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熊本日記(6)

(前回のあらすじ)西牟田駅の写真を撮り損ねました。

ようやく熊本に着きました。三時間くらい電車に乗っており、さすがに疲れました。改札口にでかいくまモンの頭が設置してあって、JR九州の思惑に乗っかり、まんまと写真を撮りました。

公演会場は通町筋という所にあるようなのですが、熊本駅から通町筋まで、歩くにはちょっと距離があります。ここで、やはり事前にプリントアウトしたグーグルの地図を取り出しました。
僕は何かと、インターネットで調べたものを事前にプリントアウトして持ち歩く癖があります。それは、場面場面でスマホで調べて最適解を導き出すのが下手なのと、パケット通信できる量の少ないプランに加入しているからすぐ低速モードになるのと、そもそもスマホの操作自体が危ういのが理由です。慣れない操作をしようとすると、画面の前で人差し指をうろつかせ、フリーズします。
地図には通町筋までの最短ルートと、公共の交通機関のマークが記されていました。

スクリーンショット 2022-05-04 9.40.26

このマークを、僕はバスだと思っていたのですが、熊本駅前からは路面電車も走っています。見ようによっては路面電車のマークに見えなくもありません。
「どっちだろう」
僕はフリーズしました。スマホだろうが紙媒体だろうが同じでした。
ただ、雨の降る中フリーズしていると、スマホは水滴がつくだけですが、紙媒体はぐしゃぐしゃになります。とりあえず、当初乗る予定だったバスのターミナルに移動することにしました。
ターミナルは広く、乗り場がぱっと見10くらいあり、それぞれの乗り場にデジタルの時刻表が表示されています。僕は乗り場を行ったり来たりしながら時刻表を凝視しました。見慣れない文字が羅列されており、よくわかりません。と、数メートル先に停まっていたバスに「通町筋」と書かれているのが見え、これだ! と思った瞬間に扉が閉まってバスが発車しました。その乗り場の時刻表を見ると、次に便が来るのは一時間後のようでした(後に、公演制作の古殿さんにバスの話をした所、「そんなはずはない。もっと便はある」とのことでした)。

僕はバスでの移動をあきらめ、路面電車の乗り場へ移動しました。乗り場にはすでに黄色い車体の電車が停まっていて、発車時刻まで乗客を待っているようでした。
乗り場の前に、通るルートを示した掲示板がありました。路面電車にも、AルートとBルートを通るものがあるようです。が、停まっている電車が何ルートのそれなのか、僕にはよくわからなかったので、もう運転手さんに聞くことにしました。
路面電車の乗車口には、ICカードをかざす黒い読み取り面があるだけで、バスのように整理券を取る所がありません。僕はICカードの類はあまり利用しないので、基本現金払いです。「このまま乗っていいのかな」と、挙動不審気味に乗り込む僕を他の乗客が訝しげに見る中、先頭で待機している運転手さんに話しかけました。

「すいません」
「はい」
「あの、県外から来まして、初めて乗る、あの、利用するもので、乗るためのシステムがよくわからないのですが、あと、ICカードの類は持ってなくて……」
「現金ですと、一律で170円です」
「あ、そうなんですね。あの、あと、バスみたいに、整理券のようなものは……」
「一律料金なので、整理券もありません」
「あ、ですよね。ですね。そっか、ははっ(笑)。あ、あと、これが一番大事な所なんですが、僕はこの『通町筋』って所に行きたくて、まずもって読めないんですが、『とおりまちすじ』でいいのかな。『通町筋』は通りますか?」
「読み方は『とおりちょうすじ』で、通町筋は通ります」
「あ、『とおりちょうすじ』ですか。『ちょう』だけ音読みで。はー『とおりちょうすじ』か。通るんですね、通町筋。そうなんですね。なるほど、『とおりちょうすじ』ね。ありがとうございます。じゃあ、通町筋まで。僕、通町筋まで、通ります」
「はい。出発までしばらくお待ちください」

と、挙動不審な僕に、運転手さんはやさしく対応してくれたのでした。
運転手さん、ありがとうございました。
雨の熊本駅前を、路面電車の窓ガラス越しに眺めました。
傘はまだ買っていません。
(続く)

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