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変化は起こるが、いつそれが起こるかはわからない

「相手を変えることは難しいから、自分が変わる」という言説があります。立派な心がけです。でも、自分を変えるのだって簡単ではありませんね。それがこの言説の穴(それも致命的に大きい穴)です。

さて「変化」は、そう呼ばれるときはたいてい既存のベクトルとは違った方向にシフトすることが期待されています。毎日大量のカロリーを食事から摂取している人が、そこに200キロカロリー増やしても、それは変化とは呼ばれないでしょう。むしろ、減らすことが変化だと捉えられます。

もちろん、そういう変化は、慣性に逆らうわけですから簡単ではありません。より大きな力をぶつけてやる必要があります。

で、その大きな力が、切迫感とか必要性とかそういう心理的なコンテキストです。海外にひとり放り込まれたら、英語を覚えざるを得ない、みたいなやつです。

もちろん、それは力をかけているわけで、場合によってはその力に耐え切れずに人が潰れてしまうことは十分ありえます。そのことに気をつけないと生存者バイアス的な誤謬が発生し、ときに悲劇を巻き起こします。

逆に言えば、力をかけても、その力を逃がす装置があればいいわけです。その辺が、実は組織運営の肝だと思うのですが、話が逸れるのでここでは割愛します。

で、そういう力をめちゃくちゃ弱くかけていく方法もあります。それが「何度も言う」です。

変えて欲しい行動を見かけたときに、「あっ、それ、こうしておいて」と言う。これを何度も繰り返します。何度も何度も繰り返します。ただそれだけです。

「何度言ったらわかるんだよ」という修辞疑問は厳禁です。わかるまで何度も言い続けるのです。たしか桜井章一さんが、「焼け石に水を何度もかけ続ける」という旨のことをおっしゃっていましたが、まさにそれです。

何度も何度も言うことで、相手の意識に(というよりも無意識に)その言葉を浸透させていきます。ある行動をしようとしたときに、「あっ、そういえばそういうことを言われていたな」と思い出すように(あるいは思い出さなくても行動に反映されるように)、仕向けるのです。

それが脳に定着するタイミングはいつかはわかりません。1〜2回で定着する場合もあれば、5年かかる場合もあります。でも、人間の脳は、記憶する装置なので、いつかタイミングがあえば、それを覚えてもらえます。AだったらBという反応を、AだったらCに変えてもらえます。

もちろん、このやり方は、企業組織ではたいへん難しいでしょう。「いつかはわかりませんが、いつかは必ず効果があります」というプロジェクトに承認印を捺してくれる上長はいなさそうです。

が、企業組織以外の場所では、特に長期間にわたって関係性を築いていく共同体ではなかなか有用です。

実際、私の妻は、いちいち言葉の小さな言い間違いを私に指摘されるので、だんだん自分でそれを気をつけるようになり、しまいには私の言い間違いを指摘するようになりました。

また、私が「管理者の心得」を何度も何度も説いていたら、だいたい5年くらいでそれを心に浸透させたようで、今ではリーダー的な仕事を意欲的にこなしています。管理者に文句を言っていた頃とは大違いです。

とりあえず、人は変わるものです。絶対に変わらないものも、もしかしたらあるのかもしれませんが、適切な環境と意欲があれば、人はいつでも新たな技能を開発していけます。

でもって、その「適切な環境」を用意することが組織の大切な仕事で、それを「人力任せ」にしていたら、やっぱり成功率は下がりそうです。

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