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意志と麻雀 / 『Re:vision』について / プロトタイプ稿の公開その2

Weekly R-style Magazine ~読む・書く・考えるの探求~ 2021/01/10 第587号

○「はじめに」

『Re:vision』が発売となりました。

本編で、この企画について書いていますので、よければご覧ください。

〜〜〜ポッドキャスト〜〜〜

ポッドキャスト、配信されております。

◇BC028 『「そろそろ、お酒やめようかな」と思ったときに読む本』 |ブックカタリスト

◇第九十四回:Tak.さんと『Re:vision』の発売と今年の目標について by うちあわせCast

ブックカタリストは、ごりゅごさんが『「そろそろ、お酒やめようかな」と思ったときに読む本』を紹介してくださりました。酒飲みにとっては結構切実な話です。

うちあわせCastは、今──特定の界隈で──話題の『Re:vision』についてです。

〜〜〜表現を改める〜〜〜

Textboxで、自分用のページをいくつも作っているのですが、すべてがゼロベースです。つまり、参照できるフォーマットがありません。ということは、どういうデザインにするのかに加えて、どういう文言を用いるのかも逐一考えていく必要があるわけです。

で、少し前に手持ちの「やること」を整理するためのページとして「Board.md」を作り、そのページに「喫緊ではないが、それでも気に留めておきたいこと」を扱うスペースを設置し、そこに「懸案事項」というラベルを貼りました。意味的にはまったく間違いが含まれていないネーミングです。

しかしながら、こうした抽象的表現は、間違いではないもののジャストフィットするものでもありません。作ったばかりのときは自分がその表現で何を言い表そうとしていたのかをすぐに思い出せるのですが、時間が経つとだんだんその感覚が希薄になり、やがてはこのラベルから「意味」が失われていきます。

そのことに気がついたので──つまり、この欄の「意味」がほぼ消失している事実に直面したので──欄のラベルを「できればやっておきたいこと」に変えました。間違えようがない実直な表現です。

こういう実直な表現は、まったく格好良くはないのですが、そもそも自分だけが使うシステムに過剰な格好良さを求めても詮無い話です。それよりも、誤解することなくその意味を受け取れるネーミングの方がはるかに実用的でしょう。

ちなみに、ゼロベースでシステムを作り上げていく場合、こういう「失敗」は避けては通れません。とりあえずやってみて、その結果を受けてシステムを作り替えていく、という「回り道」がどうしても必要です。

たぶんそのことが、現代の「与えられるツールに従う」傾向が関係しているのでしょう。いかにもそちらの方がストレートに進めそうな気がするからです。もちろんそれは勘違いなわけですが。

〜〜〜デジタルノート講座〜〜〜

シゴタノ!で去年連載していた「デジタルノートテイキング」を終えてみて、おぼろげに「オンラインで、デジタルノート講座みたいなものをやってみたい」という気持ちが湧き上がっています。

なぜかというと、デジタルノートの使い方は、アナログノートの使い方とはぜんぜん違っていて、どうやら一からその理解を構築する必要がありそうだぞ、と感じたからです。アナログノートのメタファーのままデジタルノートを扱ってしまうと、その力が十全に発揮できません。だから、ゼロベースで説明していく必要があります。

そうしたときに、たとえばアナログノートであれば、実際例を写真で入れるなどして説明を強化できますが、デジタルノートの場合は、「機能」がポイントとなり、それを十全に表すには動的なメディア(つまり動画)が必要になってきます。だから、オンラインのデジタルノート講座なわけです。

最終的にアイデア倒れに終わってしまう可能性もありますが、それでも一応このアイデアは少しずつ温めていこうと思います。

〜〜〜Q〜〜〜

さて、今週のQ(キュー)です。正解のない単なる問いかけなので、頭のストレッチ代わりにでも考えてみてください。

Q. デジタルノートを使う上で、何か困っている点はあるでしょうか。

では、メルマガ本編を始めましょう。今週は『Re:vision』の企画について振り返ってみます。あと、後半には「プロトタイプ稿」もありますのでお楽しみに。

○「意志と麻雀」

本題に入る前に、少しだけ「麻雀」というゲームについて話をします。

まず、ルールを知らない方のために、簡単にゲームの流れに触れておきましょう。

プレイヤーは4人で、ゲーム開始時に山牌からそれぞれ13枚の牌を持ってきます。それが手牌となります。ポーカーなどで最初に配られる手札と同じですね。

その後、各プレイヤーは自分の手番が回ってきたら、山牌から1枚牌を手牌に加え、その14枚(13+1枚)から不要な牌を一枚捨てます。あとはそれを繰り返して、自分の手牌を整え、完成形を目指していきます。

