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書評を書いたよ:不明熱・不明炎症レジデントマニュアル

Covid-19の波が世界を押し流していく。まさしく「パンデミック」の風景であるが、このパンデミックは各社会が内包する脆弱性を片端から明らかにしつつある。
本邦の診療現場においても、少なからぬ数の「システムエラー」が明らかになったが、その一つに「日常診療において『発熱患者』に対してどのようにワークアップすれば良いのか、きちんと理解して診療している医師は決して多くない」という不都合な事実がある。卒前の医学教育において、疾患ごと・臓器ごとの縦割りの教育(そのメリットが幾分かは存在することは、旧世代の医学教育を受けたものとしては、一応留保しておきたいところではあるが)を受け、卒後の臨床現場では多くはon-the-job trainingの形で、教える側の医師の専門性に大きく偏った教育が施される現状であれば、今後もしばらくは慣性的に現状が維持されるのではないかと悲観せざるを得ない。

そのような状況で出版された「不明熱・不明炎症レジデントマニュアル」は、「遷延する発熱=不明熱」ならびに「不明炎症」という、非常にありふれていながらぞんざいな扱いを受けてきた症候に対して、多くの分野の専門家が寄稿する形でまとめられた一冊であり、まさにwith Covid-19の一著としてふさわしい内容である。編集者の國松先生は既に類似テーマで「外来で診る不明熱」「『これって自己炎症性疾患?』と思ったら」などのスマッシュヒットを飛ばしておられるが、今回のレジデントマニュアルは過去の単著よりもやや基本的なレベルに読者対象を絞っており、「レジデント」が踏まえておくべき内容として適切と思われる。一方で、「コアな國松ファン」にとっては、やや食い足りない感じも否めないが、そういう読者に向けては國松節全開の「10章:とにかく全然わからないとき」「付章:こっそり読みたい『不明熱マニュアル:外伝』」が準備されている。但し、付章については「コアな國松ファン」は立ち入り禁止の札が立っているので、そういう意味でも「こっそり読みたい」。

章立てとして「検査(4章)」「疾患(5章・7章・9章)」「症候(6章・8章)」と分けられているのも素晴らしい。疾患・症候がわざわざ2群にわけられている事からは、最初から稀な事象を考えるべきではなく、同時に稀な事象を見落としてはならないという編者のニッチな切り口がうかがえる。言い換えると、5章から9章に至るまでの流れには「病名がなくてもできること」があるだろうという編者の思想をバックグラウンドとして見てとることができる。

「コアな國松ファン」であると同時に「不明熱・不明炎症屋」の端くれとして、自分ならどう書くだろう、と考えたとき、「状況による分類」をもう少し前面に打ち出すのではないか、と思った。つまり、本書では「渡航関連感染症」のみ「状況」が明記されているが、それ以外にも「高齢者・超高齢者」や「透析患者」「担がん患者」という切り口があっても良い。第2版以降に期待したい。

総括すると、本書はレジデントマニュアルシリーズの他の本と同様、一回軽く通読して「脳内にOSをインストール」し、折に触れて(不明熱・不明炎症の患者を診療するたびに)該当部分を読んで使い倒していくべき本である。お手元に置かれることを強くおすすめしたい。

(COI開示:医学書院より献本いただきました)

おまけ:細かい疑問点(pp. 62-63)ANCAはELISAの感度上昇に伴い、必ずしもIIF測定を必要(前提)としないのが現在の流れだと思われる。以下参照。 ” Revised 2017 international consensus on testing of ANCAs in granulomatosis with polyangiitis and microscopic polyangiitis”               Nature Reviews Rheumatology volume 13, pages683–692(2017)

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