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『AI覇権 4つの戦場』レビュー

表紙

『AI覇権 4つの戦場』
ポール・シャーレ (著), 伏見 威蕃 (翻訳)

ロシアの大統領プーチンは、「(AI分野の)リーダーになるものは世界の支配者になるだろう」と語ったのだとか。
そんなAI分野の支配者を巡る覇権争いについて、軍事アナリストである筆者が各界のキーパーソンに広く取材し、憂うべき現状をまとめあげた本です。

本の冒頭、カラーページの写真でAI制御のジェット戦闘機と人間のパイロットによる模擬戦の様子が図示されていて、SFファンとしてはめっちゃ雪風感があって気分が上がるのですが、それと同時に、人間の達人の技能であっても、やはりというかとても機械にはかなわない。という、人間様にとっては厳しい現実が突きつけられます。

AIが人間の能力を超えてしまった分野は、もうチェスや将棋だけでないのはご存じの通り、自動運転やドローン、無人攻撃機などなど、AI兵器はもちろん、AIを使って作り出す偽情報やプロパガンダも今や国際紛争における武器の一部となっています。これらは、すでに、あたりまえに国際安全保障に多くの影響を与えているのです。

こうしたAI開発&運用する能力は、知力・開発力、さらに経済的な観点も含めて、先ほどのプーチンの言葉じゃないですが現代の地政学と捉えられるでしょう。

そんな、AI分野の地政学のパワーバランスの4象限、すなわち「データ」/「計算(コンピューティング)」/「人材」/「機構(組織力)」を、筆者は4つの戦場と言い表しました。

もちろん、これらそれぞれの戦場で覇権を競い合っているのは、人間対コンピュータではありません。人間対人間、国と国の、ある意味存亡をかけた覇権争いなのです。
つまり、人間がAIに勝つとか負けるとかいったもはやそーゆー問題ではなくて、人間同士の戦いで優位に立つためにAIの開発・活用力を高めなくてはいけないという話になってきているってことです。
AIが戦争の道具なんていうのはもう当然で、むしろAI開発それ自体が戦争と呼んでいい状態になっているとのこと。

かつて米・ソが月面着陸を目指した開発競争や軍拡競争に似ていますが、今回のAI(開発)戦争の対アメリカのプレイヤーは、もうソ連(ロシア)ではなく、ずばり、中国です。

グレート・ファイヤーウォール(金盾)のあちら側とこちら側で争われている戦いの趨勢を、それぞれの局面で可能なかぎりの取材をしながら解説しています。筆者は元米陸軍レインジャー部隊でイラクとアフガニスタンの戦闘に参加、その後軍事アナリストになったという人なので、特に軍事関係、安全保障面の(アメリカにとっての)不安要素をガンガン指摘してきて、うへえ、やばいじゃんこれー。という気分にさせてくれます。

AI関連情報をネットで追いかけている人には本書の情報は(原書の発行が去年なので)若干古く感じるかもしれません。でもいままで点でしかなかった表面的な情報の裏側、情報ソースや研究者たちの声などに触れて、発表されている点と点がつながると、見えていなかった金盾の向こう側の計画がじんわりと見えてきて、やっぱり「やばいじゃんこれー」となると思います。

というわけで、どう「やばい」のかは、ぜひ本書をご覧になってご自身の目でたしかめてみていただければと思います。

(余談)
しっかし、これだけぶ厚い本なのに、日本のことはほんっとに話題に出てきません。せいぜい中国がまだ若干不得手にしている最先端半導体生産技術のごく一部について、EUV用のフォトレジスト溶液製造を日本がほぼ独占しているっていう話題で登場する程度。(それを日本は対韓国の貿易摩擦時の材料に使った、とか)
如何に日本のAIパワーが貧弱か。そりゃ軍事関係には手を出せないのはしかたのないことですけれど、電子立国日本とか言ってた国があっという間に話題にすら出てこれないようになっちゃって、まあさみしいもんですねー><



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