面白いのは、このようなゲーム進行において、プレイヤーに「見えている」情報が非常に限定的なことです。一番最初は自分の手牌だけしか見ることができず、一巡(ターンのことです)ごとに一枚見える牌が増えます。相手が捨てた牌も皆に見えるようになっているので、ぐるっと一周すると4枚くらいの牌の情報が明らかになるわけです。

逆に言えば、ゲームの序盤はほとんど何の情報もない状況からスタートするのです。当然、相手がどんな牌を山から引いてきたのかもわかりませんし、自分が次どんな牌を引くのかもわかりません。基本的にそれは「偶然」が支配する領域の話です。

その意味で、麻雀のプレイヤーは徹底的に「受け身」です。最初に配られる手牌(配牌といいます)もランダムであり、毎順引いてくる(麻雀用語では「ツモってくる」)牌もランダムです。

なので、配牌を見たときに、「よし、こういう形にしよう」とあらかじめ形を決めていても、その通りに行く保証はまったくありません。本当にごくごく稀に、想定している通りに牌を引き、一気に「完成形」に持っていけることもありますが、それはきわめてレアケースです。たいていは、想定通りにはいかず、引いてきた牌に合わせて「完成形」を変えていかなければなりません。むしろ、そうした手牌構成の柔軟性の高さが麻雀の「うまさ」を構成する要素の一つでもあります。

麻雀のプレイヤーは、最初に「こうする」と決めて、その通りに実現することはできません。なぜなら、どんな牌を手牌に持ってくるかを自分で決めることができないからです。どれだけ努力しても、望む牌を持ってくる確度を上げることはできません。手牌は基本的に偶然であり、つまり私が影響を及ぼせる範囲の外にあります。

一方で、完全に受け身なのかと言えば、そういうわけでもありません。「どんな牌を捨てるのか」という選択は可能です。むしろ、極端に言えば、そこにしかプレイヤーの選択はないといえるでしょう。プレイヤーの意志が宿るのは、「どの牌をツモってくるのか」ではなく、「どの牌を捨てるのか(/残すのか)」という状況によって突きつけられた選択なのです。

* * *

私がイメージする「意志」とは、上記のようなものです。

何もかもを思い通りにするのではなく、むしろほとんど「ままならない」(自分の意志の外にある)状況が突きつけられる中で、ほんのわずかでも自分の選択を行うこと。

その選択をしたからといって、必ず思い通りになるわけではないし、なんなら不合理な結果が訪れるかもしれない。「それでも」、その選択をするということ。

それが私がイメージする「意志」です。

『Re:vision』の話をする前に、少しだけこの話をしたくなったので、ちょっとだけ書いてみました。では、本題に入りましょう。

○「『Re:vision』について」

さまざまな場所で告知しておりますが、改めてここでも告知すると『Re:vision』が発売となりました。Tak.さんとの共著であり、セルフパブリッシング(KDP)な一冊です。

この本は、自分にとってもいろいろ新しい試みが含まれています。そこで今回は、この企画そのものを振り返ってみます。

■企画のはじまり

一番最初のきっかけは、まったく思い出せません。すでに記憶は曖昧です。

一つ言えるのは、私がずっと「共同コンテンツ」をやりたいと考えていた、ということです。実際いくつかの共同的なコンテンツもプロトタイプ的にスタートさせていましたが、満足いく結果に至ったことはほとんどありません。こういうのは「運用」がなかなか難しいのです。

それでも諦めずにいろいろアイデアを考えていたのでしょう。その一つに、「Tak.さんと共同コンテンツをやる」がありました。これも突飛なものではなく、お互いのセルフパブリッシング著作を読んでいて、「何か近しいことを言っているし、それを展開できるのではないか」という思いがふつふつと煮えたぎっていたのです。

『「目標」の研究』(倉下忠憲 2016/12/11)

『アウトライン・プロセッシングLIFE: アウトライナーで書く「生活」と「人生」』(Tak. 2018/6/27)

この二冊の本は、ぜんぜん違う内容ではありますが、「視点」に近しさがあります。何がどう近しいのかは実際にご覧いただくとよくわかりますし、『Re:vision』がその集大成でもあるので、ここでは言及しませんが、ともかくある種の「呼応」を感じていて、それを何かしらの形にしたい、という気持ちを持っていました。

そこで、2020年にTak.さんにオファーをし、じゃあまあ企画の打ち合わせからですね、というところで、その打ち合わせすらもコンテンツにするところから話は始まりました。

