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熊本日記(11)

(前回のあらすじ)開場しました。

開演まで、当日パンフレットを眺めて過ごしました。
休憩を二回はさむ三部構成のようです。
僕の名前もありました(やったね!)。
観るだけなのに、なぜか僕まで緊張しています。キムラさんからいただいたオレンジジュースの減りが早いです。
周囲を見渡す余裕もなく、ただただ舞台を見つめ、時間が経つのを待ちました。満席近いお客さんが訪れているのは雰囲気でわかります。
不思議少年 presents. 森岡光単独公演『clown a crown』いよいよ開演です!

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作品は観に来てくれたお客さんのものですし、5月下旬に三股での公演もありますので、詳細は書きませんが、多彩でエネルギッシュな、森岡光という女優の魅力がふんだんに詰まった110分間でした。どの作家の作品にも、「お前、これ、演れんの?」といった果たし状のような趣があり、それを受けて立つ森岡さんは自分なりの表現へと昇華していました。あと単純に110分間を演じきる体力と集中力に驚かされます。この日なんかマチソワの二回まわしです。バケモノじみています。「アメリカンユートピア」のデイヴィッド・バーンと似たものを感じました。
僕の書いた「説明する女」という作品に関しても、覚えにくいセリフを高い精度で暗記し、間と呼吸を身体に落とし込み、自分のものにしてくれていました。今回、僕は戯曲を提供しただけで稽古の過程にはほとんど関わっていないため、解釈に関しては丸投げです。もちろん、僕の意図と森岡さんの意図で誤差はあります。しかし意図を完全再現してもらいたいのであれば、僕自身が熊本に滞在して稽古に参加せねばならないし、完全再現なら自分の団体で行えば良いと思っています。提供する良さは、「そう来たか」という解釈の振れ幅を見せてもらえる点にあり、新鮮な気持ちで自作を観ることができたのでした。お客さんもあたたかく、笑いを意図したくだりでは声に出して反応してくれ、心の中で「よっしゃ」とガッツポーズを取っていました。
僕は通常、2時間も観劇すると頭がくたくたになるのですが、休憩をいいタイミングではさんでくれていたので、濃い内容の作品群を、すっきりとした頭で見続けることができました。
池田さんの作品に登場するオニムラさんの存在も、良いアクセントになっていたと思います。
迷子になりつつ、熊本まで観に来た甲斐がありました。

終演後、席でアンケートを書いていると、「おつかれさまです」と声をかけられました。言魂の山口くんでした。同じ回を、僕の真後ろの席で観ていました。熊本で北九州の知り合いに会うのは、なんだか変な感じです。そして「勉強させてもらいました」と言い、颯爽と去って行きました。山口くんもたしか一人芝居のフェスに参加する予定があり、執筆にあたっての取材も兼ねて観に来たのでしょう。盗めるもんなら盗んでみろ、と直接言うのは恥ずかしかったので、心の中で言いました。

再び楽屋に案内してもらいました。森岡さんの肩からほかほか湯気が出ているように見えました。そして自作を魅力的に表現してくれたことにお礼を言いました。
オニムラさんが「藤原さんの本は、会社のプレゼン資料か何かのように文字がびっしりですね」と、プリントアウトした台本を見ながら言いました。とりわけ僕の本だけセリフが多い印象はなかったので、「行間とかの関係で、そう見えるだけではないでしょうか」と反論しましたが、その場にいた全員が首を横に振りました。
それからしばらく談笑し、本番に至るまでのあれこれを楽しく聞きました。演劇を続けててよかったな、と思える瞬間でした。
森岡さん、俳優活動12周年、おめでとうございます!
お祝いの一助となれたことをうれしく思います!
(続く)

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