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とある一日について思うこと【前編】

朝、地下鉄駅に向かう途中のコンビニに寄る。

混雑したレジは毎朝の見慣れた光景だが、今朝のそれはいつもとは何かが違う。

自分の番が来た。

レジカウンターにコーヒーとサンドウィッチを置く。

(あぁ、違和感の正体はこれか。)

レジ担当は留学生と思われる新人アルバイト。

胸の名札には「トレーニング中」とある。

本来アルファベットで書かれるであろう彼の名前は平仮名で書かれている。
「グアテマラのラム酒、ロン・サカパ・センテナリオ」を、「ぐあてまらのらむしゅ、ろん・さかぱ・せんてなりお」と書かれるくらい読みづらい。

これは一体、誰に向けた配慮なのだろうか。

彼は不慣れなオペレーションに戸惑いながら仕事をしているようだ。

この状況自体は特に気にならない。

むしろ母国語が通じない異国で職に就いた彼を尊敬するし、応援したい気持ちもある。

新人アルバイトの傍らにベッタリと張り付くように立つ店長が彼に指示を出す。

「あー、違う違う、そのボタンじゃなくて右側の方!」

「違う違う!袋は左側の白い方!右側の茶色のは弁当用ってさっきも言ったよね?!」

僕は煙草も買いたいので、彼に番号を伝える。

案の定アルバイトの彼は上手く聞き取れずにいる。

何とか番号を把握した彼は、無数の煙草が並ぶ棚へ。

また、店長が激を飛ばす。

「違う違う!それは〇〇番だから!そっちの手前にある銀色と緑のやつ!」

品物がカウンター上に揃った。

全てのスキャンが終わり、僕はスマートフォンを差し出しつつバーコード決済を申し出る。

今度は店長が僕に話しかける。

「えーっと、バーコード?あー、はいはい、〇〇ペイね。」

店長がアルバイトに話しかける。

「違う違う、そっちのボタン押してからスキャン。そうそう、それで準備OK。」

店長が僕に話しかける。

「はい、じゃあ画面こっちね。」

…。

……。

なんで僕に対してもタメ口!?

こっちは「はじめてのおつかい」でトレーニング中の客じゃねぇんだけど!

ごっちゃになってんじゃねぇ!

さっきから「違う違う」が口癖のようだが、違うのはアンタだ、店長。
さっきから口で指示してるだけじゃないか。

そもそも、なぜ通勤ラッシュ時に、日本語に明るくない不慣れな彼に「トレーニング」を行なうのか。

名札の平仮名のあたりで薄々勘づいてはいたが、アホなのか。

まだ日本語がままならない彼に対しての指導はアイドルタイムにやって頂きたい。

「やらせる」のは空いている時間にして、アンタが動いてくれ。
煙草もアンタが取ればいい。
そしてその背中を彼に見せるんだ。

自分が動かないなら、代わりにトーテムポールでも立てておくといい。
カウンター内に溢れる異国情緒に、待たされている客の気持ちも少しは和むことだろう。


列を成している通勤中の客は練習台じゃない。


時代は令和だ。
「お客様は神様」という考えなど店側が思うのは勝手だが、間違っても客側が言うことではない。
店と客は対等であるべきだろう。

それでも。

それでも、最低限の敬語は必要じゃないか?

こっちは「〇〇番ください」って言ってるぞ?

「〇〇ペイでお願いします」って言ってるぞ?



…というような文句を一通り言ってやりたいところではあったが、さすがに変な空気になる。

そこまでの根性は持ち合わせていないので、「後ろ、だいぶ待ってるんで、教えるのあとの方がいいんじゃないすか?」とだけ告げて、足早に店外に出た。

つくづく自分は小心者だと思う。

何とか間に合った地下鉄に、リュックを胸に抱えて滑り込んだ。


後編に続く↓


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