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第十回:アイデアの「整理」はいかに行うか その4

前回、アイデアと呼びうるものの中で「モットー」の扱いが難しいことを検討した。中途半端な性質を持つので、それに合わせたデザインが必要である。

では、具体的にどのようなデザインになるのか。今回はそれを検討しよう。

アナログでは?

まず、アナログツールから考えよう。たとえば、手帳だ。

手帳において「モットー」の管理はしごく簡単である。手帳を開いた最初のページに書いておいてもいいし、カレンダーページの欄外に記入する手もある。どちらの場合であっても、何か別の要件で手帳を開くときに、その書き込みが目に入る。

無論これは、「普段手帳を使っている人であれば」と保留がつく点には注意を払っていい。普段手帳を使わない人であれば、手帳に書いても「モットー」の書き込みが目に入る可能性は低い。逆に、その人が日記を毎日書いているなら日記帳に書き込めば機能は代替できる。ようは、普段使いのツールに滑り込ませるわけだ。

上記のような使い方は、アナログツールではごく一般的であり、何かしら「工夫」している感覚も覚えないだろうが、同じ発想をデジタルツールに持ち込もうとすると途端に困難にぶつかる。

Googleカレンダーを開いてみたらいい。あのUIのどこに「欄外」があるだろうか。紙の手帳と違って、いくらでも一日の欄に書き込みをしていけるが、しかし「欄外」は存在しない。Google Taskと組み合わせることで、スケジュール+タスクの両方が管理できるが、それだって結局は「欄内」の話である。

ツールが機能的に設計されていればいるほど、デジタルにおいては「欄外」のような場所はなくなっていく。そうなると、ツールの開発者が想定している情報以外の記入が難しくなる。すると、アイデアのように性質がはっきりしないものは居場所がなくなる。由々しき自体であろう。

もちろん、そういう不都合も工夫で乗り越えてはいける(それがライフハックの神髄である)。しかし、一定量の不都合がそこに潜んでいることには注意を払っておいた方がよいだろう。

というわけで、以降はデジタルツールでの運用を念頭に話を進めていく。

リピートでリマインドする

「モットー」というものは、間欠的に目に触れて思い出すのが望ましいが、かといって自発的にそれを見に行くことは期待できない。だったら、ツールの方から呼びかけてもらうしかない。いわゆるリマインダーである。

Apple製品なら、そのままの名前の「リマインダー」.appがその役割を担ってくれる。自分が「これは大切なので、定期的に思い出したい」と思ったものをそこに登録しておくのだ。簡単な話だろう。似たような役割を担えるツールはごまんとある。

もし可能であれば、メールやTwitterのDMで同じことをしてもいい。自分が普段目にする場所やツールに、「モットー」をリマインドすれば同じことだ。

デジタルであれば、複数のモットーからランダムに一つ選ぶ、ということもできる。そういう発想を活かせれば、デジタルツールならではの「思い出し方/思い出させ方」が工夫できるだろう。

タスクにする/ルーチンにする

「モットー」は、リマインドするだけでなく、タスクにしてしまう手もある。それも繰り返されるタスク──いわゆるルーチン──にするのだ。

「ちょっと待ちたまえ。モットーはタスクではないから、実行できないのではなかったか」

と賢明な読者諸君なら思われただろう。適切なツッコミである。よって、ここで一つ工夫を加える。「モットー」の文言をそのままタスクにするのではなく、「それを確認する」というタスクにするのだ。

「もっと英語の勉強がしたい」は、どう考えてもタスクではないし、完了済みにすることもできないが、「"もっと英語の勉強がしたい"を確認する」であればどうか。これはタスクになっているし、完了済みにすることもできる。しかも、そのタスク名を読んだ瞬間に終了してしまっている。最速のタスクである。

ようは朝一にルーチンで自動設定された「"もっと英語の勉強がしたい"を確認する」を読んで、もうそのまま終了にする、ということだ。むろん、これでは何のアクション(次の行動)も起きてこない。しかし、まさにそういうものがモットーなのであった。自分がそういうことを思いついていた、ということをたまに思い出されば十分なのである。

ちなみに、毎日同じ文言がタスクリストに乗るようになると、人間はうまく「読み飛ばす」ようになるので、何日かおきにするか、たまに変更するのがよいだろう。

加えて言えば、別の場所に「モットーリスト」を準備して、「モットーリストを読む」というタスクにするとよさそうに思えるが、だいたい面倒になってそのリストを見に行かなくなるので、これはあまりうまくいかない。そのまま「モットー」が読める(目に入る)形にしておくのが吉である。

