見出し画像

『ウォーシップ・ガール』レビュー

表紙

『ウォーシップ・ガール』
ガレス・L・パウエル(著/文) / 三角 和代(翻訳)

日本語でいえば戦艦少女。艦コレかしらん? なんて思って手に取った本。表紙の娘の表情がいいかんじ。どうやらこの子が主人公(?)。
殺戮兵器(宇宙戦闘用重巡洋艦)を己の身体として操作をしているAIがこのタイトルの戦艦少女さんのようです。

「トラブル・ドッグ」と名付けられた彼女は、人間の脳細胞を元に培養・育成された生体由来のAIで、群れで生きる犬の細胞も混ざってアレンジされているからか、命令には忠実でけっこう戦闘的(そりゃまあ戦闘艦だしね)。
でも、以前罪のない者たちの大量虐殺指令を実行したことで良心の呵責を感じてしまい、今では戦争からは足を洗って人命救助艦として第二の人生じゃなかった船生を歩んでいます。
性格や(イメージ上の)性別ももとになったオリジナルの人間に由来しているようで、船として生まれ(なおし)てからの船歴とおなじく14歳の少女の容姿のアバターを使って他者とコミュニケーションをします。
でもって、その一人称が「ぼく」。
こりゃあまたいろんな人の性癖にささりそうですw

そんな「ぼく」ことトラブル・ドッグがレスキュー活動中に救難信号を受け取ります。近隣の「ギャラリー」と呼ばれる、惑星すべてがオブジェのように加工された古代異星文明の遺跡付近で、客船が遭難したというのです。
急遽そこへ駆けつけるトラブル・ドッグは、遭難の真実と過去。そして救命活動と共に巨大な陰謀に巻き込まれていくのでした。

と、いう感じのストーリー。「ぼく」ことトラブル・ドッグ(元宇宙戦闘艦)もそうですが、登場人物たちが皆さんある種のトラウマを感じていたり、現在進行形で抱え込んだりしています。
「ぼく」が戦艦だったこともそうですけれど、トラウマの描写がけっこうヘビーで、読んでいて「うへぇ」となるシーンもいくつか。えっちいシーンはないけれど、お子様にはちょっと刺激が強いかも?

彼らが過去のトラウマを解消したりしなかったり、苦しみ悩みながらも前進していくすがたは、人生で深く落ち込んだことのある人はキャラクターの誰かしらに共感できると思います。なんだかここらへんの大人な苦悩描写がイマドキの英国SFというかんじですね。(本作は2018年度の英国SF協会賞受賞作とのこと。)

わんこの細胞はいっちゃってるのはどうなの? って気もしないことはないですけども、主人公の元殺戮兵器である「ぼく」の愛らしさと戦闘時のえげつなさ(ぉい)が見ものな、宇宙版艦コレ……。といっちゃっていいのかなー。往年のSFファンにはアン・マキャフリーの『歌う船』シリーズを彷彿とさせる良作なのでした。

訳者さんのあとがきによると

これは価値観を打ち砕かれた世界のその後を生きる者たちの葛藤を描く三部作の、冒頭を飾る作品である。

訳者あとがきより

とのこと。ぜひぜひ残りの二作も訳していただきたいので、売れてほしいわー。というわけで微力ながら宣伝。個人的におすすめです☆


#ガレス・L・パウエル #三角和代 #らせんの本棚 #英国SF #創元SF

よろしければサポートお願いします!いただいたサポートはクリエイターとしての活動費にさせていただきます!感謝!,,Ծ‸Ծ,,