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Scrapbox体験/バザール執筆法/ 『書くことについて』/ひさびさの腕時計

Weekly R-style Magazine ~読む・書く・考えるの探求~ 2020/11/16 第527号

○「はじめに」

うちあわせCastの最新回が配信されております。

最近構想している「本をテーマにしたポッドキャスト」のプロトタイプ回です。

現在、どういう形で進めていくのかを模索中なので、よろしければご感想等お願いいたします。

〜〜〜Evernoteとの距離〜〜〜

大型アップデート以降、Evernoteとの距離が少しずつ開いてきています。心理的な距離です。

すべてのプラットフォームで機能とインターフェースを統一する目標に向けて、一時的に機能ダウンするのは構いません。AppleScriptが使えないのも耐えられます。しかし、新しいバージョンでは、ノートの表示の切り替えに、一瞬待たされるのです。

といっても、本当に一瞬でしかありません。しかし、その一瞬が気になるのです。

あと、ノートリンクを開くときも、ワンクリックの手間が増えました。これもたいへん気になります。

結局、Evernoteを常時開いておき、必要な情報を参照する、という使い方はあまりしなくなり、Evernoteにしかない情報を探すときにだけ起動するようになりつつあります。

一方で、すぐに参照したい情報はどんどんテキストファイルに移しています。でもって、それでも特に問題ありません。

たしかにEvernoteであれば、情報の作成や移動は楽なのですが、VS Codeとターミナルを合わせて使えば、似たような楽さは得られます。

別にEvernoteが不要になったわけではありません。ただ、普段使いではなくなりつつある、というだけです。

なんとなく寂しさもありますが、それとは別に「自分の環境を自分で作れる」のはやっぱり楽しいものです。

〜〜〜パワーが不足〜〜〜

基本的に書き物仕事では、パソコンのスペックは必要ありません。テキストエディタとWebブラウザが快適に動くなら、たいていの作業はこなせます。

なので、今まではMacBook Airの一番低スペックなものを購入していました。それで十分だからです。しかし、そのMBAではここ最近力不足を感じることが増えました。Zoomなどでビデオ会議をしつつ、作業したり調べものをしたりすると、う〜〜ん、という感じで動きが若干重いのです。

時代はクラウドで、低スペックのマシンであってもいろいろなことができるぜ!ということが一時期言われてきましたが、最近の環境では少なくとも動画会議くらいはそつなくこなせるスペックが求められるのかもしれません。なかなか複雑な話です。

〜〜〜企画案〜〜〜

ふと思いついたのですが、『兼業主夫の生活管理術』という企画があったら面白そうです。名前の通り、在宅で仕事をしつつ家事をこなしている男性向けのノウハウ・エッセイ集という感じ。

副題は、森の生活をもじって「奥の生活」。もちろん「奥様」とかの奥です。

知的生産にもさまざまな技術がありますが、家事だって同様です。しかし、男性目線でのそれはあまり行われていないかもしれません。そうした技術の共有は、これからの時代向けのコンテンツとなっていきそうです。

〜〜〜たくさんありすぎる〜〜〜

『成功者がしている100の習慣』という本を書店で見かけました。「100個か〜、多いな〜」というのが率直な感想です

本の分厚さで言えば、『7つの習慣』の方がはるかにボリュームがあるのですが、7つだったらなんとかいけそうな気がしますね。そういう「認知の容易さ」は存外に重要です。

ただ、「ここに100個ありますから、できそうなものに取り組んでください」というスタイルなら、それはそれで取り組みやすいのかもしれません。

情報の提示のスタイルにはやはり幅があります。

〜〜〜途中経過までの楽しさ〜〜〜

最近のソーシャルゲームは、ほとんど作業ゲーです。淡々と同じような工程を繰り返していくのです。それはそれで頭を使わずに実行できるので、気晴らしには良いのかもしれませんが、個人的には飽きがきます。

ただ、その飽きが来るまでの直前、「いかにその作業を効率化していくのか」を考えるプロセスはすごく楽しめます。ゲームそのものよりも、その効率化プロセスの方が楽しいと言えるかもしれません。

いささか本末転倒感もありますが、ゲームなら構わないでしょう。ただ、仕事がそれだとちょっと困りますね。

〜〜〜ノートに書いておく〜〜〜

新しいことにチャレンジしようとするとき、「どうせうまくいかない」と感じることがあるかもしれません。不安が強まって、心が落ち着かない感じです。

そういうときは、どういう状況ならうまくいったと言え、どういう状況ならうまくいかなかったと言えるのかをノートに書いておくと良いでしょう。

だいたいの場合、「どうせうまくいかない」と感じているときは、その対象は曖昧模糊としています。というか、曖昧模糊としているから不安なのです。

結果について思いを巡らせ、文章に書いていると、その心が少し落ち着いてきます。うまくいったと言える状況について書くと、あまりにも自分が高望みしていることに気がつくかもしれません。うまくいかなかったと言える状況について書くと、どうしたらそれを避けられるのかについての手だてを思いつくかもしれません。

