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メモの種類/思考と行動/競争力としての創造力

Weekly R-style Magazine ~読む・書く・考えるの探求~  2019/10/07 第469号

はじめに

はじめましての方、はじめまして。 毎度おなじみの方、ありがとうございます。

ここ最近、自律神経の回復には運動が大切ということでストレッチや軽めのヨガを続けてきました。参考にしたのは以下の二冊です。

なんとなく「ヨガ」と聞くと、難しいポーズを完璧にこなさないといけない、というイメージがありますが、本書は簡単にできるポーズが取り上げられているだけでなく、「ずぼら」で良いとも言ってくれています。不完全でいい、不十分でいい、というわけです。これならなんとなくやれる気がしますね。

で、結構長い間続けているのですが、やはり「飽き」というのが出てきます。単に家でやっているだけなので、周りからモチベーションが得られることもありません。そんなときに、たまたま二つの場所で「筋トレ」というキーワードに出会いました。一つは、『ダンベル何キロ持てる?』というアニメで、もう一つが、「Happy hacking small talk」というポッドキャストの運動の回です。

これらに触れて、「よし、ちょっと筋トレもやってみよう」ということで、YouTubeで「みんなで筋肉体操」をチェックしてみることに。

◇【みんなで筋肉体操】腕立て伏せ ~ 厚い胸板をつくる - YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=WndOChZSjTk

で、ちょっとやってみたんですが、めちゃくちゃ負荷が高いです。でも、不思議なことに、筋トレをやっていると、なんとなく前向きな気持ちになってきます。元気いっぱいというほどではありませんが、それでも気分が沈み込むようなことはありませんでした。これは思わぬ副産物です。

よし、これも毎日やっていこうと思っていたら、次の日ひどい筋肉痛に……。どんだけ運動不足だったんでしょうか……。

〜〜〜セットで語ろう:その1〜〜〜

自己啓発書などで「コンフォートゾーンから出よう」というアドバイスがあります。乱暴にまとめれば「いつまでもぬるま湯に浸かっていてはだめだ」ということでしょう。

でも、その場所がコンフォートゾーンだという確証はどうやって得られるのでしょうか。あるいはその場所は、その人にとってのセーフティーゾーンかもしれません。それを抜け出るのは本当に正しいことなのでしょうか。

たとえば、ある人は家に帰ってきて非常に落ち着き安心できる。だから、次の日職場で頑張ることができる。そういう関係があるかもしれません。このとき、自宅を「コンフォートゾーン」だと考えて、野宿し始めたらその人の生活は大きく変わってしまうでしょう。

だから、「コンフォートゾーンから出よう」というアドバイスは、「安心できる場所を持ちましょう」というアドバイスとセットで語られるのが望ましいように思います。

〜〜〜セットで語ろう:その2〜〜〜

ある種の工夫を行うと、雑事が次々に片づくというライフハック的なものはたしかにあります。溜まっていたメールに次々と返信したり、散らかった部屋の整理を進めたりだとか、そういう細々したものを片づけるのはなんとなく気乗りしないものですが、その自分の気持ちを「気乗り」するようにもっていくテクニックはあるわけです。

しかし、それはそれとして、「必要ない雑事はやる必要はない。さっさとタスクリストから消してしまう」という一種の心構えというか考え方も必要でしょう。でないと、やらなくてもいいことを超高速で片付けていくという「間違った生産性」を高めるばかりです。

これもやっぱり、二つの考え方が一緒に語られるのが良いのでしょう。

〜〜〜くじらなし〜〜〜

先日Twitterで障害が発生していたようです。

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 米ツイッターは米東部時間の2日午前0時(日本時間2日午後1時)すぎ、ツイッターで障害が発生していると発表した。修復作業をおこなっているという。
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いつもなら結構な不満を溜め込んでいるところですが、ここ最近はあまりタイムラインの住人ではないので、障害が起きていたことすらずいぶん後から知りました。それはそれで良いことなのかもしれません。

それにしても、ずっと昔はしょっちゅうTwitterが落ちていて、クジラの画像が表示されていました。ずいぶん懐かしい感じすらします。そういうときは「Twitterが落ちていることをツイートできない」などとFacebookに書き込んだものですが、それもまた懐かしい話になりつつあります。

〜〜〜脳波の世界〜〜〜

一瞬冗談かと思ったのですが、本当のニュースでした。

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 今回の実証実験で新本社の従業員は頭部に脳波測定キットを着用し、測定データを基に「ストレス度」「集中度」「興味度」「快適度」「わくわく度」の5つの指標を可視化する。
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やりたいこと自体はわかります。社員のストレス度や集中度をチェックして、「快適な」職場を構築しようというのでしょう。しかし、そのために社員の声を参考にするのではなく、脳波を測定するという考え方がほとんどホラーの世界です。フーコーならこの状況をどのように批判したでしょうか。

