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『国を救った数学少女』レビュー

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『国を救った数学少女』

ヨナス・ヨナソン著 中村久里子訳

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『窓から逃げた100歳老人』のヨナス・ヨナソンさんの第二弾、今度は老人じゃなくて黒人の女の子が主人公。タイトル通り、彼女は数学の天才。めちゃくちゃ頭の良い子なのです。
けれど、生まれた時代と場所が最悪でした。
時代は1970年代初頭、場所は南アフリカ、アパルトヘイト政策まっさかりのあの時代の、さらに悪名高いソウェト地区。
徹底的な人種差別を、南アフリカが国策としてやっていたあの時代の、最下層極貧地区のどまんなか。通称文盲地区、そこに住む全員が読み書きができるかどうかわからない、というかそんなことを気にしていられないような場所です。
物語に登場した少女が最初にやっていた仕事は、その地区のし尿処理施設。汲み取り屋のまとめ役でした。最悪の最悪の、それまたどん底で不衛生な匂いまでついてる状態のスタートです。(なんでこの著者さん最初そういう始まりするかなあ。100歳老人はおしっこ履きだったし><)

タイトルで「国を救った」とあるので、この子のこの数学の才能でどうにか国難を救うレベルの働きをするのだろうと読者は想像して、匂いに耐えつつ読み進めるのですが、なんというかもう山あり谷ありのエピソードがおもに谷の方向がツラすぎて読んでて大変なのでした。断崖絶壁のすれすれを歩いてようやく一息ついたら同行者(主にバカな白人)が足を引っ張ってもろともに落っこちるようなかんじ。どん底なのにもっと底があったのか! と、愚か者の底なしのバカさ加減にあきれ驚く展開の連続なのです><

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例えば、苦難の末になんとかかんとか冒頭のし尿にまみれた世界から抜け出してきた彼女を襲ったのは、突然飛び出してきた酔っ払い運転のクルマ。
その下敷きになった罪(?)で、事故を起こした白人技術者の元で7年間の強制労働を課せられます。(もうなんで? ってかんじですが、アパルトヘイト下では黒人にはまともな裁判が行われないのです)
その本来加害者なのに、黒人をひいちゃった被害者あつかいの技術者というのが足し算もろくにできないアル中のくせに南アフリカの原子爆弾開発施設のリーダーだったものだからまた大変。主人公はそのバカな技術者の元、掃除夫としてこき使われながら、アル中の頭ではできない計算をかわりにやらされるはめに……。

このアル中男もそうですが、彼女の周りに出てくるのはほんとうにろくでもない奴らか愚かな人ばかり……(ごく少数のまともな人も出てはきますw)
それでさんざんな目に合うのですけど、主人公の娘は彼らをちっとも憎むことがありません。(辛辣なコメントをしたりもしますがw)
たとえ自分を蔑んでくる連中でも、彼らの誤りを正しこそすれ、どんな奇人変人であっても否定せずに受け入れるものすごい懐の大きさがすごい。
なにしろ最初が最悪でしたからねえ、それ以下には落ちっこないという自信からかもしれませんが、たとえ相手が自分を狙っている殺し屋でも大統領でも物おじしない物言いはとっても痛快なのです。

前作同様、どんどん話はとんでもない方向に、使い道のない3メガトンの核爆弾といっしょにごろごろと転がっていき、いろいろとハチャメチャなことになっていくのですが、そこからはまあ読んでのお楽しみw

下り坂急こう配の連続のジェットコースターですが、最期にはちゃんとタイトルどおり、いいかんじに着地しますよ~。あー、よかったよかった。
ε-(´∀`*)ホッ


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