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千のリスト / タスクリストの快 / 統合ツール症候群 / なんちゃって贈与

Weekly R-style Magazine ~読む・書く・考えるの探求~ 2024/08/05 第721号


はじめに

ポッドキャスト、配信されております。

◇BC095『BIG THINGS』から考える計画問題 | by goryugo and 倉下忠憲@rashita2

今回は倉下が『BIG THINGS』を紹介しながら、私たちの前に立ちはだかる「計画問題」について考えました。「計画」をどのように捉えるかは、めっちゃ重要な話だと思います。

あと、「ブックテラス」という番組にゲスト出演しております。

◇154. 【ゲスト回】あのとき、心から望んで書いていたこと~ 著者・倉下忠憲さん ·~ - ブックテラス | Podcast on Spotify

連続三回の配信でこれが一回目です。「ノート」についていろいろお話しております。

よろしければ、お聴きください。

〜〜〜Notion〜〜〜

便利だと思いながらも、個人的な好感度があまり高くないNotionが、ついに1億ユーザーを突破したようです。

◇「Notion」1億ユーザー突破 4年で100倍に | ITmedia NEWS

面白いのは記事の紹介部分。"メモ機能やタスク・Todo管理機能などを備えたソフト"という表現は間違ってはいませんが、野暮ったい感じが否めません。多機能であるがゆえに、一言で「こう」とは言い表せないのでしょう。

もちろん、「高機能デジタルノートツール」という表現もできるでしょうが、そうなると今度は「そのツールで、何ができるの?」が曖昧になってしまいます。ようは、こうした機能を備えたツール一般を指す、"実感的"な言葉がまだないということなのでしょう。

ちなみに2020年に100万人を超え、その後4年で1億人突破ですから、すごい成長率です。その背景には、Evernoteがデジタルノーティングという行為を普及させつつ、ある段階でユーザー離れを起こしてしまい、その機会をきちんとロストせずにマーケティングを成功させたというNotion社の頑張りがあるのでしょう。

なんにせよ、人間が記録(データ・情報)とうまくつき合えるようになっていくのは喫緊の課題ではあるでしょう。こうしたツールの普及が進むのはたいへんよいことだと思います。

〜〜〜環読プロジェクト〜〜〜

一冊の本を、長い時間をかけて、複数人で読むという環読プロジェクトの第二回が終わりました。

◇『思考のエンジン』のまとめ |倉下忠憲

複数人で読書メモを共有しながら読んでいったのですが、やはり本書は「わかりやすい本」とは言えないなというのが(プロジェクト開始前からの)変わらずの印象です。

一方で、改めて再読・精読してみたことで変わった印象もいくつかありました。単純に、自分の理解が不十分だった点もありますし、2024年でこそ感じられる本書の先見性の高さという点もあります。

とりあえず、Cosenseに読書メモを作りながら読み進めていたので、今度はそのメモを再構築することをやってみようと思います。その辺の進め方も、回を重ねながらバージョンアップしていきたいところです。

次の第三回に関しては、倉下が引っ越しクエストの真っ最中なので少しの休憩を置いてのち開始したいと思います。次は、もう少し「難しさ濃度」が低い本を選ぼうかと考えています。

〜〜〜ライティング・スキル〜〜〜

最近、阿部幸大さんの『まったく新しいアカデミック・ライティングの教科書』を読んでいるんですが、たしかにこうしたライティングのスキルは重要だなと感じつつ、「アカデミック」ではないライティングのスキルも大切だろうという感じがしています。

アカデミック、もっと言えば論文を書くためのスキルは、非常に尖った印象を持ちます。鍛えられた武器のようなゴツゴツとしたもの。間違いなくそうしたものは有用ですが、家庭で料理をするための包丁もあった方がよいでしょう。

個人が社会(あるいは他者)に向けて、自分の意見を表明すること。それを支える技術。

強いていえば、シビックなライティングを支援するためのスキルという観点を立てることで、「書くこと」をより包括的な視点を持って眺められるのではないかと感じています。

皆さんはいかがでしょうか。「書く」という行為は、どういう局面で行われているでしょうか。よろしければ、倉下までお聞かせください。

では、メルマガ本編をスタートしましょう。今回は、リスト話の続き、タスクリスト、統合ツール症候群、ちょっとした贈与についてお送りします。

千のリスト

前回は、再帰的リストについて確認した。今回も「リスト」について考えていこう。

■3.8 The・リスト

リストとは、ある共通項で項目をグルーピングしたものであり、リストそれ自体も、別のリストの項目になりえる。つまり、リストのリストが作れる。

そうした再帰的構造で情報を取りまとめていくのが、構造化であり、組織化である。

書き留めたメモからリストを作る。別のメモから、別のリストを作る。そうやってできていくリストをまとめるためのリスト(メタ・リスト9を作る。それを繰り返していくうちに、自分の情報を完全にフォローするための「The・リスト」ができあがる。

「The・リスト」は、あなたに関する情報をすべて網羅する完璧なリストである。それさえあれば、情報において困ることがない。なにしろ、必要な情報はそこに揃っていて、階層構造を辿っていくことで適切に発見できるのだから。

もちろん、この「The・リスト」は理念的な存在であり、もっと言えばただの空想である。実際にそのようなリストを作ることはできない。情報量的に膨大になるという点もあるが、私たちが扱う情報それ自体がそこまで綺麗な階層構造をしていない、という点が大きい。

にもかかわらず、私たちは「リストのリストが作れる」という再帰的発見をしてしまうと、ついつい「The・リスト」的な理想郷を追い求めることになる。その旅は非常に過酷なものになるだろう。

■3.9 千のリスト

そこで私は、別の観点を提案したいと思う。

情報を取りまとめるためのリストを作り、そのリストを取りまとめるためのリストを作る、という再帰的構造整理においては、すべてのリスト・情報が一つの巨大なリストの中に位置づけられることになる。

項目→リスト→リストのリスト→リストのリストのリスト→……

すべての要素は、上記のどこかに配置される。配置されなければならない。

このような巨大な一つリストというコンセプトを捨てるのだ。しかし、リストを作るというコンセプトは維持しておく。そのような新しいコンセプトが「千のリスト」である。

リストは作る。それも大量に作る。しかし、それを単一の巨大リストの構造下に置くことは求めない。単に乱立するに任せていく。それが「千のリスト」(Mille Liste)だ。

このコンセプトをここで展開していくことはしないので、そういう考え方があるのだということを押さえてもらえれば十分である。リストのリストを作れたとしても、それを完璧なリスト(The・リスト)にしなくたって構わないという姿勢は、怠惰な態度ではなく、むしろ一つの積極的な態度なのである。

(つづく)

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