あと、ごく単純に思うのですが、自分の脳波が測定されているというその環境自体が一つのストレスを引き起こす気がします。その意味で、ここで得られるデータもどれだけ頼りになるのかわかりません。

〜〜〜今週見つけた本〜〜〜

今週見つけた本を3冊紹介します。

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 人間はこの地球からどのようなエネルギー資源を見つけだし、
 どのように利用してきたのだろうか。
 発見、発明、発展、そして立ちはだかる難題…。
 エネルギーの変遷をめぐる「人間」たちの物語。
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 「人間はだれでも、人間としての存在の完全なかたちを備えている」──不寛容と狂気に覆われた16世紀のフランスを、しなやかに生きたモンテーニュ。本を愛し、旅を愛した彼が、ふつうのことばで生涯綴りつづけた書物こそが、「エッセイ」の始まりだ。困難な時代を生きる私たちの心深くに沁み入る、『エセー』の人生哲学。
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 無力な私たちは権力に対してどう声をあげるべきか?
 チェコの劇作家、大統領ヴァーツラフ・ハヴェルによる
 全体主義をするどく突いた不朽の名著
 真実の生をいきるために私たちがなすべきことは何か
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〜〜〜Q〜〜〜

さて、今週のQ(キュー)です。正解のない単なる問いかけなので、頭のストレッチ代わりにでも考えてみてください。

Q. よく聴いているポッドキャストがあれば教えてください。

では、メルマガ本編をスタートしましょう。

今週も「考える」コンテンツをお楽しみくださいませ。

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2019/10/07 第469号の目次
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○「メモの種類」 #メモの育て方

○「思考と行動」 #『Think clearly』を読む

○「競争力としての創造力」 #僕らの生存戦略

※質問、ツッコミ、要望、etc.お待ちしております。

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○「メモの種類」 #メモの育て方

前回書いたように、知的生産の技術やタスク管理といった既存の枠組みを超えた「メモ」について考えていきます。

まずは、先達の著作を振り返りながら、どのようなメモの種類があるのかを見ていきましょう。

■情報をプールすること

板坂元の『考える技術・書く技術』では、色違いのカードを使う情報整理法が紹介されています。

が、その前に、以下の一文を紹介します。なぜカードを使うのかについての文章です。

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 読んだり考えたりして蓄積された知識は、将来の使用のために整理しておかなければならない。井戸端会議の達者な人は、情報量には乏しくないけれども、その整理・管理が自我流に頭の中に入っているだけなので、せっかくの情報が噂のレベルより先に進むことができない。学者と町のおばさんとのちがいは、この点にも大きくあらわれるものである。つまり、井戸端会議の議員さんたちは情報を乱雑にとり入れて、その取捨ができないで、情報をプールする方法がきわめてまずいわけである。
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この文章からは、以下の三つが確認できます。

(1)蓄積した情報が多いからといって、それが知的成果に結びつくとは限らない
(2)知的成果を生むには、取捨が必要である
(3)知的成果を生むには、情報をプールする方法がeffectiveでなければいけない

おそらく(2)と(3)は関連しているでしょうが、それをときほぐすのは後にして、まずは話を先に進めましょう。

板坂が指摘する、学者と井戸端会議議員の違いは、シャーロック・ホームズが語る頭の屋根裏部屋の話を彷彿とさせます。

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 「人間の頭脳というものは、もともと小さな空っぽの屋根裏部屋のようなもので、そこに自分の勝手にえらんだ家具を入れとくべきなんだ。ところが愚かなものは、手あたりしだいにこれへいろんながらくたまでしまいこむものだから、役にたつ肝心な知識はみんなはみだしてしまうか、はみださないまでもほかのものとごた混ぜになって、いざというときにちょっととりだしにくくなってしまう。
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 そこへゆくと熟練した職人は、自分の頭脳部屋へしまいこむ品物については、非常に注意をはらう、仕事をするには役だつもののほかは、決して手を出さず、といってその種類は非常に多いのだが、これらを彼はきわめて順序よく、きちんと整理しておく。(後略)
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 『緋色の研究』(コナン・ドイル 延原謙 訳)

板坂とホームズの指摘は強く重なっています。

「愚かなもの」、つまり知識を知的成果に結びつけられないものは、手あたり次第に知識を仕入れてしまう。だから、役に立つ情報を覚えておけないか、あるいは覚えているにしても、必要なタイミングで引き出せなくなってしまう。

