需要と供給の不一致について思うこと
秋頃から、なかなかに忙しく過ごしている。
出張を伴なう仕事が多いため、頻繁にホテル泊を繰り返している。
何の自慢にもならないが、「出張のプロ」と自称して差し支えない程度には出張している方だろう。
いま思えば、「出張慣れ」していなかった頃の方が、周囲の探索や居酒屋通いの楽しさやワクワクも多かったような気もする。
ここまで来ると「如何に効率的に過ごすか」に主眼を置くようになる。
米澤穂信氏の作品の登場人物が言い放っていた「やらなくてもいいことならやらない。やらなければいけないことは手短に」という台詞に、最近やたらと共感を覚える。
行き先が決まっている限り同一のビジネスホテルを利用しているのだが、最近懇意にしているホテルは多少なりとも、この省エネ思考を満足させてくれる。
例えばこんな感じで。
良いか悪いかは置いておいて、このくらい居心地の良い拠点を見つけられるとありがたいのだが、行き先が異なったり、初見のホテルしか確保できなかった場合、そうも行かないケースは当然のように出てくる。
経験泊数に比例して「意味の分からない事象」に遭遇する確率も上がるのだ。
岩手県内の某ホテルの事例。
初滞在ではあるが何の問題も無くチェックインを済ませ、部屋に向かう。
扉の前に到着、鍵を開けようとして脳がバグる。
さも「カードキーを入れてください」といった顔をした開口部だが、僕の手にはシリンダー錠用の鍵。
どう考えても需要と供給が一致していない。
ICチップ入りの可能性も鑑みて鍵でそこら中に触れてみるが、反応など返ってくるはずもない。
「…まさか…!別のホテルに飛ばされた…?」
などと、いよいよ異世界への転生を疑ってはみるものの、特に発展性のあるストーリーも思いつかない。
そして何より、僕は転生モノの主人公の器ではない。
役者が不足している。
リアルに数分悩んだ結果、フロントへ戻る。
「(鍵を見せながら)差し込みの形状が合わないようなんですが…」
意外な答えが返ってくる。
「取手の下に鍵穴があると思いますけど…?」
首を傾げながら部屋の前に戻り、覗き込んでみる。
そうですか。
これは別のホテル。
福島県だったか。
異世界転生未遂経験者の為、このパターンに動揺することはもうない。
手元にシリンダー錠があるということは、上の細長い開口部はダミーだ。
二度とその手には乗らん。
鍵穴を隠すなら取手の下と相場が決まっているのだ。
その点においても、前述のホテルの方が一枚上手と言ったところだろう。
何の苦労もなく入室。
しかし、暗い。
電気がつかない。
(まさか!)
やはりあった。
ご存知の方も多いだろうが、壁に細長い開口があり、そこにカードキーを挿入することで部屋の電気が使えるようになるスイッチ。
手元にあるのがカードキーの場合、当然それを挿すのだが…この場合は何を?
カードキーなど、無い。
金属の鍵など突っ込もうものなら、きっと破壊してしまう。
辺りを見回すと、玄関に相当する部分にそれっぽいカードが設置してある。
ご丁寧に、「こちらを挿入すると電気がつきます」とのメモ書き付きで。
なるほど、カード状の物を差し込めば物理的にスイッチが入るので、カード「キー」である必要はない。
例えば、「ホームセンターの現金専用ポイントカード」さえあれば、スイッチは入るのだ。
「備え付けのホームセンターの現金専用ポイントカード」さえあれば。
…?
ちょっと意味が分からない。
好奇心で裏返してみる。
井上。
※僕のカードではない。
※したがって、僕の本名も「井上」ではない。
※名字だけでは特定は不可能と判断、必要最低限の黒塗りを入れプライバシーには配慮して書いております。
※男性の名前でした。
どこのどなたか知らないが、電気のスイッチに使われているぞ、井上さん。
心当たりのある井上さんはご連絡を。
ホテル名をこっそりお教えするのでクレームでも何でも入れるといい。
もっとも、この井上さんが当該ホテルの従業員で「あ、これで良くね?」などとほざきながら自身の財布から出した可能性も否定はしきれないのだが。
いずれにせよ気味が悪い。
二度と泊まらん。
こういった、ネタとしては弱めの事象が日々発生するので困ったものだ。
鍵ネタが2個揃ったので無理やり記事にしてはみたが、やはりいささか弱い。
明後日は馴染みのホテル泊。
安心感に満ち溢れている。
今年もあと2週間ほど。
平穏に新年を迎えられますように。
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