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『翼よ、あれがパリの灯だ』レビュー

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『翼よ、あれがパリの灯だ』

チャールズ・リンドバーグ(著) 佐藤亮一(訳)

《現代世界ノンフィクション全集22》より

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タイトルの『翼よ、あれがパリの灯だ』という言葉と、ニューヨーク~パリ無着陸飛行についてはよく知られていますが、その言葉を発するに至った物語のほうはあまり知られていない気がします。(映画にもなったらしいけれど、私は知りませんでした><)

本書を読むと、当時の、今から考えたらまるでおもちゃのような飛行機で成し遂げられた快挙は、本当に文字通り命がけの「大冒険」だったことがわかります。

1927年当時、二万五千ドルという賞金が大西洋横断飛行にかけられ、それに名乗りを上げたグループがいくつもありました。彼らはみな、エンジンを三基備えた大型の長距離用機を用い、パイロットは(疲労で交代するために)複数人用意。というのが普通でした。しかし、それでも、リンドバーグの前に挑戦したいくつもの有力なグループはみな事故や遭難にあい、だれもこの冒険を成し遂げることができていなかったのです。

後発でかつダークホース的な立ち位置だったリンドバーグの準備段階(構想やスポンサー探しまで)から書かれたこの本には、他のグループに先を越されそうになり焦燥する様子までリアルに描かれています。

リンドバーグは最初から「エンジン一基、パイロットは自分ひとり」という計画を立てます。エンジンや乗員が多いとその分重量が増し、燃料もかさむし機械的な不良率が高まると予想していたのです。

結果としては彼のもくろみ通り、その挑戦は成功するのですが、すべての重量を燃料にあて、ほとんどの安全装備も削っているためパラシュートも持たず、(当時重くて信頼性の低かった)ラジオ通信機も持たず、一人で操縦しながらの天測は無理だろうと、(星の位置から現在地を測れる)六分儀すら持たないで、各種計器と海図だけで「いまここらへんだろう」という「推測航法」で飛んだというのだから驚きです。

日中でも白い闇となる分厚い雲。激しく吹き荒れる風。北極圏の嵐。夜間に至っては機体の位置どころか姿勢もわからず、ピトー管(対気速度がわかるセンサー)は凍りつき、磁気嵐に巻き込まれコンパスは狂う……。そんな「めくら飛行」(当時の本ですのでそう書かれている)状態で、おぼろに光る蛍光塗料の計器を見つめつつ、(あろうことか前日一睡もしていなかったそう)襲い来る疲労と眠さと戦った三十三時間三十分。

疲労で現在位置算出の計算もままならなくなり、やがてたくさんの「幽霊」を背中に背負い、一緒に飛んでいるという幻想が現実と区別がつなかなくなる夢うつつの状態にまで陥ります。何トンもの重さで下がってくるまぶたを意志の力でこじ開ける、小さな飛行機の中の、たった一人の男の中の、精神と肉体の極限の戦いが克明に描写されていてちょースリリング!
このあたりは冒険小説もかくやというぐらい、(本当の話ですしね!)リアルな体験がクールで熱いのです。

やがて、フランス、パリはル・ブールジェ飛行場にたどり着いた彼は歓喜によってむかえられ、まったく無名の郵便飛行家だったチャールズ・リンドバーグの名は世界に知れ渡ったのでした。

※ル・ブールジェに到着した彼の愛機、スピリット・オブ・セント・ルイス号は押し寄せる群衆にもみくちゃにされて、「記念品収集狂」たちに各部を持ち去られ、に穴だらけにされてしまったそう>< (ちゃんと修復されたそうですが)

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いまから一世紀ちかく前の大冒険。実際に飛んだチャールズ・リンドバーグ自身の筆による本書は、近代の飛行機産業の発展にも大いに寄与しただけでなく、そのまま冒険小説としても通用しそうなほどスリリングな、ノンフィクション文学の金字塔ともいえると思います。

たしかにこれは映画になりますね! 見てみたいです。

てなわけで、多分古本じゃないと手に入らないでしょうけれど、図書館などで読んで見るとよいとおもいます。傑作です☆

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オマケ

読みながら、「現代の最高の地球儀」Google Earth で、彼が飛んだ経路を追いかけながら(嵐の中などはよくわかりませんでしたが雰囲気でw)読んでました。

出発地点。

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ニューヨークちかく、ロングアイランドのルーズヴェルト飛行場(同名の飛行場はみつからず、多分ここかな?というロングアイランド島の飛行場)
出発時点の天候は夜通し降った雨が上がったばかり、土むき出しの滑走路は全面泥状態で、燃料過積載の機体のタイヤは半分ちかく泥に埋もれていて、皆で押してもらわないと動き出せなかったそうです。

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飛び立って3時間、彼方にノヴァ・スコーシアの海岸が見える

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カナダ、ニュー・ファンドランド島東端のセント・ジョーンズの町上空を超えて大西洋へ。(当時はこんなビルなかったでしょうねー)

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二十七時間飛び続け、海の向こうに陸地が見えてくる。蜃気楼かと思えたその陸地は、アイルランド西側海岸、ヴァレンシア島とディングル湾であった。

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イングランド、コーンウォールを横切る。「あんな小さな畑で百姓はどうやって暮らしていけるのだろう」

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イギリス海峡を渡り、ついにフランスが見えてくる。ここまでの飛行時間約30時間(そろそろ二日目の日暮れ)

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『翼よ、あれがパリの灯だ』 エッフェル塔上空を旋回し、ル・ブールジェ空港を目指す。

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到着時、ル・ブールジェ空港は真っ暗闇。航空標識などついておらず、カンで「ここらへんだろう」と降りたそうです。

ちなみに、現在の(も?)ル・ブールジェ空港はパリ国際航空宇宙ショーなどが開かれる航空宇宙のメッカ!

さすがはフランス、歴史を大切にしていますね。(記念品収集狂たちに剥がされたセントルイス号の外壁なんか展示されてるのかな?(ダメw))

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オマケのオマケ

この本についてのお話はまだまだ続きます。

番外編でこんなエピソード(トラブル!?)がありましたw

ノンフィクションでお送りしますw

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で、↑に書いてあるですが、

↑ここでリンク張っているのは別の本なのでした。ご注意のほど><

正しい本は

こちらになりますが、在庫今ないみたいですねー><

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#チャールズ・リンドバーグ #佐藤亮一 #らせんの本棚 #ノンフィクション #世界ノンフィクション全集

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