの方が優れているのではないか、と解説されています。

もちろん、同様の内容のYoutube動画もあります。

まず、なぜ戸田さんがYouTube推しなのかの要旨をまとめておきましょう。

・情報の受け手との接点
・ロングテール
・マイクロコンテンツの可能性
・類書戦略の弊害
・著者と受け手との接続

■情報の受け手との接点

書店の数が減っているだけでなく、そもそも書店に足を運ぶ機会が減っているので書籍は存在を知ってもらうのが難しくなっている、ということです。書店の数が減り、また雑誌が売れなくなったおかげで、ふらっと書店に立ち寄る人が減っているだけでなく、電子書籍にシフトしたおかげで本をがっつり読む人でもあまり書店に足を運ばなくなっている、という話はたしかに聞きます。

人々の情報収集が、ネットに(特にSNSに)シフトしていく中で、そこでシェアされやすいYouTubeは接点が多いとみなせますし、また関連動画やレコメンドなどによって勝手に発掘される可能性も出てきます。見つけてもらえる可能性の芽がそこにはあるわけです。

■ロングテール

説明は不要でしょう。最近の書店は(新刊の出版点数があまりに多いので)、既刊はすぐに返品されます。せっかく書店に足を運んでもらっても、肝心の本がなければどうしようもありません。

その点、YouTubeは、YouTubeが存在している限りロングテールが効きます。長く読まれて欲しい情報ほど、ロングテールが効く環境の方が有効です。

■マイクロコンテンツの可能性

紙の本の場合は、一定のボリュームが求められます。すげー役立つiPadのテクニックが3つある、というだけでは本になりません。「それを膨らませて、なんとか50個くらいになりませんか」となるのがよくあるパターンでしょう。

その点、YouTubeの動画なら、3つのテクニックすら必要なく、たった一つでもコンテンツを作れます。ちょっとしたTipsを共有するのに最適なわけです。

■類書戦略の弊害

これは書籍というより、企画会議に関する問題かもしれません。「売れそうな本」しか企画が通らず、しかしまだ作られていない本は「売れそう」かどうかわからないわけで、結果、すでに売れている本とよく似た企画案しかGOサインが出ない、状況ということです。

もちろん、類書なんてかんけーねーぜ、という姿勢で本作りをしている出版社(あるいは編集者)はたくさんおられるでしょうし、そもそも類書を好む傾向はずっと前から存在していたような気もしますが、ここ最近その傾向が強まってきている、という状況はあるのかもしれません。

少なくとも、そういう状況ではイノベーティブなコンテンツは生まれにくいでしょう。

■著者と受け手との接続

紙の本の場合は、著者に感想を届けようとすれば、出版社に葉書か何かを送るしかなく、またそれについての著者からのレスポンスも同様の手段を取るしかないわけですが、YouTubeでは、動画のコメント欄でやりとりが可能です。

読者との関係性を構築していきたい著者にとっては、そうしたやりとりが手軽にできる方が望ましいでしょう。

■つっこみ

以上、戸田さんの主張を確認してみました。個人的には、いくつかツッコミどころがあります。

まず、「紙の書籍はだめで、YouTubeが良い」と主張されている点の多くが、ブログやnote、そしてセルフパブリッシングを含む電子書籍のメリットと同じです。

受け手との接点しかり、ロングテールしかり、マイクロコンテンツ然り、イノベーティブなコンテンツしかり、受け手との接続しかり、すべてWeb上でコンテンツを展開(ないし販売)し、売り手が積極的に努力をしていけば解決できることです。YouTubeでなければならない理由はありません。

ただし、二つ気に留めたいことがあります。

まず一つ目は、コンテンツの性質です。自分自身も体験したことですが、ガジェットやツールの操作説明に関しては、圧倒的に動画メディアの方が優れています。文章を中心としたメディアの場合、何枚もスクリーンショットを撮影しなければなりませんし、細かい動作の説明は困難を極めます。

「右上の方にあるメニューをボタンを押すと、その中に設定という項目が出てくるので、それを押して、左から三番目のタブを押すと、拡張という項目が出てくるので、その中から自分の好きな色を選んで……」

みたいな説明をだらだら書く代わりに、実際にその操作を動画でやってみれば一発でしょう。これは、作り手だけでなく、受け手の方も、その方がわかりやすいと考えられます。こういうコンテンツに関しては、たしかにブログや電子書籍よりもYouTubeの方が適していると言えるでしょう。

第二に、「コメント欄」の存在です。YouTubeのコメント欄は、提示されるコンテンツと同じレイヤーに乗っています。つまり、動画があって、その下にコメント欄がある、ということですね。

ブログやnoteもその形になっていますが、電子書籍はその限りではありません。コンテンツとそれに対するレスポンスが別のレイヤーに乗ることになります。しかも、複数のプラットフォームで販売していれば、それぞれにコメント・感想が散らばることになりますし、著者がそれぞれに直接レスポンスを返していくのは簡単ではないでしょう。

さらに言えば、そうした販売プラットフォームの「カスタマーレビュー」は、書くための敷居がずいぶん高いものです。(主に心理的な理由によって)気軽に感想を書ける場所ではありません。YouTubeはその点、かなり気楽にコメントを入れられます。

ここにマイクロコンテンツ化がプラスアルファとして影響します。つまり、短い(≒複雑でない)コンテンツほど、気軽に感想がかけるのです。書籍のカスタマーレビューの場合は、「本全体の感想」ということなってしまい、やはりそれは重たい行為ですが、あるテクニックを一つだけ紹介した動画であれば、そのテクニックについてだけ何かを書けばOK、ということになります。

