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『渚にて 人類最後の日』レビュー

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『渚にて 人類最後の日』

ネビル・シュート (著)

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今こそ読みたい?
とおすすめしちゃうわけではないのですが、世界全体が見えない敵に侵されつつある今日この頃、ついつい連想して思い出してしまう本なのです。

第三次世界大戦が勃発し、世界各地で4700個以上の核爆弾が炸裂した後の話。
その戦争は短期間に終結したのですが、地球の北半球は濃密な放射能に覆われ、爆撃を受け、汚染された諸国は次々と連絡を絶ちます。ソ連、ヨーロッパ、アジア、日本ももちろん、そしてアメリカも。
作戦行動中でなんとか生き残ったアメリカ合衆国の原潜〈スコーピオン〉は、放射能の汚染帯を避け、南半球、オーストラリアはメルボルンへ逃げ延びます。ここはまだかろうじて人々は生き残っていました。しかし、放射性物質は徐々に南下し、刻々と人類最後の日が近づいてきます。
そんな時、微弱なモールス信号と思われる途切れ途切れの信号が、アメリカから届きます。
アメリカにまだ生存者がいるのでしょうか? 救いに行くべきか? 行って間に合うのか? 議論の末、最後の望みを託された〈スコーピオン〉は再びアメリカへ向けて出航します……。そして……。

というお話。

お話が書かれたのはなんと1957年。東西冷戦のまっただ中。舞台も1964年の想定。それだけ核戦争が真に迫った危機だった時代です。
今となっては若干古い印象ですけど、登場人物たちの真剣さと感情の機微が細かく描かれていて、そのドラマは非常にリアルです。
人々の動揺やパニックは当然描かれていますが、戦争のドンパチといった派手なところはなく、あくまで静かなトーンで、自分たちの手で滅亡していく人類の最後の姿が美しく描かれています。

美しく、そう、最後のシーンがなんとも美しくて、泣けるのです。

今、現実の世界で大変な時にこんな滅びの美学みたいな本持って来やがって。といわれるかもしれません(すいません><)
もちろん現実に悲観はしてほしくないのですが、この作品が書かれたときと同様の空気を世界がまとっている気がする今、部屋に引きこもりつつ読むと、なんというか、そう、とっても浸れます。

この、なんでしょうね、諦観や悟りにも似た、美しくも冷たい感覚に、今なら静かに浸れる、そんな気がするのです。

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私が読んだのは、

↑この古い版(井上 勇 (訳版))ですが、最近は

佐藤 竜雄さんによる新訳版がでていて、だいぶ読みやすくなっているそうです(未読)こちらはKindleでも出ているので手に取りやすいかも?




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