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2021.01.08 検査について

自分自身の立場を整理するために書きました。数理(理論)疫学者でも生物系基礎研究者でもない一介の内科臨床医なので、「こうやるべきだ!」という積極的な主張があるわけではなく、とにかく「効けばいい=Covid-19伝播抑制が達成されればよい」のですが、そこは様々な社会的制約を前提として発想する内科臨床医なので言い分が無いわけではありません。

Overarching Principles

1. 最終目標はCovid-19の伝播抑制であり、リソースを踏まえた適切な検査であれば、それがどのようなものであれOK. 個人的には検査抑制派でも野放図な検査拡大派〔aka「いつでも誰でも何度でも」派〕でもない。
2. 人間行動は予測不能であり、「もし◯◯であれば介入Aは有効」という言明の評価は〔仮定の達成度合いの見積りについて〕非常にシビア。
3. 露骨な利益誘導〔ポジショントーク〕や、有効ではない政権批判・官僚組織批判に対しては、検査についてのスタンスとは関係なく批判的

補足:1についてどの程度抑制するのか、いわゆる「殲滅」をはかるのか「コロナと共存」していくのか、論者ごとの立場があると思う。2について、例えば「もし民間検査での陽性者が自己隔離すれば、民間検査による無症候性感染者の検出は有効(Rを減らす)」とするのであれば、それを示した実地の研究結果を提示するか、その介入がもたらす負の側面〔上記例においては「検査を受けたにも関わらず検出されなかった(偽陰性)無症候性感染者による伝播促進の可能性」〕について慎重に検討されている必要があり、そこに言及していなければ無意味とする立場です。

関連Tweets:

牧野先生のおっしゃる「エビデンス」が、医療業界のそれとは異なる可能性があるかと思いコメントさせて頂きます。医療業界では、特定の介入に対する個々の人体の反応やヒトの集団の反応は未だに「ブラックボックス」であるため、特定の介入〔民間検査の拡充、飲食店の時間制限など〕の効果は畢竟RCTなど、バックグラウンドを揃えた2群を比較して特定の介入の効果をみることが理想とされています。
Covid-19について理想的なRCTが行われることは稀なので、よりバイアスがかった手法での評価となります。ですので、医療業界では「もし〜であれば、介入◯◯は有効である」というのはあまり意味ある言明とは看做されないのが通例です。
個人的に、PCR検査なり、より感度が落ちる抗原検査なりの繰り返しと、適切な〔自己〕隔離で現在の感染症がコントロールできるなら言うことはない(言葉遣いが荒いですがnoteに書いたスタンス)ですが、社会的に実装するのは困難で、いわゆるアベノマスクが国民に行き渡るまでのタイムラグ・本当に感染を伝播させている層が自己検査/隔離に応じてもらえるのか、などを考えると、臨床医としての僕は悲観的です。
https://twitter.com/noboru_hagino/status/1347285202012311552?s=21https://twitter.com/noboru_hagino/status/1347286131004514305?s=21https://twitter.com/noboru_hagino/status/1347287330139213824?s=21https://twitter.com/noboru_hagino/status/1347287684251742209?s=21

Also…

関連note

2021.01.13 補足

こちらの連ツイまとめは上掲 稲葉先生の記事の補遺となっていて、非常にクリアに理解できる部分と、依然としてよくわからない部分がある。
一番わからないのは、現在の本邦における検査能をシンプルな期待で外延し過ぎという問題があって、一時期Bill Gatesが指摘していたように、検査件数が増えすぎて結果を得られるのに48時間〔or 一定日数〕以上かかると、普遍的大量検査の意味はなくなる。
英国は力任せに大量検査して抑制出来ていないと思うのだけど………

数理モデルを考案するときに、実装可能性を考える必要なんかないと思う。また、SEIRモデルが古色蒼然としたものに見えるのも理解できる。しかし、予測不能の人間集団については、経験知の集積としての疫学が〔例えどんなに古色蒼然としていても〕有用なときもあるし、それを超えてオリジナルのモデル提唱なり対策の提言をされるのであれば、実装可能性についても思いを巡らせていただくと同時に、そのモデルの実装には多数の生命が懸かっていることもご想像いただければと思う。

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