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架空請求詐欺と義父からの電話について思うこと

架空請求詐欺。

色々と種類はあれど、例えば特定のサイトを閲覧しているうちに会員登録が完了したなどという文言が表示され、気付けば身に覚えのない請求を突き付けられる、というような感じだろうか。

こんなくだらない手法に引っかかる人、現実にいるわけないだろうと思っていたのだが、実際にいたのである。
まさかの身内に。

今日は、涙無しには語れないエピソードである。

ちなみにここで出て来る涙とは、同情の余地がある、とか、悲しいお話を聞いた時に分泌される液体ではないことを付け加えておく。
ただただ情けない、という気持ちを象徴したものである。


話は昨日の14時頃にさかのぼる。

会社支給の携帯に見知らぬ番号からの着信。
特に珍しいことではない。
社内の誰かから聞いた人物か、名刺交換したものの番号未登録の相手か。

受話ボタンにタッチし会社名と名前を名乗ると、向こうも名乗る。

が、違和感が。

特に会社名を言うでもなく、個人名のみを名乗る男性の声。
その名前、仕事関係で知り合った中には覚えが無い。

しかし、その苗字と声、別の角度で覚えがあるのだ。
そう、妻の旧姓。

よくよく確認すると、義理の父親である。
仕事中だと個人所有の携帯を見ない可能性を鑑みて、随分と前に渡した僕の名刺に書かれた番号に掛けてきたということだった。

ここまでは特に問題は無い。
話はここからである。

義父の話を要約するとこうである。
・スマホでインターネットをしていたら、会員登録完了と表示された

・あなたの端末は〇〇というメーカーの〇〇という機種である、という文言の表示

・さらにはシャッター音と共に、「あなたの顔写真を撮影した」という文言の表示

・解約する場合は記載された番号に電話をしてください、という指示が表示された

という内容だ。

はい、詐欺確定。

これ以上ないくらいに綺麗に騙されている。
見事である。
こんなにシンプルに引っ掛かるなど、騙す側もさぞかし気持ちが良いことだろう。

この電話、シンプルに言えば、どうしたら良いかを相談する為のもの、というわけだ。

まずは上記の一連の経過を辿り、何か行動を起こしたのかを尋ねてみる。

嫌な予感は的中。

冷静に考えれば分かるのだが、箇条書きにした内容を彼が視認したとして、その時点で詐欺サイト側が得られている情報はほとんどゼロである。
機種情報などブラウザを通じて相手方が把握する事は容易であるし、それ故に何の価値も無い情報である。

しかしこの時点でスマホに詳しくない彼は「情報を握られた!」と焦る。
追い討ちをかけるように鳴るシャッター音。
「撮影された!」とこれまた焦るのだが、単なる効果音の再生である。
カメラなど起動しておらず、ブラウザにカメラへのアクセス許可をしていなければ、遠隔操作で動く可能性は低い。

まんまとハメられた彼は解約を依頼するべく、言われた通りに電話を掛け、相手方と会話をしたというのだ。

この行動を取ることで、彼はいくつかの最新情報を相手方にプレゼントしてしまうことになる。

・電話を掛けてきた時点で引っ掛け成功、という事実
・電話番号
・性別
・声色から判断できるおおよその年齢(子ども/若者/中年/年配者 等)
・口調から判断できる、焦り具合と騙され具合

少しのやりとりをした後、最終的に渾身の捨てゼリフ「消費者センターに電話する!」をお見舞いしたものの、「じゃあお支払いの意思がないということで裁判ですね」を食らい、怖くなった彼は苦肉の策で電話を切って、僕に連絡をしてきたという。

