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二つのリストとその間/書くことの固さ/合理性と競争力 その2/noteのサークル機能のファーストインプレッション/感情を乗せるためにひたすら前進する

Weekly R-style Magazine ~読む・書く・考えるの探求~2020/02/10 第487号

はじめに

はじめましての方、はじめまして。毎度おなじみの方、ありがとうございます。

『「リスト」の魔法』発売記念として、著者の堀正岳さんと往復書簡を始めることにしました。

特に内容のアウトラインは決まっていませんし、全部で何回になるのかも今のところはわかりませが、書評では出てこないこの本の魅力を取り出せたらいいなと思っています。

続きも楽しみに。

〜〜〜記録論〜〜〜

記録されるものの総体としてのノート
 そのうち短期利用されるものがメモ
 要素を一次元に配列したらリスト
  それを再帰的に構造化したらネスティング・リスト
 要素を二次元に配置したらマップ

みたいな感じで、私たちが扱う「記録」というものの俯瞰図をいつか描いてみたいなと考えています。結構な大風呂敷ですが、面白そうな話になることは間違いありません。

〜〜〜遠回りの納得〜〜〜

メアリアン・ウルフの新著『デジタルで読む脳 X 紙の本で読む脳』にこうあります。

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 遠回りのほうがゆっくり、おそらく着実に、最も快い「なるほど」に私たちを導くのです。
 <<

たしかにその通りですね。ゆっくりと時間をかけ、さまざまな可能性という国々を旅してきた後に生まれる「なるほど」は、とりあえず何か言っとかないと気まずいからと発せられる「なるほど」とは、大きく違っているでしょう。

問題は、そのような旅路を現代社会がどれほど許容してくれるかです。

〜〜〜責め立てる槍が示すもの〜〜〜

経験則でしかありませんが、相手のミスを強く糾弾する人は、高い確率で自分のミスを認めません。

考えてみるとこれは至極真っ当で、「ミスすることはいけないことだ。それを指摘してダメージを与えてやる」と考えている人にとって、自分のミスを認めることは(言葉通り)致命的です。

一方で、「ミスすることは誰にでもある。なんとかリカバーしていこう」と考えている人は、他人のミスを強く糾弾することもありませんし、自分のミスもあっさり認めることでしょう。

つまり、ある人が誰かに攻撃的な態度をとるとき、その攻撃性は当人にとっても効果があるものだ、ということを示しています。

人を呪わば穴二つといいますが、それとは違った意味で怖い話です。

〜〜〜増える知識・非知識〜〜〜

新しいことを知ると、その知識と接続した知識の存在も一緒知ることになります。たとえば、ドイツという国を知れば、ドイツと隣接する国々の存在もしることになります。

しかし、そうした国々に関する知識は、(その段階では)まったくありません。単に、そういう国がある、ということだけを知っているのみです。つまり、「自分が(中身を)知らないことを知っている知識」だと言えるでしょう。

一般的に、新しい知識を獲得するたびに、それに隣接する知識──「自分が知らないことを知っている知識」──の数も増えていきます。

逆に言えば、「自分が知らないことを知っている知識」がまったく増えていないなら、新しい知識は増えておらず、既知の知識を再確認しただけ、という可能性が出てきます。

これは、知識獲得の確認指標として使えるかもしれません。

〜〜〜今週見つけた本〜〜〜

今週見つけた本を三冊紹介します。

かっちょいいタイトルです。内容は、薪焚きの実践的な技術を起点にして、そこからエネルギー問題や木を切るための道具の歴史への話を発展していくようです。こういう本、いいですよね。

こちらもシンプルでクールなタイトルです。数学的に研究されているさまざま図形が挙げられ、その美しさが提示されるとのこと。数式恐怖症の人でも楽しめそうです。

本書の奇書とは、「数“奇”な運命をたどった“書”物」をさすとのこと。昔は普通に読まれていたのに、今読むとトンデモ本だったり、逆に昔は悪書だと言われていたのに、現代ではむしろ名著と呼ばれていたりといった、奇妙な歴史を歩いてきた本が取り上げられているようです。

〜〜〜Q〜〜〜

さて、今週のQ(キュー)です。正解のない単なる問いかけなので、頭のストレッチ代わりにでも考えてみてください。

Q. 最近増えた、「知らないこと」は何かありますか。

では、メルマガ本編をスタートしましょう。

今週も「考える」コンテンツをお楽しみくださいませ。
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2020/02/10 第487号の目次
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○「二つのリストとその間」 #タスクリストの作り方