どちらにせよ、曖昧とした不安さからは逃れられます。

加えて、行動を始める前にこうしたことを書いておくと、結果が出た後に逆算して評価を決定することからも逃れられます。つまり、自分について否定的な感覚を強く持っている人は、どのような結果が出ても、それをダメだ、うまくいかなかったと評価してしまうのですが、事前にノートに書いておけば、それと比較して評価ができるようになるわけです。

もちろんそれでも、ダメだという評価が出てくるかもしれませんが、少なくとも結果が決まっているデキレースよりは、はるかにマシだと言えるでしょう。

なんであれ、ノートにいろいろ書いておくのは有効です。頭の中だけで、進めるのは止めた方がよいでしょう。

〜〜〜今週見つけた本〜〜〜

今週見つけた本を三冊紹介します。

『科学哲学へのいざない』(佐藤直樹)

「科学哲学」は、現在重要な使命を持っています。私たちが科学とどう評価するかによって、国政への評価も変わってくるからです。ごく普通の社会で、ごく普通に生きていくときには、科学に関する知識はあまり「役立たない」かもしれません。しかし、今のような時節では、そうした知識がかなりの重みを持ってくると感じます。

『コロナ時代の哲学』(大澤真幸、國分功一郎)

「現代最も注目される哲学者アガンベン」の発言を出発点に、二人の対談が繰り広げられるようです。とは言え、日本でアガンベンはあまり注目されていない気がしますが、どうでしょう。

『脳はすこぶる快楽主義 パテカトルの万脳薬』(池谷裕二)

日本の脳科学系のポップ(というかなんというか)な本では、池谷裕二さんのものがかなり有名です。本書は、週刊朝日での連載をまとめた3冊目の単行本ということで、わりと気楽に読めそうな雰囲気です。

〜〜〜Q〜〜〜

さて、今週のQ(キュー)です。正解のない単なる問いかけなので頭のストレッチ代わりにでも考えてみてください。

Q. 家事周りのノウハウで、何か気になる対象はありますか?

というわけで、メルマガ本編をスタートしましょう。

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○「Scrapbox体験」 #Scrapbox知的生産術

先日、いくつかの記事を読んで感じたことをScrapboxにまとめました。

Scrapboxは、こうしたときに便利です。複数の記事のURLをまとめ、簡単なメモを書き記しておけますし、それを無理に分類する必要がありません。気楽にちょっとしたことを書きつけておけます。

そのようにして書いた記事をTwitterに流しておきました。知識の持ち寄りであり、「僕ちょっとこんなこと考えましたけど、どうですか」というアピールです。ツイートはすべてEvernoteに保存してあるので、自分自身のログにもなります。

しばらくして、そのTwitterをエゴサーチしていたときのこと。「倉下」の検索結果として、以下のページに言及しているツイートを見つけました。

なんとなく書いた記憶があります。たしかポエムチックなことを書いたはずです。

もちろん、私はそのページをすぐ開いて、読み始めました。そして、驚きました。先ほど書いたページとほとんど同じことを書いているのです。

具体的には最初の記事で、プログラマー気質な人として、結城浩さん、読書猿さん、finalventさんを挙げているのですが、それとまったく同じメンバーを「僕たちには、読書猿がいる」でも挙げています。

きっと、このページをツイートした人は、「着実に学ぶことを積み重ねている人 」→関連ページ→「僕たちには、読書猿がいる」の順で読んだのでしょう。実に、Scrapbox的です。

■二年前との邂逅

調べてみると、「僕たちには、読書猿がいる」は二年前に書いたページでした。

ここで、落ち着いて考えてみましょう。

自分が二年前に書いた、何の役に立つのかわからないメモが、関連によって邂逅を果たすようなことがどれだけあるでしょうか。そして、直近で書いたメモとの類似性・呼応性について考えることができるツールはどうでしょうか。

機能として可能なツールはやまほどあります。Evernoteでも、一つのノートに盛りだくさんのタグをつけておけば、それを鍵にして他のノートを手繰り寄せることで、上記のような邂逅は可能です。しかし、実際にそれが起こるかというと、かなり微妙でしょう。そもそもその「手繰り寄せること」をしないからです。

しかし、Scrapboxは、理屈や可能性としてではなく、現実としてそれが起きています。直近のメモと二年前のメモから、私は何か新しいことを考えるきっかけを得ているのです。言い換えれば、この邂逅の瞬間に、二年前のメモは「死蔵」から解き放たれ、私の知的生産の素材として活性化しています。

そうしたことが、(可能性としてではなく)実際的に可能なツールはどれだけあるでしょうか。

■手間は必要、されども

大切なのは手間です。

知的活動において、手間は欠かせません。むしろ手間なく行われるものでは知的活動とは呼べないと言えるくらいです。

しかし、その手間があまりにも大きくなりすぎると、行動が阻害されます。つまり、実際的に可能なレベルの手間である必要があるのです。

その点、私がScrapboxでメモしたことは、そのレベルに収まっています。

特に整理も分類も考えずに、Scrapboxのページに書き込み、それっぽいタイトルをつける。あとは、本文の中で自分の中のキーワードをリンクにする。以上です。「僕たちには、読書猿がいる」には、「#Scrapbox的ポエム」というハッシュタグがついていますが、これはネタのようなものであって、情報整理のためではありません。

