WorkflowyからEvernoteへの移植 / トランジッション・ノート術の補佐ツール / 階層的整理と支配欲求 / 辞書の個性と愛
はじめに
最近このメルマガで熱心に言及しているEvernoteに大きな変更がありました。
◇Evernote、無料プランを大幅制限 ノートの上限数が10万→50に | ITmedia NEWS
フリープラン(無料プラン)の機能に大幅な制限が入る、とのことです。ノートブックは一つ、総ノート数は50のとこと。このメルマガが配信されている4日から実施される模様です。
最初に注意しておきますが、これまでフリープランで使っていた人は50以上のノートがあっても削除されるわけではありません。ノートはそのまま残り続けます。ただし、新しくノートを作成することはできない格好です。ビュアーや簡易エディタとしてならばそのまま使い続けることも可能でしょう。
ただし、新しくアカウントを作って使いはじめた人はノートブック1つ、ノートが50個までに限定されてしまいます。これでは、これまでのフリープランとはまったく違うというか、そもそもこれは「プラン」ではなく、試用期間と呼んだ方がよいでしょう。
で、この機能制限そのものについては特筆すべきものはありません。たとえば、私が日常的に使っているWorkflowyも、無料であれば一ヶ月に250項目しか作れず、この数では試用にしか使えないでしょう。お金を払って使ってもらうことが前提のツールであれば、無料版に強い制約を設けるのは自然なことです。
ただし、Workflowyはスタートからこの制度で運営されてきました。だから使う人も納得しています。一方でEvernoteはどうでしょうか。フリーミアムの代表格的存在であったEvernoteは「無料でも普通に使える」ことが売りで、ユーザーを集めてきた歴史があります。
実際は、少し前の変更でフリープランで使える端末数が2台に限定され、一般的なクラウド運用はほとんど不可能になってはいたのですが、それでもそうした点に目をつぶれば「ノートを書いていく」こと自体は無料でもできていたのです。
しかし、今回の制限変更でそうした運用も不可能になりました。Evernoteを普通に使うなら、サブスクリプションしてくださいよ、となったわけです。
私自身で言えば、これまでもパーソナルプランで使っていたので使い勝手そのものが大きく変わることはありません。それでも、今後は人に勧めにくいツールになったなと感じています。合わせてそれは、自分も引き続きこのツールを使い続けてよいのだろうか、という不信感も醸成しています。
〜〜〜トランジッションなフォーマット〜〜〜
毎月、ブックカタリストで読書会をやっているので、それに向けて読み終えた本をちょこちょこScrapboxにメモしています。たとえば以下は11月の読了本のメモです。
◇2023年11月読書会メモ(倉下) | BCBookReadingCircle
で、いよいよ一年も終わるということで、ちょっくら一年分の読書記録を振り返ってみようと思いました。具体的には月ごとに分散しているデータをまとめて一覧しようとしたのです。
こういうときに、プログラミング指向であれば毎月のページからデータを取得して、それをデータベースにまとめて……なんてことを考えるわけですが、最大で12枚しかページがないのですからコピペでいいかとちまちまとまとめ始めて気がつきました。
1月から11月までのページを振り返ってみると見事にそのフォーマットが違うのです。立てているカテゴリが違っていたり、読了マークをつけたりつけなかったりと、だいぶ気ままです。一時期から私は「テンプレート」というものを使わなくなったので、こうした(表記揺れならぬ)フォーマット揺れが生じてしまうのでしょう。
でもってこれは、私が「自然」にリストをつくると、そのときどきの気分に応じてフォーマットを変えてしまうことも表しています。だとしたら、私が「データベース」を使ってもうまくいかないのは当然でしょう。
たとえば1月の私がデータベースを設計したら、その「1月の自分」にとって自然なフォーマットで整えるはずです。しかし、「3月の自分」にとってそのフォーマットは自然なものではありません。だから使うのが嫌になるか、あるいは機械的に(つまり気分的にアガらず)データを入力していく状態になってしまうのです。これではうまくいきません。
逆に、何のガイドラインがなくても毎月のフォーマットが綺麗に揃う人であれば、データベースはうまく機能するでしょう。この辺も、ツールを使う人の性格的な傾向が強く影響していそうです。
もう一つ、最近感じているのが自分の専門性についてです。私は「専門的なテーマ」を持ちません。そのときどきで、一番ホットなテーマが推移している感覚(≒トランジットな感じ)があります。だから、何かしらの専門家が作り上げた「情報整理の構図」は、基本的な部分でミスマッチするのではないか、という仮説を思いつきました。
