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【読書】カーゴ・カルトを知っているか!(「千年王国と未開社会」読書メモ)

概要

カーゴ・カルトという現象を知っていますか。
主に太平洋のメラネシアという島々で見られる信仰です。
信者は「いつか祖先の霊が、文明の利器を搭載した船や飛行機と共にやってくる」と信じ、自分達で滑走路モドキや飛行機モドキを製作して自作した銃モドキで軍事訓練を行なっています。
飛行機の仕組みを理解せず、形だけ真似する姿は文明人から見れば滑稽に思えたことでしょう。

さらに彼らは理想の世界(千年王国)がまもなく到来すると考え、自分達の食料や家畜などを全て放棄してしまいました。

何故このようなことが起こったのか。
この現象はメラネシアだけのものなのか。
これはその答えを探る本です。

感想

「十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない」
これは2001年宇宙の旅などで有名なアーサー・C・クラークの言葉です。
それまで狩猟採集生活を送っていたメラネシアの人々にとって、欧米人の持つ技術は魔法のように見えたことでしょう。

理解を超える現象に対して無理やり理屈をつけて説明するということは、全人類に共通の性質です。古来から日照りや大雨は神の怒りとされ、それを鎮めるために何らかの儀式が行われてきました。
我々はこれを「非文明人の戯言だ」と笑うことが出来るでしょうか。
昨今の陰謀論も、自らのキャパシティを超える危機に対して自分たちが理解できるような説明を無理やり作り出したという点で、カーゴ・カルトと非常に似通っているのではないか。
そう思えてなりません。

またヨーロッパ人(そして日本人)が彼らにした仕打ちは、とにかく最悪です。カーゴ・カルトを笑う前に、ヨーロッパ人(そして日本人)がその土壌を作り出したことを知るべきです。

太平洋の島々で何が起こっていたのか

・白人による支配が原住民の反発を呼び、キリスト教の影響を受けた反白人運動を引き起こした。
・コプラ(ココナッツの胚乳)はニューギニアの特産品であり、原住民の多くはその生産に従事していたがヨーロッパの政治状況によりその価格は大きく変動した。そのため原住民は経済的に困窮し、白人の大規模プランテーションに吸収されていった。
・原住民はコプラの価格変動の要因が分からず(経済・政治状況の知識がないため)、宗教的な儀式によりそれを解決できると考えていた。
・原住民はキリスト教の教育を受けていたが、宣教師の教える隣人愛が自分達に実践されないため不満を持っていた。
・宣教師は宣教師であると同時に現地の資本家であり、原住民を搾取していた。
・労働者として集められた若者はそこで賭博・買春・同性間での性交渉を覚え、その刺激にハマった彼らは村に帰っても元の生活に戻れなかった。

宗教現象の事例

・ヴァイララ狂信という宗教運動には大きな柱が用いられた。盗みがあった時などに信者の男2人が柱の両端を担ぐと柱が自らの意思で進路を決め、罪人の家に辿り着くとされていた。しかし実は柱は指導者の指示によって動かされていた。
・狂信を初めて引き起こしたエヴァラという老人は、死んだ祖先を乗せ「カーゴ」を運ぶ蒸気船がやってくると預言した。カーゴにはライフル銃、小麦粉、米、タバコなどが白人ではなくパプア人のために分配されるとした。
・運動は古い宗教的慣習を撲滅し、
「テーブルに集まってヨーロッパ人のように行う宴」
「アヘア・ウヴィ(ahea uvi=熱い家)というキリスト教教会に似た神殿」
「パラッケ(parakke)という死者との交流に使う旗竿(死者は旗竿を経由して指導者にメッセージを伝え、メッセージは無意味な歌という形式で腹から出てくるとされた)」
という要素が新たに取り入れられた。