逆に、「熟練した職人」、つまり知識を知的成果に結びつけられるものは、役立つ知識だけを適切に仕入れ、それを「順序よく、きちんと整理しておく」から、必要に応じて知識を使うことができる。板坂の話と同じ構図でしょう。

ホームズはさらに、この指摘の後に「屋根裏部屋の有限性」にも言及しています。頭の中というのが無限のサイズを持つものだと勘違いして、手当たり次第知識を放り込んでしまうと、結局自分の仕事に真に役立つ知識が使えなくなってしまう。この指摘は、デジタル時代でいくらでも情報を取り込めてしまう現代において強い示唆を持ちますし、またこれは知的成果とは別の領域である、タスク管理においても重要な意味を持ちます。

が、この点に深く入り込んでいくのは、さまざまなメモを見回ってからにしましょう。

■板坂元の4種のカード

さて、先送りしていた板坂の「カード法」に戻ります。

カード法と言えば、梅棹忠夫であり、彼はたった一種類のカード(京大式カード)を使っていましたが、板坂は色違いの四種類のカードを使っていたようです。サイズは5×3インチ。色は白・緑・黄・赤の四種類です。

白:自分の専門領域の資料で永久保存するもの
緑:専門外の知識で長期保存するもの
黄:一ヶ月〜四ヶ月で仕上げる仕事用
赤:緊急用。メモ代わりに使う

まず白と緑はわかりやすいものです。板坂は文学者ですから、文学に関する知見は白色のカードに、それ以外の知見は緑色に書き込むことになります。おそらく前者は論文執筆のために、後者はエッセイや新書などを書くために利用されるのでしょう。

一方、私のような専門を持たない知識労働者だと、この区別は非常に曖昧となります。実用書も書くし、エッセイも書くし、小説だって書くし、そのどれもが「自分の仕事」となっている場合は、「これは白か、緑か……」といちいち考えなければなりません。その場合は、一緒くたにしてしまって問題ないでしょう。梅棹のカード法も、この白と緑のカードを合わせたような使い方だったと想像されます。

次に黄色です。「一ヶ月〜四ヶ月で仕上げる仕事用」とあり、たとえば今執筆している本の素材・使いたいフレーズや名言、その他アイデアなどを書き留めるために使うようです。当然本を執筆し終えたら破棄されるカードなのでしょう。長期保存が前提の白や緑とはその点が違っています。

再び梅棹のカード法と比べてみると、この黄色のカードは「こざねとカードの間くらい」に位置づけられるでしょう。こざねほどざっくりした記述ではないが、かといってカードほど長期的に保存するわけではない材料を扱うためのツール。それがこの黄色のカードです。

このように、同じカードを使う情報整理法でも、粒度の取り方が人によって違ってくることが見えてきます。たいへん興味深い差異です。

最後の赤色のカードは、まったくもって使い捨てのカードです。メモ帳の代わりにカードを使っているようなもので、買い物リストや後でやることなどを書き留め、使い終わったら破棄されるもののようです。

■知識の分け方

以上、板坂の4種のカード法を確認してみました。

最初に引用したように、彼のカード法は情報を整理・管理することに非常に自覚的です。

・専門とそれ以外をわける
・長期と短期をわける

このような選別を経ていれば、自分の専門領域の知見を探すときには白色のカード群を漁ればいいわけですし、何かのネタを欲しているなら緑色のカード群を漁ればOKです。仕事するときは黄色のカードに集中し、それ以外の雑多なメモは赤色に書き留める。綺麗な「棲み分け」ができています。

一方で、梅棹のカード法と比較したように、このような区別が絶対に必要である、とも言えません。特に、「自分の専門」が何かしらの理由で明確でない場合は、白と緑に書きわけるのはたいへん困難です。この点は、それぞれの人の仕事の(≒知的作業の)スタイルによって、情報のプール法のスタイルも異なるという理解でよいのでしょう。

とは言え、専門性や保存の長さによって情報を切り分ける、という考え方はたいへん有用です。たとえば、Evernoteを使っていると、上記のような「書き留めるもの」が一つの箱に一緒くたに集まることになります。しかも、それらの「見た目」はすべて同じであり、自分がそれをどう扱いたいのかを、そのたびごとに考えなければなりません。

それを考えないと、詰め込みすぎた屋根裏部屋あるいは井戸端会議議員の頭の中と同じことになってしまうでしょう。それは避けたいところです。

■さいごに

というわけで、今回は情報をプールすることと、板坂元のカード法について確認してみました。いくつかの示唆は得られたように思います。

次回は、現代的情報カード法であるPoICについて見ていくことにします。

(つづく)

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