そう考えると、非専門家的な情報整理の構図を自分なりに立ち上げていく必要があるのではないか、なんて大風呂敷が広がりつつあります。
〜〜〜時間を置く〜〜〜
めちゃくちゃ頑張って原稿を書いた直後だと、どの一文も「欠かせない」と感じるものです。もうこれ以上削って短くするのは無理、という感じ。
しかし、一週間経ってその文章を読み返すと、かなり印象が変わります。たとえば編集者さんから「ここは削ってはどうですか」と提案された箇所があったとしたら、「うん、たしかに削っても十分通じるな」という気分になるのです。
感覚的に言えば、文章の正否を判断する「自分」の物差しは変わっていないように思います。しかし、結果から見ればその変化は一目瞭然です。まったく同じ対象であっても、時間が経つとその判断が変わってくる。そういうことがよく起きます。
私たちの「知性」(上記のような情報処理を行う脳のシステム)は、一定ではありません。時間と共に変化していきます。
だからこそ、「時間をおいて、同じ対象について考え直す」ことが大切なのでしょう。ある瞬間に何かしらの評価や判断を下したとしても、それを「確定」として扱わずに、時間をおいてからもう一度検討してみる。Re、してみる。
そうした「Re」で変化することは結構あります。でもって、ログや記録やノートを取ることは、そのような Re を可能にしてくれる(Re-ableな)技術だと言えるのでしょう。
情報のストリームに放り込まれてしまうと、降りかかってくる情報を足早に処理して、次に次ぎにへと進む構図になりがちです。何かを書き留め、それを読み返すことは、そのような流れの在り方を組み換える効果があると感じます。
皆さんはいかがでしょうか。まったく同じ対象について時間をおいて考え直した結果、評価が著しく変わったという経験はお持ちでしょうか。よろしければ倉下までお寄せください。
では、メルマガ本編をスタートしましょう。今回は、Workflowyからの移植、トランジッション・ノート術の補佐、階層構造と支配欲求、辞書の個性と愛についてお送りします。
WorkflowyからEvernoteへの移植
前々回で、Evernoteのノートブックが以下の四つにリニューアルした話を紹介しました。
・Diary(日付・日時情報が入っているものすべてを扱う)
・Binder(書きかけのもの、書き足したいものを扱う)
・Card(自分の考えを著したブロックを扱う)
・Archive(上記以外のすべてを扱う)
新しく再編されたのが「Binder」で、ここには「書こうと思っている文章」を収納すると決めたのですが、そこでふと思い出したのが、Workflowyです。Workflowyにも似た情報が入っていたのでした。
別段、保存場所が分かれていても実務的な問題はないのですが、気持ち的にちょっと落ち着かないので、Evernoteの再々編成に伴って、いくつかの項目をWorkflowyからEvernoteに"移植"してみることにしました。
その際に、ちょっとした手間をかけたのですが、今回はそのお話を。
■タイムラインのズレ
さて、あなたがその作業をするとなったら、どのような手順で進めるでしょうか。ちょっと想像してみてください。
まずWorkflowyを覗くでしょう。でもって、Evernoteに移植できそうな項目が見つかったら、Evernoteに新しいノートを作り、そこにWorkflowyからコピーしてきたテキストを貼りつける。これでいっちょありです。
私も最初その手順を目論んだのですが、そうした作業をした結果どんな風にノートが並ぶのかを想像して、手を止めました。
最近私は、「どんな情報が保存されているのか」ではなく「保存されている情報がどんな風に私の目に入り、それがどのような作用を及ぼすか」という観点でデジタルツールを見るようにしています。で、その観点で言うと、上のような"移植"作業は好ましくない結果を呼び寄せます。
単純な話です。上のような作業をすると、私のノートリスト一覧はWorkflowyから移植されてきたものが上部を占めることになります。その結果、Evernote上で「最近」作ったものが下部に押しやられます。端的に言えば、タイムラインがかき乱されてしまうのです。
私の中にある時間的な感覚と、ツール上に配置される情報の並びが不一致を起こす、と言い換えてもよいでしょう。
これは好ましいとは言えません。少なくとも、日常的に使用する情報ツールにおいては致命的な問題となりそうです。
では、どうするか?
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