つまり、コメント欄+マイクロコンテンツ化によって、細かいフィードバックのやりとりが発生しうる、というメリットが出てきます。

■書籍の流れを振り返る

よって、戸田さんの「YouTube推し」は、かなりの部分がデジタルメディアの特徴であり、そこに幾分かYouTubeならではの良さが加わっている、と見てよいでしょう。

もちろん、YouTubeにはメリットだけでなく、収益化するためにはかなり頑張らないといけないぞ、というデメリットが潜んでいる点は指摘するまでもありません。副収入というかお小遣いレベルの金額であれば、noteやセルフパブリッシングでコンテンツを販売した方が、おそらくは手早いでしょう。

というわけで、電子メディアについて少し考察してみたわけですが、ここで紙の本の流れを振り返ってみましょう。特にノウハウを扱うビジネス書まわりの流れです。

大きく三つの流れがあります。基本的には、どれも同じ方向を向いています。

・ふんわりした文章
・図解
・大全

まず、ある時期からライトノベル風のビジネス書が乱立し始めました。それまでも、ストーリーを用いたビジネス書はいくつもあったのですが、そうしたものは寓話的なものか、あるいは緻密に組み立てられた物語でした。そのとき流行したのは、そのどちらでもない、「ふんわり」としたストーリーだったのです。

「ふんわり」したストーリーとは、論理立てて説明する代わりに、登場人物の会話によって説明を代替させるような物語のことです。一読するだけで、なんとなくわかった気になれる魔法のような構成ですね。

現在は、ライトノベル風ビジネス書の流行は落ち着いていますが、それでも宮話的でもなく、緻密でもない、「ふんわり」書かれたビジネス書は数多くあります。系譜が引き継がれているのでしょう。

その流れと重なるように、「図解」ブーム本がやってきました。難解な理論や現象を図解で説明する本もありますが、すでに出版されていてヒットを記録しているような本の図解ver.もたくさん発売されました。小難しい文章よりも、図解で一発でわかった気持ちになれる。素晴らしいコンセプトです。

最後に、大全ヒットです。昨今は右を向いても左を向いても「大全」本が並んでいますが、ここに至る流れとして、「〜〜な50の方法」ブームがありました。逆に言えば、「〜〜な50の方法」の本作りが「大全」という新しいラベリングを得て復活しているとも言えます。

もちろん、昔から数字を冠した本はたくさん発売されていますが、たとえばそれは『7つの習慣』のように、一つひとつの要素の解説にたくさんのページを当てられていて、その全体で一つの話が展開される、というコンセプトになっています。

しかし、「〜〜な50の方法」(や「大全」)は、基本的に一つひとつの要素は独立していて、つまみ食いOKになっています。その意味で、365日で身につく教養、みたいな本もここにカテゴライズできるでしょう。

というように、ビジネス書・自己啓発書・ノウハウ書は、論理的緻密さよりも親しみやすさ・わかりやすさ・砕けた感じ・断片化を目指して進んできたわけです。

それ自身は別に悪いことではありません。そういう読者のニーズがあったら、それに答えるのはコンテンツ・パブリッシャーとしては一つのやり方でしょう。

しかし、問題は残ります。

■得意な土俵はどこか

その問題とは、ビジネス書が目指してきた方向のすべてが、YouTubeというプラットフォームにとって得意の土俵だ、という点です。

「論理的緻密さよりも親しみやすさ・わかりやすさ・砕けた感じ・断片化」されたコンテンツであれば、わざわざ本というメディアである必要はないのです。むしろ、YouTubeの方が適切なメディアとすら言えるかもしれません。

だから、戸田氏が懸念するように、本を駆逐するのはYouTubeになるのでしょう。ただし、「ごく一部の本は」と条件はつきます。

たとえば、『7つの習慣』の解説動画をYouTubeにアップロードするとしましょう(著作権のことはいったん忘れてください)。YouTubeで好まれる形式を考えれば、一つの習慣について15分くらいの動画を作ればよいでしょうか。それを7つアップすればそれで準備万端です。

では、その7つの動画を視聴したら『7つの習慣』を読んだのと同等の体験ができるかと言えば、これはまったくNoです。数百ページを使い、「ひとつのこと」を伝えようとしている本の読書体験は、マイクロ化されたコンテンツの複数摂取とは同じにならないのです。

一方で、はじめから断片化(マイクロコンテンツ化)されたコンテンツや、それぞれを独立的に摂取して問題ないばかりか、その方が読み手にとって都合が良いコンテンツに関しては、YouTubeで何ら問題ないでしょう。むしろ、視聴者にとってはその方がありがたいかもしれません(なにせ、広告表示を受け入れれば無料で閲覧できるわけですから)。

よって、この土俵で戦おうとするコンテンツに関しては、どんどんYouTubeにその舞台は移っていくでしょう。その流れは止めようもありませんし、止めるべきでもないでしょう。

■さいごに

「本」というパッケージングされたメディアの特性を考えれば、やはりそのコンテンツは、一冊を通して「たった一つのこと」を伝える構成になっているのが一番でしょう。要約や断片化では欠損してしまうような「何か」を持つコンテンツこそが、これからますます断片化に向かって進んでいく時代において、本が提供できるものだと(あるいはそうすべきものだと)感じられます。

ページ数を合わせるためだけに内容を水増ししている本、先行している本に内容的に劣っている類書、なんの統一性もなくただ集められた大全……。

そうしたコンテンツがいずれ消えていくのは自然なことです。むしろ、こういうコンテンツが生き残っていることの方が不自然でしょう。

神のものは神に。カエサルのものはカエサルに。

紙の本もまた、もとの役割に帰っていく時節が近づきつつあるのかもしれません。

(おわり)

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