アウトライナー/アイデアノートに入れる

モットーを扱う三つ目の方法は、「あたかもそれをアイデアのように扱う」である。というか、そもそも「モットー」は大カテゴリー「アイデア」に属しているのだから、ごく自然な帰結と言えるだろう。さまざまな「思いつき」と一緒にモットーも書き並べておく。

ただし、デジタルツールであれば、その"順番"が極めて大切である。順番を指定することができず、作成日順などに自動的にソートされるツールではこれがうまくいかない。なぜなら、モットーは、基本的に書き留めたらそれで「終わって」しまうからだ。つまり、それ以上手を加えられることがほとんどなく、作成日順だけでなく更新日順であっても、後ろのほうに流れていってしまう。当然それが「目に入る」ことはない。

よって、アウトライナーのように項目を任意の順番に並べられるツールにおいて、他のアイデアと一緒に並べ、しかもそれを少し上の方に置いておくことが必要となる。でもって、たまに目にして「うん、これはまだ大切だ」と思うならば、少しだけ項目の位置を上にあげるようにする。そういう地味な「メンテナンス」が必要となる。

もちろんのことながら、この手法が使えるのはアウトライナーを日常使いしている人だけである。普段はまったくアウトライナーを触らないのに、モットーだけをアウトライナーに保存してもうまくいくはずはない。その場合は、何か自分が普段使いしているツールにおいて同種の考え方を適用すると良いだろう。

Scrapboxであれば、モットーを書き留めたノートをpinにしておいたり、いろいろなページにリンクを張っておく手がある。Evernoteであれば、最近追加されたHome画面の「固定ページ表示」を使うとよいだろう。その他のツールでも何かしらの方法があるように思う。でもって、そういう方法が一切使えない場合は、そのツールにおいてこのやり方は適用できないと諦めて別の方法を探すとよい。

アウトプットする/資料にする

最後となる四番目の方法は、「モットーについて文章を書く」である。これは『ベゾス・レター アマゾンに学ぶ14ヵ条の成長原則』の考え方に近い。

自分の「モットー」を箇条書きで並べるだけでなく、それについて自分が考えていることを文章にして、なんならそれをブログ記事にしたり、PDFにしたりして、「見た目」を整えておく。言い換えれば、他の人でも読める文章に仕立て上げるのである。でもって、それを保存しておく。

正直に言って、これは高頻度で行えるものではない。せいぜい四ヶ月に一度くらいのペースが限界だろう。なにせきちんとした文章を書くのは認知的にたいへんなのである。

しかし、そうしておけば四ヶ月後の自分がそれを読み返すのはグッと楽になる。この点を過小評価している人が実に多い。今の自分が楽に書けるように書いたとして、それが四ヶ月後の自分に読みやすい保証はどこにもない。むしろ、楽に書けば書くほど、後の自分は読むのに困難を覚えるだろう。それはつまり「読まなくなる」ということだ。

逆にしっかり時間をかけて書けば、四ヶ月後の自分がその「モットー」を思い出してくれる。もしそれで同じように重要だと感じているならば、再びそれを「文章」に書くだろうし、よりコミットがあがって、具体的なプロジェクトに着手するならば、それはもう「アイデア」を抜けて、別の領域に移動するだろう。

なんにせ、リマインダーやタスクのような断片的な情報ではなく、文章のようにしっかりまとまった文章として保存し、それを少し長いスパンで見たときの「先の自分」に送り渡すわけである。

ちなみに、そういうまとまった情報であれば、タグを付けて管理しても面白いだろう。他の情報と関連づけられて、新たな発見が生まれることもありうる。

さいごに

以上、4種類の扱いを見てきた。で、おわかりように、これらは「他の情報の扱い方」をアレンジしたものである。もともと「モットー」は、中途半端な(中間的な)性質を持つので、他の情報の扱い方を適用できるのである。

ただし、他の情報のやり方を「そのまま」使ったのではうまくいかない(なにせ重ならない性質があるからだ)。その点を、工夫するのがモットーの扱いでのポイントだろう。

というわけで、全十回にわたって「情報の扱い方」の概論について検討してきた。用途がはっきりしているほど、その「整理」は簡単で、用途がはっきりしなくなるほど「整理」が難しく(あるいはややこしく)なることが確認できただろう。

ここまでの話を踏まえて、次回からは「倉下の最近の情報整理スタイル/システム」を紹介してみようと思う。

(つづく)


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