原住民は白人(及び日本人)をどう見ていたのか

・白人が全く労働をしていないにも関わらず、大量の物資を得て自分たちに分配しないのは、過酷な肉体労働に従事している原住民には不可解だった。彼らは「白人は怠け者であり、物資はどこかで死者の霊が作っていて、白人がそれを不当に利用している」と考えた。
・白人の持つ文明的な道具を、"怠け者の"白人が作っているというのが原住民には信じ難いことだった。
・ブカ島ではオーストラリア軍が去り、日本兵がやってくると、彼らこそがカーゴを運んでくる者だと思われて歓迎された。
・日本軍は畑の耕作作業チームを編成し、原住民は「これこそが白人の富の秘密だ」と感銘を受けた。
・原住民は日本軍を日本式の"おじぎ"で歓迎した。
・日本軍の強制労働や、でたらめな約束、盗難により原住民と日本軍の友好関係は破綻した。

発生した神話の例

・メラネシアにおける千年王国の神話にマンスレン神話がある。
『大昔、ミオク・ウンディ島にマナマケリという老人が住んでいた。マナマケリは酒が大好きだったが、酒が出来る大木から毎日酒を盗んでいる者がいることに気がついた。捕まえてみたところ、盗人は明けの明星クメセリだった。クメセリはマナマケリに"処女の胸に投げつけると妊娠して、投げた男の虜になる木の実"と"描いた物が本物になる杖"を授けた。マナマケリはインソラキという少女にそれを投げつけ、インソラキは子どもを産んだ。マナマケリは子どもの父親だと名乗らなかった。しかし子どもは産まれてすぐに言葉を話し、周囲にマナマケリが父親であると認めた。インソラキはマナマケリを責め、マナマケリは夫として相応しくないと悩み始めた。そして火の中に飛び込んだところ、古い皮膚が剥がれ落ちてマナマケリは若者の姿となり、古い皮膚は真鍮製の勲章と腕輪に変わった。マナマケリは船を描いて本物に変え、ビアク島に向かった。そしてマナマケリはマンスレン("主"(the Lord)の意)として知られるようになり、多くの社会集団と主要な家々と法律と習慣を作った。』
・マンスレン神話では、いずれ現在の社会秩序と自然秩序は逆転するとされた。芋類が樹上になり、果実が地中になる。海の生き物が陸に住み、陸の生き物が海に住むようになる、とされた。その時「宇宙全体が一つになる」とされた。
・タンナ島では長老派教会が支配的だったが「お祈りと讃美歌」だけの礼拝に不満を抱いた原住民は反教会的運動を起こした。
・彼らは白人と女性以外の集会を開き、「白髪で早口で輝くボタンのついたコートを着た神秘的な小男」ジョン・フラムの話をした。
・ジョン・フラムはタンナ島のトゥコスメル山のカラペラムンという神様の身代わりとして現れたと信じられた。

原住民の協同組合

・マレクラ島では、運動指導者が会合を開き、踊りをおどる傍らで経済的利益を得るための協同組合が組織された。
・その利潤は、商品を島民に分配し、学校や病院を建設するために使用された。
・島民はアメリカ人の物品の豊富さと鷹揚さに驚き、親アメリカ的になった。これは協同組合が盛んな地域で顕著だった。

総括

・千年王国的な思想は世界中に例がある。中国の太平天国の乱もそのひとつである。
・太平天国の乱はキリスト教の影響を受けて十戒を基にした教義を作った。
・近い将来に千年王国が到来し、今はその準備をすべきであるという運動は、社会のあらゆる階層、とりわけ抑圧された植民地の住民や、農民、封建時代の市民に支持された。
・千年王国運動は、一般に中央集権的な組織がない「孤立した集団」で発生した。また技術や科学的知識が欠けていたという点で共通している。
・運動の政治機能欠如と科学的知識の不足は、キリスト教教会の組織的活動により助長された。教会は教育を行うにあたり教科を限定していたため、原住民は政治的・社会的願望を満たす術を知らなかった。
・集団憑依、失神、幻想などのヒステリックかつ偏執狂的な現象は、欲望だけが増大し満たされない場合に発生する。

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