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『人間の手がまだ触れない』レビュー

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『人間の手がまだ触れない』

ロバート・シェクリィ(著)/稲葉明雄・他(訳)

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古典SF(といってもいいかな?)の短編集です。
1950年代に一世を風靡したSFの原点!
特に日本の第一世代のSF作家の皆様に多大な影響を与えたというロバート・シェクリィの短編集第一弾です。
シェクリィの作風としては、一言で言えば不条理ユーモアSF。当時売り出し中だった筒井康隆氏のことを指して「和製シェクリィ」などと言われていたといえば、だいたい通じるでしょうか。
不条理であって、ユーモアもあり、何より時代を風刺しながらもおしゃれで簡潔、わかりやすい作風は、確かにSFのお手本のよう。多くの作家が影響を受けたということもうなづけます。

では、いつものように収録短編それぞれ一言レビューです。

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『怪物』宇野輝雄(訳)

牧歌的(なのかな?)な怪獣たちの棲む星に、なにやら金属でできた物体が飛来し、中から小さな怪物たちが現れる。あんなヘンテコな姿をしている者達が知的であるはずはないと住人は言うのだが……? 逆視点でのファーストコンタクトなお話。

『幸福の代償』小尾芙佐(訳)

あらゆる便利な商品がクレジットで購入できる時代。ローンの支払い満了まで生きてはいられないと分っていても、それでも新製品を買い続ける人々が手に入れる幸せに対する代償とは? (ってこれリアルに今じゃごくふつうのことなんですけど!?)

『祭壇』風見潤(訳)

道行くだれもが顔見知りの田舎町で、見知らぬ男から道を聞かれる。なにやら異教の祭壇がどこかにあるあらしい。そんなものあるはずないのに。まさかこの田舎町にカルト宗教が? と不信に思い、興味を持ってしまった男の顛末。

『体形』福島正美(訳)

体形がアメーバのように不定形な宇宙種族。彼らは姿かたちを固定することで社会的な階層を表し、階層ごとに厳格なヒエラルキーをつくっていた。そんな彼らが侵略しようとしているのはもちろん地球。はてさてどうなる?

『時間に挟まれた男』風見潤(訳)

時空間・宇宙製造業者のミスで発生した時間の隙間に挟まれてしまった男の顛末。宇宙製造業者と発注者の間のやり取りがおもしろい。

『人間の手がまだ触れない』稲葉明雄(訳)

食料不足で不時着した未知の惑星に残された、未知の倉庫的な何かの建物。その中に残された雑多な箱たち。はたしてこの意味不明の箱の中身を食べて良いものかどうか。毒か薬かわからないもろもろを前にした飢える男たちははたして?

『王様のご用命』峯岸久(訳)

家電販売店から夜な夜な商品が消えていく。業を煮やした店主夫婦が泥棒を待ち構えてみると、そこに現れたのは? 

『あたたかい』小笠原豊樹(訳)

男の心のうちに潜む第二の人格からの問いかけ。彼女にプロポーズする本当の理由は? 第二人格の言う「あたたかい」とは一体なに?

『悪魔たち』風見潤(訳)

魔法陣で呼び出された悪魔は、実は人間でした!? そして、呼び出したほうがどう見ても悪魔。この逆転の発想がおもしろい。

『専門家』小笠原豊樹(訳)

各パーツがそれぞれ専門の生物で構成されている恒星間宇宙船。事故で大事なパーツが失われて故郷に帰れない事態に。彷徨いこんだ未開の宙域はそう、地球近郊。さてどうする? というお話。

『七番目の犠牲』小尾芙佐(訳)

人間の闘争本能のはけ口に、殺人が一般に許可されている時代の社会描写がおもしろい。殺人者は、ハンター役と獲物役を交互につとめることを条件に、法的に「殺人の権利が認められる」。さて、ハンターとして6人の獲物を殺してきた男が7番めに割り当てられた獲物とは……?

『儀式』風見潤(訳)

金属の船に乗り、神々がやってくる。歓迎のために何晩にもわたって踊りの儀式を行う尻尾のある一族の行動は正しいのか? これも逆視点ファーストコンタクト。異種族間コミュニケーションの誤解がおもしろい。

『静かなる水のほとり』風見潤(訳)

小惑星にたった一人で住む年老いた炭鉱夫は、低機能なロボットに簡単な言葉を吹き込み、いつも同じ会話をしつつ生活をつづけていた。いつしか自分が吹き込んだ言葉であることをわすれ、唯一の友人となったロボットと共に、静かに老後を過ごしていくのでした……。

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以上13編。

いやあ、よいわあ。この、不条理感のなかに感じる温かみ。ギャグというよりもユーモアがほんと味わい深いのです。

科学技術的なSFというよりは社会的というか、みなが知っていることやモチーフの、視点を反転させたり極端に拡大したりしたときに巻き起こされる騒動を笑い飛ばすかんじ。冒頭で筒井康隆さんを引き合いに出しましたけれど、ワタシ的には吾妻ひでおさんのマンガを思い出しました。(そういえば吾妻先生も不条理SFマンガっていってたっけ)

書き手的には様々なSFネタの源泉、教科書のような短編集です。こういうの書いてみたいですねぇ。(ほんと、日本のSFに与えた影響は大きそう)

忘れたころに読み返すと初心にかえれるけれど、自分のグッドアイデアだと思っていたネタが実は(忘れていただけで)シェクリィのネタだったって分かってがっかりしちゃう危険な短編集であったりもしますw

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