2020年9月8日
悪疫がほとんど発生していない田舎では,「落ち着いてきた感」がある.それは決して望ましい落ち着きではない.諦めと排他主義が行き着くところまで行き着いた結果だ.
「面会は県内在住の家族の中からあらかじめ登録した3名まで.病室へは同時に2名までが入室でき,滞在は15分まで.その3名も,2週間以内に県外へ出かけておらず,県外からの来訪者と過ごしていないことが条件」
「県外からの家族の面会は禁止.面会を希望する場合には,当地に来てから,他の家族に接触せずに14日間経過したら,面会が許可される」
というルールが確立されている.近隣の医療介護の場でも似たようなものらしい.
そして,職員も県外への移動は禁止.やむを得ない理由で出た場合は,14日間の出勤停止の措置が取られる.
私も今週末に都内のかかりつけ医を受診するため,例外なく出勤停止(有給休暇)となる.もっとも,9月の3週目+連休は夏休みを取る予定だったので,想定内ではあるが.
例えば,県外にいる息子や娘が,入院中の親に面会する場合など,当地に来たら他の家族に接触せずに14日間の「禊生活」をし,15日目に晴れて潔白が証明され,面会が可能になる.面会して県外に戻ったら,再び面会するためには再び当地で14日間の禊をする必要がある.
仕事を持つ社会人がこんな無理ゲーに対応できるはずもない.病院に親を人質に取られているからこそ、何も言えずに面会を我慢せざるを得ない.
入院してから4人に1人が1週間以内に亡くなり,3週間で約半数が亡くなる場では,この「14日間」の重さは想像に難くない.
半年以上,毎日毎日家族を引き離す役割を淡々とこなし,家族の生き別れの場面に立ち会ってきた.家族の怒り,恨み,無念さを心で感じる.
既視感がある.様々な映画で描かれたあの場面.
「働けば自由になれる」と掲げられた建物に列車で運ばれた一家が,列車から出た瞬間に,「彼ら」によって機械的に振り分けられ,そのままこの世で会うことはないという,あの場面だ.何度観ても胸が張り裂ける思いだ.
私のしていることは,「彼ら」とそう違わないのではないか,人として大きな間違いを犯しているのではないか,と思うようになった.そして,「凡庸な悪」である私がどのような運命を辿るかは既に歴史が教えてくれている.
「緩和ケア医」などというアイデンティティはどこかで失くしてきてしまった.もはや名乗る資格などあろうはずもない.
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