見出し画像

第三回:Handbookとしての手帳

前回は手帳の定義を確認した上で、手帳と卓上手帳のややこしい関係に言及しておいた。

まず確認しておくと、手帳が「手」サイズである必要があるのは、

「情報を適切に配置し、必要に応じて取り出せるようにする」

ために必要だからだ。

たとえば会社員であれば、取引先に出かけて来週の打ち合わせの話になったときに予定をすぐに確認できないとすごく困ったことになる。言い換えれば、それは"情報を適切に配置し、必要に応じて取り出せるように"はできていないことを意味する。つまり、「予定」などの情報は、即座に確認し、書き込みできる必要があるわけだ。

手帳に書き込まれる情報として以下の四種類を挙げたが、

・スケジュール管理
・ToDo
・備忘録・住所録
・メモ

この中でも「スケジュール管理」がそうした"即座性"を必要とする情報の筆頭である。なぜか。それはスケジュール管理には「他者」が関わってくるからだ。

最悪、住所録やToDoなどは時間をかけて探し回ってもよい。しかし、先ほど挙げた状況で10分も20分も相手を待たせることはできない。さらに言えば、そのような予定管理を頭の中で行うのも危険だ。なぜなら、ダブルブッキングという恐ろしい事態が起こりえるからだ。それを避けるためにも、スケジュールは信頼できる記録によって管理されなければならない。

よって「手帳」なのだ。手持ちできる、言い換えれば Mobility な道具として「手帳」が要請される。その意味で、スマートフォンも「手帳」である。やっていることは同じだからだ。

環境次第な道具

その視点を取れば、卓上手帳の「手帳性」も見えてくる。デスクワークしかせず、仕事中どこにも出かけないならば、手持ちできるメリットはほとんどない。むしろ卓上で常に開きっぱなしにしている方がアクセス性は高い。その上、仕事の当事者が必要とする情報がより詳細度が高いものであれば、記入サイズが大きい方が適切と言える。

つまり、手帳と卓上手帳の使い分けも、先ほどの原則

「情報を適切に配置し、必要に応じて取り出せるようにする」

を満たすために行われるということだ。逆に言えば、その人のワークスタイルによって、適切な「手帳」も変わってくる。「情報を適切に配置し、必要に応じて取り出せるようにする」ための要件が変わってくるからだ。そして、その要件を満たせるならば、そのツールはなんであれ「手帳」と呼びうる、ということである。

もう一つの手帳の訳

もう一つ、手帳について触れておきたいことがある。上記と関係する重要なことだ。

ビジネスパーソンが使う一般的な手帳は、英語では Planner や単に Notebook とか呼ばれるが、「手帳」にはもう一つ別の文脈での訳もある。 Handbook だ。むしろ日本語の漢字をそのまま翻訳するとこちらの方がイメージが近いだろう。

Handbookは、「便覧、手引き、参考書、案内書、旅行案内」などの意味を持つ。たとえば、"生徒手帳"のようなものは、Plannerというよりも、Handbookの方が語感が近いだろう。そこには、カレンダーではなく、生徒が従うべきルール(校則)などが記載されている。学生にとっての「手引き書」「案内書」というわけだ。

一応ビジネスパーソンの手帳にも「便覧」が巻末についていることがあり、その意味で Handbook 的ではあるのだが、本稿で注目したいのはそちらではない。むしろ、そうした手帳の本体、つまりスケジュール管理と、上記のような Handbook 的なものとの共通性である。

異なる二つの共通点

一見するとこの二つはぜんぜん別物のように感じられる。片方はスケジュール管理であり、もう片方は規則なのだから、たしかにこれらは違っている。しかし、ある点においては共通しているのだ。それは、「自分が従うべきことが書いてある」という点である。校則はそのことが自明だが、スケジュールでも同様である。その日にその行動をとる「べき」なことをカレンダーページに書くのだから、同じであろう。

つまり、スケジュールやアポイントメントは、相手との「約束」であり、その「約束」は──校則ほどの強制力は持たないかもしれないが──、やはり「自分が従うべきこと」なのである。

そのように「自分が従うべきこと」を常時ポケットに忍ばせて、いつでも確認できるようにしておくこと。それを「自主的」に行うのがビジネスパーソンの手帳なのである。

自分の手引き書

ビジネスパーソンが手帳に一年の目標や自分のモットー、最近ではクレドを書くのも同じである。当人が考える「自分が従うべきこと」を書くことで、自分を方向づけようとしているわけだ。それは自分校則とも呼べるもので、そのようなルール設定によって自分を拘束しているのだと言える。

その意味で、そうした手帳は純然に Handbook と呼んでよいだろう。常に携帯され参照可能な媒体として、また自分の手引き書として機能するツール。それが手帳である。

少なくとも、多くの人が手帳というツールを通して行おうとしている情報整理とはそのような目的を持つと言える。その原則は「情報を適切に配置し、必要に応じて取り出せるようにする」であるのだが、なぜそれをするのかと言えば、社会的な関係性を維持し、ある組織や共同体の中での立ち位置を失わないためである。

なぜこんな自明なことをわざわざ確認しているのかと言えば、「そうでない情報整理」もあるからである。そして、「そうでない情報整理」では、また違った整理の仕方があるのだ、というのを本連載では確認していきたい。

(つづく)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?