見出し画像

アイデアの相互作用とその育成/ひとりSlackを別のツールで/バレットジャーナル

Weekly R-style Magazine ~読む・書く・考えるの探求~ 2019/12/16 第479号


はじめに

はじめましての方、はじめまして。毎度おなじみの方、ありがとうございます。

今週は、私事に追われまくっていたので、「はじめに」をすっ飛ばしてお送りします。

寒い季節がやってまいりましたので、皆様もお体お大事に。

では、さっそくはじめましょう。

今週も「考える」コンテンツをお楽しみくださいませ。

――――――――――――――――
2019/12/16 第479号の目次
――――――――――――――――

○「アイデアの相互作用とその育成」 #メモの育て方

○「ひとりSlackを別のツールで」 #メモの育て方

○「バレットジャーナル」 #メモの育て方

※質問、ツッコミ、要望、etc.お待ちしております。

画像1

○「アイデアの相互作用とその育成」 #メモの育て方

ここ最近、「メモの育て方」や「継続的思考」といったキーワードをよく持ち出しています。なぜかと言えば、私がいま切実に求めているのが、そのための方法論だからです。

たとえば、ノートにちょこっと追記すれば、それでメモが育ったことになるかというと、そういうわけではありません。それもたしかにメモの育成ではありますが、それだけが育成というわけではないでしょう。あくまでバリエーションの一つです。

では、実際にはどのような変化が起こるのか。いかにして、断片はより大きな断片になるのか。それを、つい最近発生した事例を中心にして紹介してみます。

まずは、各々の断片から。

-----断片の列挙始まり----

■断片1:新しいWebサイト作り

知的生産の技術に関する新しいWebサイトを作りたいと考えています。

ブログのように時系列に記事がどんどん追加されていくものではなく、テーマ性を持つ記事が集まるミニサイトのようなコンセプトだったら面白そうです。つまり、最新情報(フロー情報)を扱うのではなく、ある知識体系(ストック情報)を扱うサイトです。

イメージしているのは、誰かが「知的生産」で検索したときに、そのサイトを見つけ、そこで知見を得たり、読むべき本を見つけたりできる場所。そんなものができたら最高ではありませんか。

そう考えて、とりあえずはいくつかの本を紹介するページを作りました。そして、そこで停滞していました。

■断片2:知的生産のレッスン

ポッドキャスト「喋りたいことやまやまです」の第190回を聴いていました。

◇【#190】アシカガPと作戦会議 ~なんかおもしろいことやりたいっすね~ by 喋りたいことやまやまです A podcast on Anchor
https://anchor.fm/yamayama/episodes/190P-e9a9lp

この回の中で、誰かに何かを教わるという番組コンセプトってどうでしょうか、という話が出ていたとき、ふと閃きました。「知的生産のレッスン」とか「今から始める知的生産」とかってどうだろうか、と。

仮にそういうものがあるとしたら、どんな風に入門するか、どんな風に(音声だけで)伝えるのか。興味深いアイデアです。

■断片3:注を入れた記事

R-styleに注釈を入れた記事を書きました。

◇大橋式情報フローシステム2019 〜ホットとウェイト〜 | R-style
https://rashita.net/blog/?p=29758

もともとR-styleは、ある前提の知識を持っている人向けに書かれている(というか説明が面倒なので省いている)傾向があるのですが、この記事はできるだけ補足情報を入れました。

で、そのとき注を書いて思ったのは、方法論を(特に誰かが実践している方法論)を紹介しようとすると、入門者向けに説明しなければならない用語があまりにも多すぎる、ということです。

「一冊のノートで○○」とかならば話は簡単なのですが、現状ではさまざまなツールと、鍛え上げられたノウハウがいくつも組み合わさって、それぞれの人の方法論を形作っています。

だから、一度網羅的な用語説明があった方がよいのでしょう。

■断片4:名前を知らない人
(前回も少し書きました)

アウトライナーを使って文章を書くのが楽になった、という人でもKJ法やカード法を知らなかったりします。あるいは、ScrivenerやUlyssesといった他の知的生産ツールをまったく使ったことがない場合もあります。

「ジャンル」としての知的生産にうまくアクセスできておらず、情報が断片的にしか伝わっていないのです。このギャップを埋めたいところです。

■断片5:ツールのメタファー
(前回も少し書きました)

私の知的生産ツールの状況は以下になっています。

・前線基地としてのWorkFlowy
・研究所としてのScrapbox
・資料保管庫としてのEvernote
・タスクフォースとしてのScrivener
・中継地点としてのUlysses

ちなみに、シゴタノ!の大橋悦夫さんは、以下になっているようです。

・カタパルトとしてのTaskChute
・レジスタとしてのEvernote
・プロジェクト・ベースとしてのDynalist
・レシピ・リポジトリとしてのAsana
・テンプレート・ライブラリとしてのScrapbox
https://twitter.com/shigotano/status/1201545309001641984

ここからわかることは三つあります。

(1)複数のツールにそれぞれ異なった役割が与えられる
(2)異なる人で異なるツールセットがある
(3)同じツールでも異なる人で異なる役割が与えられる

仮の結論:一つのツールの話をしているだけでは、知的生産活動の全体像は決して見えてこない。

■断片6:現代版の知的生産の技術

次の記事を書きました。

◇凡人のための知的生産の技術 | シゴタノ!
https://cyblog.jp/38548

この記事は以下のように結ばれています。

 >>
 その意味で、凡人のための知的生産の技術とは、市民としての知的生産の技術です。この検討こそが、50年越しの宿題ではないかと、そんな風に思います。
 <<

この宿題を解くことが、現代版の『知的生産の技術』を執筆することにつながるのでしょう。そう考えたとき、梅棹忠夫の『知的生産の技術』は、発売当時どのように読まれていたのかが気になってきました。もちろんブーム的に消費された面はあるでしょうが、それだけだったのでしょうか。ある人たちの希望の柱として機能していた可能性も捨てきれません。