電話を切ったのであれば、最悪の状態は免れたというところだろうか。
この手の詐欺、最良の策は御存知、「無視を決め込む」である。

自ら引っ掛かりに行っている以上、少しでも行動を起こすことが情報を与えることに繋がり、漬け込む隙を作ることに他ならない。

これ以上何もしないように、と強く伝え、義父との電話を切った。


この1件であれば、愚痴交じりにnoteにこんな駄文を書き殴ることもなかっただろう。
ほとばしる僕の執筆意欲が掻き立てられたのには理由がある。

実は半年ほど前にも、義父は詐欺サイトに引っ掛かっているのである。
同じような経過でサイトの指示に従い、「スマホから検出された」というウイルスを除去するべく2万円を支払い「高機能なウイルス除去アプリ」なるものをインストールしていたのだ。

その話を僕が聞いた時には既にやりとりが完了しており、手も足も出ない状態だった。
同席していた彼の娘(僕から見た妻)と彼の妻(僕から見た義母)からも こっぴどく叱られていた。
義理の息子という関係性上、僕からは厳しい言葉を掛けはしなかったが、本来とるべき対処方法を丁寧に説明した。
また、今後危険を感じた場合は僕に相談することも付け加えた。


で、半年後にこれである。

すぐさま僕に相談をした点だけは合格である。
しかし舌の根も乾かぬうちに不審なサイトを閲覧したことは不合格である。

もちろん悪いのは100%詐欺サイトだ。
騙されるやつも悪い、アホの考えそうな手法に引っ掛かるやつもアホだ、などとは言わない。
ほんの少し思ったとしても、…言わない。

…言わないが、やはり自衛はすべきである。
外出するときに玄関にカギを掛けるという防犯対策が当たり前なように、ネットを利用する時の自衛意識も当たり前に持っていたいものだ。

「スマホでインターネットをしていたら」引っ掛かったと言っていたが、十中八九アダルトサイトで間違いないだろう。
あまり触れて気持ちの良いものではないので糾弾することはしなかったが、恐らくそうだろう。
美味しいカレーライスの作り方を調べていたらいつの間にか架空請求詐欺に引っ掛かっていた、など考えにくいことこの上ない。

見るなとは言わない。
…そうは言わないが、見ることでこんなアホの考えそうな手法に引っ掛かり、対処も出来ず義理の息子に泣きつくようなことになるならば、やはり「見るな」である。
義父から「アダルトサイト見てたら詐欺に引っ掛かったから助けてくれ」という内容を聞かされる僕の気持ちを考えて頂きたい。
いうなれば、今回の一番の被害者は僕である。
本来優しく理解ある義父であり、うちの娘にとっても最良の祖父の一人である。
自ら捨て身で好感度を下げないで頂きたい。

そしてこんなエピソード、妻に話せる訳もない。


内容が内容だけに、今回の件は最悪の事態を未然に防げたので妻には伏せることにしたが、何かしらの啓蒙になればとの思いでここに書かせて頂いた。

しょうもない詐欺サイトがこの世から消滅するのが一番だが、おそらくそんな時代は来ないのだろう。
来ないからこそ、自分の身は自分で守らなければならない。

こんな話をすると一定数出てくるのが、「でも悪いのはあっちで…!」「そうそう、貴方は被害者だから悪くない!」「被害者の気持ちに寄り添え!」といった意見である。
とはいえ、こんな風に外野が騒ぎ傷を舐め合ったところで、当人が騙し取られた財産は戻ってこないのだ。
そして「被害者の心に寄り添って」熱いツイートしていた彼ら外野も、翌日には暇つぶしに芸能人のゴシップやらをリツイートしているのである。

例えその悪人が逮捕されたところで、お金が戻ってくる保証などないし、一度生まれた喪失感が消えることはない。
そういう意味では、ただただ騙された人の一方的な負けであり、損なのである。

自動車教習所で教わる「だろう運転」や「かもしれない運転」のように、ネットもスマホも「たぶん安全だろう」ではなく、「もしかしたら詐欺かもしれない」くらいが丁度良いはずだ。

君子危うきに近寄らず。
昔の人は上手いこと言うものである。
このフレーズが書かれた木札でも、ストラップ付きで義父に渡そうか迷う今日この頃だ。


本稿に関連し、スピンオフ後日談を書いたのでお時間があれば是非。


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