つまり、私がやったことは、思いついたことをざっと書き、リンクをつけた。ただそれだけなのです。それは、二年前でも直近でも同じです。二年前、私のScrapboxが何ページだったのかはわかりませんが、その規模が3000ページを越えている今でもまったく変わっていません。

保存している情報がスケール・アップしていっても、私の手間はあるレベルに留まり続けているのです。この点は、情報を保存し続けていくツールにおいて、極めて重要な点です。

このメルマガでも何度も触れていますが、最初は使いやすく、便利で、見通しもよいけれども、情報が増えていくたびに使いにくくなっていくツールは、長期的な情報ベースツールには不向きです。

これは、今から情報ベースツールを選択する若い人にこそ知っておいて欲しいものです。目先の楽しさに惑わされてはいけません。そのツールを五年、十年使っていき、保存する情報が十倍や百倍になったとき、使用環境がどのように変わってしまうかを想像してみてください。そのような想像は、アナログツール時代では不要でした。せいぜいノートを置いておく棚をどのように確保すればいいかに頭をひねればよいだけだったのです。

デジタルツール時代では、それが変わります。一つのツールに、数千、数万の情報をため込んでいけるのです。長期的な視点が必要です。

■いかなる邂逅ルートがあるか

もう一つが、情報との邂逅です。

極めて高機能なRoam Researchを、私があまり使い込んでいないのは、それが基本有料だから広く使われないだろうと推測しているからではなく、backlinkの表示に一手間かかるからです。他にもいろいろ理由がありますが、一番の差異はここです。

一手間かかるものは、長期的に見て、だんだん閲覧しなくなります。最初のうちは楽しくてクリックしているものでも、慣れてくるとよほど注意を向けない限り閲覧しなくなります。それでは「そういえば、こんなものもあったな」という情報の邂逅はおきません。

さらに、私はScrapboxを公開しているので、今回のように他の人の目に触れることがあります。今回私はTwitter経由でそれを知りましたが、Twitterを使っていなくても、ソート順を「Date last visited」にしておけば、他の人が閲覧したページの情報は私にも伝わります。

さて、皆さん。二年前に書いた、検索に絶対に引っかからないような記事が他の人に読まれた経験はどれだけあるでしょうか。かなり少ない、というのが私の予想です。

しかし、Scrapboxではそうしたことがひょこひょこ起きます。一つのページが短いからいろいろ読みやすいという点もあるでしょうが、それ以上に関連ページに関連するページが表示される点が大きいでしょう。

■それって関連してる?

先ほど、「関連ページに関連するページが表示される」と書きましたが、そんなことは当たり前じゃないかと思われたかもしれません。しかし、そうではないのです。

Evernoteの「コンテキスト」機能(現バージョンではなくなっていますが)では、たしかに同じ文字列が含まれているノートが表示されますが、それは関連を保証するものではありません。

たとえば、コンテンツのレコメンドで『機械じかけのオレンジ』と『きまぐれオレンジ・ロード』が関連として表示されても困ってしまうでしょう。しかし、文字列だけをターゲットにするなら、そういうことが起きるわけです。

その点、Scrapboxの関連ページは、「私がリンクにした文字」がキーとなって選択が行われています。私が、機械的に文字列をリンクにしていない限り、上のようなちょっと困る関連の表示は起こりません。むしろ、「私の中では近しいと感じている」という倉下忠憲文脈に沿った関連が表示されるのです。

Amazonの書籍ページの関連も、そこそこ良い線をついているものもありつつ、全体としてはほとんど頼りにならないように、「文脈による関連づけ」はなかなか難しいのでしょう。

たとえば、文学とエロ漫画が大好きな人と、文学と哲学が大好きな人がいるとして、この人たちの購買履歴から「文学」を買ったときのレコメンドが適切に機能するかというと、やはりうまくいきそうもありません。少なくとも、多様な選択肢があるコンテンツ群を、機械的に、ないし統計的に文脈づけるのはかなり困難が伴いそうです。

むしろここでは大胆に、文脈づけとは非機械的・非統計的なものである、と宣言してもいいかもしれません。そうすることで、だからこそ知的活動には手間が必要だ、という話にも帰ってこれます。

■やはりすごいScrapbox

Scrapboxは、ベストな執筆ツールではないかもしれませんし、アウトライナーの代替になるものではないかもしれません。

しかし、今回書いたような機能を提供してくれるのはScrapboxだけです。ほんとうにこいつはすごいヤツなのです。他のツールがどれほど騒がしく機能追加したとしても、淡々と「やるべきことをやっている」Scpaboxの開発者さんはすごいと素直に感心します。

ともかく、皆さんも情報を長い間ため込んでいくツールの選択は、慎重に行ってください。あるいはいろいろ試してから決めてください。華々しさはそこでの主要なキーではありません。今回書いたようなことが、かなり強いキーになると個人的には思います。

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