『知的生産の技術』は、体系的には書かれていません。よって、さまざまな知的生産の技術を整理し、それを体系化し直すことが現代を生きる私(たち)の宿題だという風にも捉えられます。しかし、体系的でなかったからこそ、『知的生産の技術』が多くの人に受容された可能性も視野に入れるべきでしょう。

ここで、最近のビジネス書「完全版」の失敗が頭を過ぎります。それらは、たしかに情報の補強がなされていますが、その分圧倒的に読みづらさが増えているのです。言い換えれば、読み通すのに一定の根気を必要とします。

情報は、増えれば増えるほど良いとは必ずしも言えません。特に、入門者向けに書かれた本であればなおさらです。

私は最初、現代版の『知的生産の技術』を執筆することは、『知的生産の技術 完全版』を書き下ろすことだと考えていました。もちろん、そうした本にも一定の意義はあるでしょうが、当時『知的生産の技術』がどのように読まれたのかを加味すると、それが果たして正解なのかが疑問になってきます。

■断片7:自分のこれから書く本の方向について

自分はこれからどんな本を書いていくのだろうか、と少し自問しました。

・わかりやすい技術解説書・初心者向けノウハウ書
・『思考のエンジン』のような技術と思想が絡み合うような本

どちらも面白そうです。前者の方が需要はありそうですが、後者は後者で新大陸を開拓していくような楽しみがあります。

おそらく前者は徹底的な技術書になるでしょうし、後者は多岐にわたる文献を引きながら知的生産の技術を論じていくことになるでしょう。

さて、どちらがいいか。

-----断片の列挙終わり-----

■相互作用の発生

さて、以上のような「断片」がありました。それぞれが発生した時期はバラバラです。近いものもあれば、とんでもなく遠いものもあります。が、時間の隔たりがどれだけあろうとも、これらは近しい方向性を持っていて、しかも相互作用を起こし始めます。

まず、「網羅的な用語説明があった方がいい」という思いが、Webサイトの新しい方向性として息づき始めました。用語を主体にページを作り、その解説を本の紹介を絡めながら記事を書いていく。なかなか良さそうではありませんか。

また、現代版の『知的生産の技術』と(原典たる)『知的生産の技術』の対比から、知的生産ツールの変化を、年表でまとめるコンテンツもそのWebサイトにはピッタリかもしれません。

そのような年表を辿ることで、利用者は自分が今直近で欲している情報以外の情報に触れることができます(たとえば、アウトライナーについて知ろうとしていたら、ワープロの使い方を知る、など)。

また、現代版の『知的生産の技術』では、特定のツールの解説ではなく、複数のツールを紹介し、それぞれにどんな役割が与えうるかを紹介するやり方が効果を発揮するかもしれません。現代のツールの選択肢の多さを考えれば、その選択を助ける情報こそが求められているでしょう。

あるいは複数ツールの話は中級者向けがいいのかもしれません。初心者向けにはもっと絞り込んだ情報を伝え、まずその行為(つまり知的生産)に親しむところから「レッスン」していくのも良いでしょう。必ずしも、一冊で初心者から中級者、そして上級者までフォローしなくてもいいのです。

その意味で、「知的生産の技術大全」のようなコンテンツは、それこそがっつりこの分野を探究してみたい人向けに書かれるのが良いのかもしれません。つまり、少し難しくても構わない、という位置付けです。その代わり、徹底的に優しい入門コンテンツも作っておく。そんな役割分担が思い浮かびます。

──というように、それぞれ違った場面で蓄積してきた断片たちが、他の断片とくっついたり、示唆を与えたり、まるっと変身してしまうことが起こります。今回紹介したのは、そのほんのさわりに過ぎません。ほかにもたくさんの影響・相互作用が起きています。

長いものであれば、5年前に考えていたことについて、つい最近ヒントを得た、ということもあります。時間の遠さは、──もちろん影響はあるものの──、断片(情報)同士のつながりを完全に抹消したりはしません。私が同じ方向に興味を持ち続けている限り、生まれ出た断片たちは、いつでも「起動」の直前で待機中なのです。

■ここにあるもの

私が、「メモの育て方」や「継続的思考」に興味を持っているのは、今回紹介したような知的作用の発生、つまり複数の断片が互いに影響を与え合う状況を促し、補助してくれるツールや方法論を欲しているからです。

ここにあるのは、「タスクが集まってプロジェクトになる」や「ビジョンがタスクを生む」といった変化ではありませんし、「文と文がくっついて文章になる」という変化でもありません。それらの変化は、線形あるいはせいぜい平面的な変化です。つまり、同じ平面に属する情報の位置が変わっているだけです。

どういうことかと言えば、「タスク」と「プロジェクト」は、どちらも行動に関する情報であり、その粒度が違っているだけなのです。文と文章も同じでしょう。

今回紹介したような変化は、もっと「質的」なものです。この「質」が何なのかはここでは定義しきれませんが、単にくっついて大きくなった、という変化でないことはたしかです。

そうした「アイデアの質的変化」(なんかかっこいいネーミングですね)をいかにして促せるのか。この探究が、最近の私の関心事です。もちろんそれは、(定義的に)知的生産の技術でもあり、タスク管理でもある、という非常に越境的なものになります。

その探究は、おそらく現代版『知的生産の技術』の執筆とは別の活動になっていくのでしょう。

あるいは、そうではないのでしょうか(→新しい断片の発生)

ここから先は

8,232字 / 3画像 / 1ファイル

¥ 180

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?