◇第二十六回:Tak.さんと共著のうちあわせ by うちあわせCast

これが2020年の3月5日。このポッドキャストで、まず全体としてどんな「本」にするのかを検討しています。二人でコンテンツを作るとして、それをどのように分担するのか、最終的にどういうボリュームにするのか、そういう会議がこの第一回(あるいは第零回)では行われています。

ちなみに、今これを書いていて気がつきましたが、『「目標」の研究』が2016年で、『『アウトライン・プロセッシングLIFE』が2018年で、この「うちあわせ」が2020年と、ちょうど2年飛びの間隔がありますね。別に意識したわけではありませんが、「何かが十分に貯まって、溢れてくる」にはこれくらいの時間がかかるのかもしれません。

閑話休題。

ともかく、上記の「うちあわせ」の後にnoteでマガジンを作成しました。2020年3月26日のことです。

◇『Re:vision』(仮)|倉下忠憲|note

でもって、4月1日から一回目の投稿がスタートしています。

◇第一回:デイリータスクリストのススメ|倉下忠憲|note

さらにその後、4月9日に二回目の「うちあわせ」が行われました。

◇第二十八回:Tak.さんと『Re:vison』(仮)について by うちあわせCast

ポイントは、企画がスタートした"後"に改めて「うちあわせ」している点です。普通の企業の企画ならまずありえない話でしょう。でも、個人間でスタートする企画ならぜんぜん問題ありません。というか、このように進める「べき」だとすら思います。なぜなら、「やってみないとわからない」ことが山ほどあるからです。

・どういう形なら書き進めやすいのかがわからない
・自分がどういうことを書けるのかもわからない
・書いたものがどんな反応をもらえるのかもわからない

こんな「わからない」だらけの状況で、企画案を「最適化」できると考える方が無謀でしょう。ともかくお試しでもちょっとやってみて、そのやってみた実践から得られた情報を元に、企画案そのものを再検討するアプローチが非常に現実的かつ効率的であると感じます。

実際、第二十六回でいろいろな「進め方」を検討していましたが、第二十八回を聴いてみるとTak.さんが「他の人のアウトラインを見るとうまく書けないことがある」とおっしゃられています。ということは、「アウトラインをお互い持ち寄って書く」というやり方はうまくいかなかった可能性があります。でも、アイデアを検討してた時点では、そのことが見えていなかったのです。

でもって、そうしたことはあらゆるアイデアと予測に顔をのぞかせます。私たちはだいたい情報不足の状態から始まるのです。その段階で、決定的な決定を行い、以降はそれを厳守する、というやり方は無謀以外の何ものでもありません。

まず軽く方向性だけを決めて、あとは実践をしながら再検討を続けていく。そうしたアプローチで本企画は進んでいきました。本書をお読みになった方は気がつかれるでしょうが、このアプローチそのものがRe:vision的だったわけです。

■連載後

ある程度、方向性が決まったら、あとは連載を書くだけです。お互いに週一回くらいのペースで、そのまま書き続けていきました。連載最後の記事は以下の記事で、2020年の8月28日に投稿されています。

◇piece 12:ビジョンと欲望|Tak. (Word Piece)|note

4月1日にスタートしたので、だいたい5ヶ月。企画検討期間を含めれば半年くらいかかったと言えるでしょう。ペーストしては想定した通りでした。あまり無理することなく、本一冊分に相当する原稿が集まった結果です。

最終投稿の少し前、2020年8月13日にさらなる「うちあわせ」が行われています。

◇第四十回:Tak.さんとRe:visionのその後について by うちあわせCast

終了した連載をどのように「本」にしていくのかについての会議で、つまりはここからが後半戦です。

ちなみに上の回では「2、3ヶ月で編集作業を終わらせる予定」と宣言しておりましたが、もちろんそれも"妄想"であったことは、本書の発売が2022年の1月だったことからも明らかです。でも、「現実」というのはだいたいそういうものです。

ちなみに、この時点では、この連載をどのようにまとめるのかはまったくの「ノーアイデア」でした。企画を始める段階でも考えないようにしていましたし、企画が進んでいる段階でも、企画が終わった段階でも、イメージはありませんでした。それを考えるのは、実際に書き終えた原稿を集めてからでした。これは"先入観"に遮られずにアイデアを広げるための一つの施策です。

ともかく、Tak.さんの最後の記事が投稿された後、私がこれまでの連載をまとめて編集する作業に入りました。

(下に続く)

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