○「書くことの固さ」 #知的生産の技術

○「合理性と競争力 その2」 #僕らの生存戦略

○「noteのサークル機能のファーストインプレッション」

○「感情を乗せるためにひたすら前進する」 #知的生産の技術

※質問、ツッコミ、要望、etc.お待ちしております。

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○「二つのリストとその間」 #タスクリストの作り方

前回は、理想のタスク管理ツールの在りようと、それを阻害する社会からの要請、というお話をしました。今回も、それに関する話です。

■管理について

まず再確認しておきましょう。管理とは、ある状態を目指すものであり、それは

A→C

のように、現状を一つの方向性に引っ張っていく力(→C)を持っています。

もし、AがAのままでよければ、→Cの力は必要いらず、それはつまり管理を必要としないことを意味します。

この点を踏まえた上で、二つのリストについて考えてみましょう。

■エーコのリスト

小説家ウンベルト・エーコは、『ウンベルト・エーコの小説講座』の中でリストを以下の二種類に分類しました。

・「実際的(実用的)」なリスト
・「文学的・詩的・美学的」なリスト

「実際的な」リストは、実際に存在するものを指し示し、その項目は有限となります。対して「文学的・詩的・美学的」なリストは、開かれていて「その他諸々」がつくことが前提となります。つまり、無限がほのめかされます。

この「ほのめかされる」が一つのポイントで、いくらそのリストがひらかれていたとしても、実際にリストとして提示されるならそれは有限な存在です。しかし、その有限な存在から無限がうかがえる(ことがある)というのがエーコの分類の一つの鍵です。

■堀のリスト

堀正岳さんの新刊『「リスト」の魔法』では、リストの書き出し方を二つにわけました。

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 もっと抽象的な話をすると、リストの項目を埋める際には大きく分けて「すでにわかっていることを書く」場合と、「まだ意識していないことを引き出す」場合の2種類があります。
 <<

「すでにわかっていること」は、すでにわかっているわけで、それは有限を示します。一方で、「まだ意識していないこと」を引き出す場合は、どこまでいっても「現段階で引き出せたのはここまで」という保留がつくわけで、それはつまり無限がほのめかされることを意味します。

ようするにフーコーの実用的と文学的に呼応しているわけです。

■タスクリストの無限と有限

ここでタスクリストのお話に戻ります。

タスクリストの項目は、有限でなければいけません。なぜなら、私たちが現実的に取れる行動が有限だからです。

一方で、タスクリストを必要とするタスク管理は、ある目標に向かうための行為であり、そこには夢や理想が含まれることが多くあります。そして、夢や理想はほとんど確実に無限のかおりを帯びています。

うまいタスクリストとは、この二つのバランス、つまり有限性と無限性が調和しているものだと言えるでしょう。

しかし、それは簡単なことではありません。

■無限を切断し有限にする

もし、自分に実行可能な量だけがタスクとして与えられる状況であるならば、タスク管理ツールは、今のままでまったく問題ないでしょう。

タスクを登録して、実行して、それを消す。その繰り返しでプロジェクトやら日常は進んでいくはずです。

ただし、無限をほのめかすものがそこに入り込んでくると、その調和は一気にかき乱されることになります。管理すべき項目や、「やりたいこと」が無限増殖していくのです。

だからこそ、前回書いたように、何かしらの有限化装置が必要です。私たちが、希望や期待(という無限性を帯びたもの)を持って前に進もうとするとき、それが放つ力(→C)に引っ張られすぎないようにするための「何か」がないと、途端にリストは破綻してしまうのです。

これまでのタスク管理ツールにおいて、「タスクを登録しすぎではありませんか?」と尋ねてくるものがどれだけあるでしょうか。「コミットメントが負荷になっていませんか?」「そのルーチンは必要でしょうか?」と聞いてくれるものがどれだけあるでしょうか。

「そんなことは自分で考えろよ」、というツッコミもあるかもしれませんが、それは人間の頭に期待しすぎです。現代社会で生きる私たちは、たいてい「やること」を抱え込みすぎですし、そのことをむしろ良いことだと捉える傾向すらあります。

そもそも、そんな判断が簡単に下せるなら、ファイナンシャル・プランナーや保険の相談員、ひいては精神カウンセラーすら必要ないでしょう。ひとりの精神において、解きほぐすのが難しい問題というのはたしかにあるのです。

でもって、タスク管理というものも、夢や目標が関わってくるならば、それは難問へと近づいていきます(NP困難というよりも哲学的な難問さ)。だからこそ、タスク管理ツールは、その問題を解きほぐすための補助をして欲しいのです。機械学習によるAIのサポートも、タスクを増やすことではなく、むしろタスクを減らせる方向に進んでくれるのが一番でしょう。

極言すれば、実際にできること以上のことはタスクとして登録しない、というやり方で無限性のかおりを振り払うことはできます。でも、それってちょっと寂しい気持ちがしませんか。私はします。

有限は有限でしっかり確保しながら、無限のかおりをどこかに漂わせておく。→Cの力があるにせよ、それが強まりすぎないようにしておく。そんな状況をサポートしてくれるタスク管理ツールがあれば個人的にはベストだと思います。

(おわり)

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